094:計り知れないもの

 コックピッドへと乗り込む。

 ハッチは自動で閉まり、俺はすぐにロイドを起こした。

 彼は今の状況を理解しているようですぐに戦闘システムを起動する。

 俺が両手を広げれば、展開されたガントレッドが俺の腕に嵌められた。

 下へと下ろしながら、疑似バーを掴み流れる情報を見つめる。


《全システムオールグリーン。何時でも出撃出来ます》

「武装は何がある」

《ライトニングパックの武装のプロトタイプとして製造された近接用大型超高周波ブレード”フォース”があります。肩部への武装として私がオススメするものはチャージ式の遠隔操作型シールドユニット二基と周囲一帯に広がる様に発生する攻守一体型のエネルギーフィールド生成器です》

「分かった。それをつけてくれ」

《畏まりました……後、腕部に単発で発射可能な”レーザーガン”を両腕にお付けします。これはまだ実用段階ではなく、発射可能弾数も片腕のみで四発までとなっています。ご注意を」

「……分かった」


 周りのアームが動き始めて、俺のメリウスに武装を取り付けていく。

 肩部には後ろに長い箱状になったそれにシールドとなるユニットが二つ刺さり。

 もう片方には輪っかのようなものが三つ重なったような形状の機械が取り付けられる。

 右がシールドで左が生成器だろう……これがフォースか。


 右隣のカーゴに乗って運ばれたそれ。

 長い大太刀のようなそれの柄を握れば、武装とのリンクが開始され数秒の内に終わる。

 隠れていた刃の装甲が展開されて、刃となる部分が剥き出しとなる。

 綺麗に磨き上げられた刀身には波紋のようなものが浮かび上がっていて。

 それは恐らく、激しい振動を加える事によって広がったものだろう。

 十メートルはありそうなそれを握り、俺の愛機はゆっくりと移動を開始した。


 収容されていたボックスが動き、そのまま台へと載せられる。

 脚部が固定されて、通信が繋がされたと思えばウッドマンさんの声が聞こえて来た。


《これより出撃シークエンスを開始します……準備はいいですか?》

「……問題ありません」

《分かりました》


 ウッドマンさんの声を聞きながら、俺はロイドと共にシステムの最終チェックを開始する。

 そうして、ヘルメットのシールドを音声コマンドによって展開。

 疑似レバーを握り、フォースを後ろへと構えながら中腰の姿勢を作る。

 そうして、スラスターを静かに点火しながら温めていく。

 ゆっくりゆっくりと温めながら、地下施設全体に広がる揺れを感じていた。

 このままではいつ崩落しても可笑しくない。

 俺が出て行って奴らを倒さなければ、皆が死ぬ事になる。


 

 それだけは――絶対に嫌だッ!


 

《射出用カタパルト異常なし。射出推力規定値を確認。進路クリア――アンブルフ、発進願います!》

「――行きますッ!」


 ブザーが鳴り響く。

 瞬間、台が上へと持ち上がり体にGを感じた。

 そのまま開かれた天井を突き抜けていき――機体を一気に飛ばす。


 地上へと出て、脚部の固定が外された瞬間に上昇。

 そのまま上空を飛行しながら、周りの状況を確認した。


 まだ、警備部隊のメリウスはいる。

 だが、そのほとんどがボロボロで――行くぞ!


 一気に加速し、敵の集団へと突っ込む。

 敵が此方を向こうとするが、もう遅い。


 俺は勢いのまま駆け抜けて、高周波ブレードで敵を斬りつけた。

 ブレードが作動し、敵のメリウスをバターのように両断する。

 残骸が周囲に飛び散り、遅れて爆発四散した。

 

 先ずは一機――来るッ!


