第63話 新制度

 ――サイハテ領、とある居住区。


「――ふぅ。こんなもんか」


「アンタまた畑をやろうとしているのかい?」


「なんだ母さん。野菜食べたくないのか?」


「違うよ。どうせ盗賊たちが荒らしてくだけだから意味ないって言いたいんだ」


「でもよ、ここ最近は来てないだろ? 安い重労働しに、別の領地に行く必要もなくなるだろ」


「それはそうだけど」


「だろ? 最悪誰かが攻めてきても、武器は調達できたし、今度は追い返してやるさ」


「……」


「――盗賊だー! 盗賊が来たぞー! 男は武器を持てー!」


「げっ、話をしたらこれかよ」


「本当に大丈夫なのかい!」


「任せとけって。俺は盗賊やっつけて、畑も育てて、お前を楽させたいんだからさ。安心して待ってろって」


「アンタって奴は……」


「じゃあ行ってくるか!」


「――盗賊が倒されたぞー!」


「「……へ?」」




◇ ◇ ◇




「――あ、ありがとうございますっ! えーっと……。お名前を教えていただけないでしょうか?」


「――このサイハテ領の領主、リンドラと言う」


 領主という単語を出すと、感謝をしに寄ってきた居住区の人たちが、ざわざわと騒ぎ始めた。


 まあ突然新領主がやってきて、ちょうど襲いに来た盗賊を倒して捕縛したら驚くよな……。


 俺はカロンが意識を失っている間に、次の日から動ける兵士をまとめ、まだ訪れたことのない居住区に足を運ぶことにした。

 シンプルに、早く居住区の人たちと接触を試みたいという考えがあったが、俺が誰かから狙われているのならば、情報網をどんどん広げるべきだと考えたからだ。

 カズキの情報は高いから、安い情報は自分で集めなければいけないしな。

 

「助かりましたが、新しい領主様が、一体どんな御用で……」


 その居住区の代表と思える男が、機嫌を害さないようにか、申し訳なさそうに聞いてきた。


 やっぱ前の領主に良いようにされてたんだな……。


「安心してくれ。前の領主のようなことはしない」


「え……?」


「色々話したいことがある。代表は貴方で間違いないか?」


「は、はいっ。このカノシズカ居住区の代表は私、アノルです」


「よし。ではアノル。どこか、ゆっくり話せる場所はあるか?」


「で、ではっ、私の家に案内します! こちらへどうぞっ」


 アノンは、周囲に集まっていた人たちをはけさせ、自分の家に案内を始めた。


「捕縛した盗賊を監獄に連れていけ」


「はっ!」


 俺は連れてきていた半分の兵士に指示を出し、運搬用の馬車数台に、捕縛した盗賊を乗せさせた。

 もう半分は、入れ替えるように、馬車から大荷物を運び出し始めた。


「よし。お前たちはついてこい」


「「はっ!」」


 そして俺は、近くにいた兵士2人を連れ、アノンについていった。




◇ ◇ ◇




「――ここです」


 家の前まで案内してもらうと、俺は兵士2人に、家の外で待機するよう指示を出し、家の中に入った。


「も、申し訳ありません。食事用の椅子しかなくて……。そのっ――」


「構わない。私は貴方と話がしたいのだ。変に着飾られるより話しやすくていい」


 俺は気にすることなく、食事用の椅子に座った。

 それを見たアノンも、慌てて机を挟んだ椅子に座り、俺と向かい合った。


「まず、急に訪れたことはすまない」


「いえいえっ。襲撃から助けていただきましたし、我々としては何も問題はないです」


「そうか。それで今日ここに足を運んだ理由はな――」


 俺は、ここに来た大きな理由である、あの大荷物のことについて話した。


「――あの荷物に長期保存できる干し肉。野菜と同じ栄養価の植物。その種。魔物除けのランタンまで!? い、いいんですか?」


「ああ。見たところ、畑の跡がたくさんあるようだし、すぐに生活が安定するはずだ」


「で、ですがっ。我々が何かお返しすることは……」


「大丈夫だ。生活が安定するようになった時に、何か頼むことにする」


「あ、ありがとうございますっ!」


 アノンは頭を下げて礼を言った。


「いい。今まで何もできなかったからな。これぐらいはさせてくれ」


「領主様……」


「あっ。1つだけいいか?」


「は、はいっ。可能なことであれば……」


「――郵便制度を作ろうと思っているんだ」




◇ ◇ ◇




「――ありがとうございました!」


 俺は居住区の人たちに見送られ、兵士たちとその場を離れた。

 あの後、『郵便制度』のことを話すと、アノンは快く承諾してくれた。

 新しい試みだが、互いに要望、報告があれば、郵便を使って連絡するというものだ。

 その為に、郵便ポストの設置するよう頼み、紙とペンを多めに手渡しておいた。

 すべての居住区にこの制度を設けようと思っているので、週に1回は担当の者が出向くようにしたい。

 つい思いついたが、情報網を張るにしても、とっておきの制度になるはずだ。


「――次はどこだ」


 馬に乗って移動する中、近くの兵士に、ここから近い居住区はどこか聞いた。

  

「はっ。ここから南、つまり真っすぐ進んでいけば、モンバ居住区があるはずです。規模はカノシズカよりやや大きいかと」


「分かった。今日はモンバ居住区で切り上げよう」


 俺は残りの荷物を確認し、モンバ居住区で終わってしまうと察したので、今日は底で切り上げようと、皆に伝えた――。


※ すいません! 最近中々執筆できず、お待たせしてすいません!

  現在、次の展開を模索中です。

  不定期ですが、今後ともよろしくお願いいたします!

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