第54話 短期決戦・長期決戦


 東の方角――。


「まさかこれで終わりではないだろうな!」


「ば、化け物かお前!」


 ゾルタックスとバートの戦いは、ゾルタックスが圧倒していた。


「(攻撃の数は俺の方が圧倒的に多いんだぞ! 傷どころか、バテさすこともできねぇなんて……!)」


「ハハハッ! 怪力なのは防御して分かったが、今まで一撃で倒していたのか、攻撃も動作が単調。しかも余程の体力を使うようだな? 汗が滝のように流れているぞ」


 ゾルタックスは、バートの戦闘スタイルを見抜いていた。


「(クソッ! 今まで戦ってきた奴らは、一撃入れれば、死ぬかビビるかの二択しかなかった……。だがコイツは違う!)」


「チッ……!」


 バートは汗を拭って、金棒を前に出す。


「まあ、そう言われて引く訳には行かねぇよなぁ」


 ゾルタックスは斧を振り上げた。


「(来るっ……!)」


「フンッ!」


 ゾルタックスは斧を垂直に振り下ろした。


「ぐっ……ぬぬぬぬっ!」


 バートは金棒で斧を受け止めた。

 しかし、押し返すことはできず、ただ耐えていた。


「どうした。先程の貴様ならば、簡単に押し返しただろう?」


 ゾルタックスはさらに力を加える。


「なぜだ。こんなはずじゃ……!」


「貴様は所詮、井の中の蛙。戦士ではなく盗賊だった。それだけのことだ」


「なん……だと!」


 少しずつ斧が金棒を押し、バートの肩に刃が触れる。

 触れた箇所から血が垂れてくる。


「ヒッ……!」


 ――しかし、もう一押しというところで、ゾルタックスは力を抜いて、斧を引いた。


「……は?」


 ゾルタックスはそのまま、意図が見えないバートと、少し距離をとる。


「このまま押し切られて死ぬなど、屈辱でしかないだろう? だから――」


 ゾルタックスは、引いた斧を振り上げた。

 しかし、いつもとは違い、後ろに振りかぶるように斧を構えた。


「――我が奥義で沈めてやる」


「なっ、ちょっと待て!」


 バートが手を前に突き出し、攻撃をやめるよう叫ぶ。

 しかしゾルタックスは無視して、斧を赤く染めた。


「ク、クソッ! やってやらあっ!」


 覚悟を決めたバートは、金棒を振りかぶって、ゾルタックスに向かっていった。


「――【烈火斬れっかざん】」


 バートが間合いに入り、振り下ろした金棒目がけて、赤く染った斧を振り切った。


 ――あっという間にバートの金棒は粉々になり、体は爆発と共に、斜めに大きな切り傷を負って、遠くに飛ばされた。


「逃げずに向かってきた根性は認めよう。あと体の分厚さもな……」


 真っ二つにするつもりだったのか、少し悔やむような声でそう言った。


「――うおおおおおっ!!!」


「――敵将を討ち取ったぞー!」


 ゾルタックスが、バートを倒したことで、味方の士気が一気に上がった。


「――う、嘘だろ……?」


「――あのバートさんが……」


 逆に敵軍は、バートが倒されたことにより、士気がガクッと落ちた。


「ハーッハッハッハッ! 敵の士気が下がったぞ! 叩け!」


 その機を逃さまいと、ゾルタックスは味方に発破をかけた。


「――うおおおおおっ!!!」


 士気が上がった第1軍は、敵軍に向けて、攻めの姿勢を取った――。




◇ ◇ ◇




「――マジかよ」


 カロンは目の前の光景を見て、そう言った。


「フゥ……。部下に戦わせていないで、貴様も来い」


 ルシアは、たった1人で、カロンの部下を次々に倒していた。

 しかも無傷で。


「どうしますかカロンさん! めちゃくちゃ強いですよ!」


 先程のカロンの部下が必死に訴える。


「どうって……。頑張るしかないだろ! お前も早く行け!」


「ええ!? 俺が行っても瞬殺…………なんかこっち来てません?」


「ん?」


「――もういい。こっちから行くぞ!」


 ルシアはとうとう、離れた位置で観ていたカロンに向かって、走り出した。


「チッ! やるしかねぇか!」


 カロンは両手にサーベル剣を持ち、クロスして構えた。


「お前! 今から俺の言った通りの動きをしろ! いいな!」


「えっ。は、はい!」


 カロンはその部下に指示を出し、自前の剣を構えさせた。


「(なんだ? 何を考えている?)」


 ルシアはその仕草に警戒しながら、カロンに向かって、右から左に剣を振った。


「……ッ!?」


 カロンはサーベル剣をクロスさせたまま、ルシアの剣を受け止めた。


「(ぐっ……。振り切れない!)」


「今だ!」


 カロンがそう叫ぶと、ルシアから見ると左方向から、先程の部下が剣を振ってきた。


「こ、これは……!」


 ルシアはすぐに剣を引き、カロンの部下の攻撃を避けた。

 そのまま少し距離を取った。


「ハッ。迷わず引いたか……」


 カロンは悔しそうな表情でそう言った。


「あれ? 無傷だ……」


 カロンの部下は不思議がった。


「――1人が攻撃を受けて、もう1人が反撃する。対1人の戦いとしては立派だな」


 ルシアはカロンにそう言った。


「理解が早いな。その通り。俺がお前の攻撃を止めたら、コイツが代わりに反撃する。お前が反撃できない方向からな」


「あっ。そうだったんですねっ」


「分かってやってなかったのかよ」


「(面倒だな……。攻略に時間がかかりそうだ)」


「おいおい。考えてる暇は与えねぇよ」


 カロンがそう言うと、他の部下たちが、再びルシアを襲いだした。


「チッ……!」


 ルシアは舌打ちをしながらも、敵を難なく倒していく。


「いいぞいいぞ。このまま俺に夢中になれば――」


 カロンは不敵な笑みを浮かべた。


「えぇ……」


 その部下は、カロンの笑みを見て少し引いていた。

 

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