 今の攻撃で敵が此方に気づいた。

 両手にガトリングガンを装備した敵であり。

 その銃口が此方へと向いて無数の弾丸が襲い掛って来た。

 俺はその弾道を見る事も無く、上への上昇で回避。

 そうして、機体を一気に旋回させながら、敵の射線を狂わせる。


 旋回し、そのまま進路方向を一気に変える。

 何度もジグザグのように飛行し、奴らが狼狽えている隙に――ブースト。


 一気に近づき、そのままブレードで斬りつける。

 敵はセンサーを激しく点滅させながら――爆散。


 仲間が殺された敵は、そのまま俺から距離を取ろうとする。

 別の仲間の元へと逃れるつもりか――そうはさせない!


 逃れようとする敵を追う。

 メインもサブもフルで使い飛行し、奴を執拗に追いかける。

 その先には警備部隊のメリウスと交戦中の敵機が五機。

 奴はくるりと此方を向き背面飛行をしながら射撃を行ってきた。

 瞬間、肩に格納されていたシールドユニットが二基とも飛び出し前方を飛ぶ。

 そうして、それらが俺へと向かう弾丸を弾いてくれた。


 俺は心の中でロイドに礼を言う。

 そうして、そのまま一気に加速し――ブレードを振るう。


 縦に振りかぶった一太刀。

 それは十五メートルのメリウスを真っ二つに切り裂いて。

 俺はその間を駆け抜けて、後方で起きた爆発を静かに聞く。


《援軍――ナナシかッ!?》

「ヨハン! 無事だったか!! 今助ける!!」


 五機のメリウスと戦闘しているのはヨハンだった。

 俺は一気に敵の群れへと突っ込んで行く。

 敵は周囲に散開し、俺とヨハンを狙って攻撃を開始した。


 全ての弾丸の軌道を見る。

 そうして、ブーストしながら回避。

 避けきれない弾はシールドユニットで弾き。

 そのまま俺は距離を離す奴らに接近しようとした。


 が、学習能力があるのか。奴らは此方のブーストを察知して自らもブーストする。


 絶対に間合いには入れないという意志を感じる。

 俺はそんな敵を見ながら舌を鳴らし――だったらッ!


 俺は大きく息を吸う。

 そうして呼吸を止めながら――加速。


 機体を限界まで加速させながら。

 俺は奴らの周囲を飛んだ。

 無数の弾丸が飛び交い、俺のすぐ近くを通過するが。

 その一つであろうとも、俺の機体を捉えることは出来ない。

 

 景色が瞬きの合間に流れて、一瞬で敵の位置が変わる。

 そんな中で目を動かしながら、敵の位置を特定し分析して――そこだ!!



 敵がブーストする瞬間。

 俺は連続してブーストを行い敵の背後を取る。

 奴らの動きを観察し、その避ける仕草を見抜いた。

 その結果、二機の敵メリウスは互いに至近距離に迫り――ブレードを横薙ぎに振るう。


 大ぶりで振り抜いたそれが、一刀のもとに二つの金属の塊を凪ぐ。

 上半身と下半身が別たれたそれは空中でくるくると回り――爆発した。


 全身に爆風を浴びながら、一気に加速し煙から出る。

 そうして、ヨハンが引き付けている敵へと接近し――横にブースト。


《――!》


 俺が迫ろうとした敵の背後。

 そこへと目掛けて弾丸が放たれた。

 撃ったのは地上にて残骸に紛れて隠れ潜んでいた伏兵で。

 俺はそれを認識し笑みを深めて、一気にそいつへと迫る。

 逃げようとするが、既に間合いだ。


「シィ!」


 俺は一気にブレードを振るう。

 そうして、そいつのコックピッドを狙うように突きを放つ。

 ずぶりと刺さったそれから感じる感触は――妙だ。


 ブレードを抜き放ち、沈黙したそれから離れる。

 視線をヨハンに向ければ、焼夷弾で敵を焼き。

 その隙にライフルによる集中攻撃で敵を破壊していた。


 残りの三機も彼が撃墜した様で……やはり強いな。


《はぁ、はぁ、はぁ……これで、何機目だ……どんだけいやがる》

「……ヨハン、こいつらは」

《分かってるよ……手応えがまるでない……まるで、”人が乗っていない”みてぇにな》


 ヨハンも気づいていたようであり。

 俺は頷きながら返答する。

 恐らくは、これらの敵は無人機で。

 何処かから指示を出しているコマンダーがいる筈だ。

 それをヨハンに伝えれば「そいつを潰さない限りは終わらねぇな」とぼやく。


「……生存者を探しながら、コマンダーを探そう。そして」

《――避けッ!》

 

