第55話 狩り


 屋敷近辺――。


「――ハァ、ハァ、どうした! バテちまったかぁ?」


「フゥ、フゥ、お前ウザイ! 本当にッ!」


 バーンとカーリィの戦いは続いていた。

 カーリィが俊敏な動きでバーンを攻撃しているが、バーンは翻弄されずにすべで躱している。


「ガアアッ! なんで当たらなイ!」


 体力があるカーリィは、怒りに任せて攻撃を続ける。


「当たんねぇよっと」


 しかしバーンは、牛を華麗に躱す闘牛士のように立ち回る。


「なんでなんでなんでダァ!」


 鋭利な爪で、牙で、バーンを攻撃し続ける。

 もちろん、バーンは躱し続ける。


「魔物ってのはなっ、怒れば怒るほど、動きが単調になんだよッ!」


 バーンは、飛び込んできたカーリィを避け、右足に剣で傷を与える。


「グッ……! ガアアッ!」


 しかし怯むことなく、バーンの右足に攻撃を仕掛ける。


「そして、相手より自分の方が強いと証明したいが為に、変に張り合おうとするッ!」


 ひらりと躱し、背中に大きい傷を与えた。


「グッ……ガアアッ!」


 流石に傷が深かったのか、カーリィは叫んだ。


「フゥ、フゥ、フゥ……!」


 カーリィは息を切らしながら、バーンを睨みつける。


「深手を負って、一度でも勝てないと思った魔物はどうすると思う?」


「ッ……!」


 カーリィは回れ右して、西の方角へ走り出した。


「――そう。逃げるんだよ。そうなったらもう俺の勝ちだ」


 足取りがおぼつかないカーリィを、バーンは歩いて追いかける。


「ハァッ! ハァッ! ガッ……!」


 カーリィは、矢を刺されたガウの死体につまずいて、転んでしまった。

 すぐに立ち上がることができず、這ってでも逃げようとする。


「相性が悪かったな……」


 バーンはカーリィの目の前に立ち塞がった。


「アッ、アアッ……」


「対人戦しかしていない奴からしたら、魔物みたいな動きをするお前は厄介だろうな。だが、こちとら魔物の研究しているだけあって、その動きの方が楽なんだよ」


「う、嘘ダ……」


「だからな、これ戦いじゃなくて狩りだから」


「ガッ――」


 バーンは剣を振り下ろし、カーリィの首を飛ばした。

 相性が良かったバーンは、あっさりとカーリィを倒してしまった。


「フゥ……。ってこんなこと言ってる場合じゃねぇ! さっきからボスが監視塔の上に見えない……。何か起こったに違いない!」


 バーンは剣を抜いたまま、監視塔に向かって走り出した。


 このバーンの勝利によって、西の戦いは、ほぼ勝利したと言っても過言ではない。




◇ ◇ ◇




「――ヤバッ」


 ジャッカルは宙に舞っていた。

 監視塔は地面からかなりの高さがある。

 着地に失敗したら、戦いに復帰できない怪我を負ってしまう。


「――ボスッ!」


 部下は上を見上げ、落ちてくるジャッカルを視界に入れた。

 そしてなんとか受け止めようと、落下予想地点に移動しようとするが、敵兵が邪魔だ。


「クソッ! こんなところで……!」


 ジャッカルは空中で体勢を直し、監視塔に足を向けた。

 そして矢を取り出し、右手に握りしめた。


「終わってたまるかぁっ!」


 ジャッカルは思い切り監視塔を蹴った。

 そして落ちる軌道をずらして、敵兵に向かって突っ込んだ。


「そんなのありか――」


「――ハァッ!」


 その勢いのまま、ガウに乗った敵兵の胸に、右手に握りしめた矢を突き刺した。


「グハッ……!」


 そしてそのまま、敵兵と共に地面に倒れ込んだ。


「ハッ、ハッ、ハッ……!」


「グルルル…………バウッ!」


 しかし、敵兵が乗っていたガウ、倒れ込んだジャッカルに噛み付いてきた。


「くっ……!」


 ジャッカルは咄嗟に、弓を持っている腕での防御する。

 部下は間に合いそうにない。


「ガアッ!」


 ガウの牙がジャッカルの腕に触れたその時――。


「――オラアッ!」


 ガウの首がはねられた。


「あっ――」


「ふぅ。無事だなボス!」


「バーン……!」


 ジャッカルの危険を救ったのは、走ってきたバーンだった。


「お前ハ!? カーリィさんはどうしタ!」


「カーリィ? ああ、向こうにいるぞ。頭と胴が別れちまったけどな」


「何だト!?」


「おいお前ら! 困惑してるうちに倒し切るぞ!」


「はっ!――」


 バーンが来たことで、勢いはこちらに来た。


「バーン。アイツは本当に倒したのか?」


 ジャッカルが一応確認してきた。


「ああ。おかげさまで」


「そうか……いッ!」


「どうした!」


 よく見ると、ジャッカルの腕から血が流れてお互い

 ガウの牙が刺さったのだろう。


「大丈夫だ。それよりっ、上で戦況を見なければっ」


「おいおいっ。その腕じゃ矢を引けねぇだろ。屋敷で処置するぞ」


 バーンは屋敷で応急処置をするよう促した。


「……くっ、分かった。だが1つだけいいか?」


 ジャッカルは腕が痛まないように立ち上がり、バーンにあることを頼んだ――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る