 ヨハンが声を張り上げた。

 俺は本能的に体を動かして機体を一気にずらした。

 その瞬間に、遠方から何かが勢いよく飛来し――ヨハンの機体の半分を削る。


 俺はヨハンの名を叫びかけた。

 しかし、その前にヨハンの背後に現れた敵が――ヨハンの機体を斬り伏せる。


「――ッ!!!」


 ヨハンの機体が真っ二つになる。

 コックピッドを目掛けて狙った攻撃で。

 ヨハンの機体はセンサーから光を消して落下していく。

 残骸が地面に転がり、俺はそれを見て――機体を加速させた。


 ブレードを振るう。

 全力で振るったそれを、敵のメリウスは難無く自らのブレードで受け止めた。

 互いの剣がかち当たり、バチバチとスパークを起こしていた。


 他の敵メリウスと変わらないデザイン。

 違いがあるとすれば、こいつのスラスターは他の奴と違って大型のバックパックを背負っている。

 円形の頭から見える緑色のセンサーは俺を捉えていて。

 勢いのまま振るったそれが俺を弾き飛ばした。


 俺は姿勢を安定させながら、奴の周囲を飛ぶ。

 違う。こいつの纏う空気は他とは違う。

 確実にこのメリウスが――コマンダーだ。


 こいつを倒せば、この事態は収束する。

 そう確信し、俺は死角から奴へとブーストで接近し――ッ!?


 奴の機体が消えた。

 レーダーからも一瞬で反応が消えて――横へとブースト。


 先ほどまで立っていた場所に弾丸が通過する。

 チラリと見えたのは背後に移動した敵の姿で――どうやって。


 想像できないほどの機動力。

 いや、それだけじゃなくメリウスを手足のように操っている。

 自らの駆る機体を自分の体のように扱えなければ音も無く俺の背後に立つ事なんて出来る筈がない。


 つぅっと汗が流れる。

 俺は呼吸を安定させながら、奴から感じる強烈なプレッシャーに耐えた。


 感じる。奴から途轍もない力を。

 これはまるで、碧い獣やあの漆黒の暗殺者のようで――来るッ!!


 敵の像がブレた。

 そうして、一瞬にしてその場から消えた。

 耳に神経を集中――僅かに聞こえた。


 火の音や弾丸の音に隠れるように、風きり音とスラスターの音が。

 それを聞きながら、俺は機体を旋回させて上へと上昇。

 そうして、そのまま横にブレードを凪ぐ。

 すると、またしても一瞬で背後に立っていた敵に俺のブレードが当たる。


 が、奴は俺の攻撃を予測していたようで自らのブレードで受け流してきた。

 姿勢が乱れて、奴はそんな俺に銃口を向けて――シールドユニットが奴へと攻撃をする。


 背後から近寄ったそれが、奴の機体を貫こうとした。

 しかし、奴は死角から迫ったそれを察知し。

 機体を一気に上昇させて回避。

 そのまま牽制目的で俺へと弾丸を放ってきた。


 ユニットたちが俺を守り、弾丸は全て弾かれた。

 俺は奴を追いながら、ギュッとブレードを握る。

 奴はそんな俺を背面飛行でジッと見つめて――おちょくっているのか?


 まるで、遊ぶような動き。

 此方の反応を楽しむような飛行で――その余裕を終わらせてやるッ!!


 俺は一気に機体を加速させた。

 体全体に負荷が掛かり、気圧が自動で調整されて。

 奴と共に上空へと飛行しながら、ブレードで斬りかかる。


 変則機動で奴の視線をかく乱しながら。

 四方八方から斬りかかった。

 下からの切り上げ、横からの薙ぎ払い。

 フェイントを混ぜ合わせてからの背後からの切り払いに――奴は全て反応した。


 何度も何度もブレード同士が当たり、激しいスパーク音が鳴り響く。

 分厚い雲の中へと突入し、視界が悪くなっていく中でも攻撃を続行。

 が、奴は俺の攻撃を完全に見切っていて、全てを軽く受け流していた。


 余裕だ。ずっと余裕であり――最高にムカつくよ。


 俺は笑みを深めた。

 そうして、一気に雲を突き抜けて奴のブレードを弾く。


 互いに距離を取りながら、月光の中で舞う。

 奴はライフルで攻撃を行ってきて、俺はそれらをシールドで弾く。

 そうして、奴の隙を伺い――ブースト。


 一気に奴の正面に躍り出て――更にブースト。


 連続してブーストを行い機体を回転。

 奴の背後に回り、そのまま奴を斬りつけて――弾かれる。


「――ッ!?」


 ブレードですらない。

 奴はブレードの柄で、正確に俺の刀身の側面を叩いた。

 そうして、軌道を逸らされた俺のブレードは奴の頭部スレスレを通過し――怖気が走る。


 命の危機。心臓を掴まれたような感覚。

 スローモーションに感じる世界で、奴の視線を浴びながら。

 俺は心臓の鼓動を急激に早めて――体が動く。


 サブスラスターの一つ一つを一瞬で調整。

 そのまま全力で噴かせて、機体を縦に回転させた。

 敵はブレードで俺の機体を斬りつけようとしていた。

 が、一瞬の判断で咄嗟に動いた俺の機体は胸部を軽く抉られるだけで済んだ。


 鉄が蒸発するような音を聞きながら。

 俺は手を動かして、奴の肩部を掴む。

 そうして、そのまま奴の上で回転しながら――レーザーを撃つ。


 ゼロ距離での射撃。

 奴の肩部に添えられたそれから放たれたレーザーは奴の肩を大きく抉った。

 致命傷ではない。碌な狙いもつけなかったせいで、肩の装甲を抉っただけだ――が、ダメージを与えてやった。


 俺はそのまま奴から距離を取る為にバックパックへ蹴りを放つ。

 奴は前方へと機体を弾き飛ばされながらも、姿勢を安定させて此方を見つめてくる。

 武器を持った手で軽く抉られた肩を撫でながら、奴はジッと俺を見ていた……何だ?


 

 声が響く。男の声であり――ぞくりとした。

 

 

《……素敵だ……もっと見せてくれ。ナナシ君》

「――俺の名前を――ッ!?」


 

 至近距離に奴が迫る。

 そうして連続しての攻撃を仕掛けて来た。

 振られた攻撃の一つ一つを感覚で捌いていく――速いッ!!


 今までの攻撃とは比べ物にならないほどの速さ。

 目で見てからの対応では遅く。

 全てを捌く事は出来ず、装甲が裂かれてシステムが警告を発してくる。

 咄嗟にシールドユニットが間に入り、奴を俺から強制的に引き剥がす。

 俺はその隙に奴から逃れて、一気に地上へと降下していった。

 

 今までの様子を見るような戦い方から一変。

 人が変わったように攻撃的となり――クソッ!!


 奴は当然ながら追って来ている。

 雲の中へと入れば奴を視認する事は出来ない。

 システムが警告を出す前に機体を操作して回避。

 スレスレに弾丸が通過していく様が、ひどく心臓に悪い。


 俺は呼吸を大きく乱しながら、ぼたぼたと汗を掻く。

 機体内は温まっており、心地よい筈の熱は灼熱のように感じて――もっとだ。


 こんなもんじゃない。

 戦いは、闘争は――この程度のものじゃない。


 緊張感が高まり、心臓の鼓動は早まる。

 俺は静かに口角を上げながら、迫りくる獣を認識して――”黒い炎”を滾らせた。

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