第51話 ぶつかる


「――く、来るぞっ!」


「――ボスに近づけさせるな!」


 敵兵が俺の前に立ち塞がってくる。


「そこをどけぇ!」


 俺は剣で敵兵を斬り倒しながら走っていく。


 もう振り返らない。

 俺はアイツを倒すことに専念する!

 

「うおおおおおっ!!」


 俺は勢いを落とすことなく、ノルチェボーグに近づいていく。


「――フフフッ……。お前ら道を開けろ! 俺の獲物だ!」


 ノルチェボーグは俺との一騎打ちを望み、部下に道を開けるよう叫んだ。

 部下はすぐさま道を開けた。


「ノルチェボーグ! 貴様を倒す!」


「やれるものならやってみろ!」


 ノルチェボーグがそう返すと、足元の地面が盛り上がり、土を媒体としたトゲが何個も出現した。


「土魔法。【露岩の流星ろがん りゅうせい】」


 そのトゲが一斉に地面から放たれ、俺に向かって、弾丸のように飛んできた。


「ッ……! 風魔法。【妖精の加護】ッ!」


 俺は体に風の鎧を纏い、動きを早くし、防御力を上げた。

 そして次々に飛んでくる土のトゲを躱し、剣で弾き、速度を落とすことなく、ノルチェボーグに近づいていく。


 1週間で、風魔法の扱いの練度を上げることができたが、威力はそこまで上がったわけではない。

 どちらかというと、コスパが高くなったと言った方がいい。

 周囲を気にしなければ、何個も同時に使うことができるだろう。


「ハアアアッ!!」


 だからこそ、【黒風白雨こくふうはくう】はここぞって時まで取っておきたい。


「――ほぉ。避けるか」


 ノルチェボーグは、感心しながら剣を引き抜いた。


「ハアッ!」


 俺はノルチェボーグの間合いに入り、剣を上から下に振り下ろした。


「ヌンッ!」


 ノルチェボーグも迎い入れるように、剣を振り下ろした。


 ガキンッ! と思い金属音が辺りに響いた。


「フフフッ。楽しませてくれよ?」


「もちろんだ。冥途の土産に楽しませてやるよ……!」


 こうして、南の方角の大将同士の戦いも、ついに始まった。




◇ ◇ ◇




 監視塔――。


「ぶつかった。西も東も……。だが、西がかなり危険だ……な!」


 監視塔にいたジャッカルは、東の方角に向けて、赤い羽根の矢を放った。

 矢を真っすぐ飛び、東の味方の軍の背後に突き刺さった。


「一番余裕があるのは東だ。と言っても、少ししか兵を借りれないか……」


 刺さった矢に気づいた東の軍は、数人の歩兵が北の門に走り始めた。

 なぜジャッカルが監視塔にいるのか。

 それは、全体の戦況を見て、不利と見えた方角に兵を補充する指示をする役割を担っているからだ。


「私も早く参入したいんだが……」


 ジャッカルは爪をガリッと噛んで、悔しそうな表情をした。




◇ ◇ ◇




 東の方角――。


「――フハハハハッ! こんなものかっ!」


 ゾルタックスは、どんどん敵兵を薙ぎ払っていく。

 ゾルタックス率いる第一軍も、どんどん敵を倒していく。

 敵の騎兵も、あと少しで倒し切るというところまで来ていた。


「――そろそろ落ち着いてもらいたいっすね!」


「何者――」


 ゾルタックスは、頭上から降ってきた何かを即座に防御して防いだ。

 しかし衝撃は抑えられず、ズザザと後方に弾かれた。


「なんという力だ……」


 ゾルタックスは、攻撃された方に目をやる。


「チッ。ぺしゃんこにしたつもりだったんだがな」


 そこには、金棒を振り下ろしたバートが立っていた。


「ほぉ。デカいな」


 防御を解いたゾルタックスは、少し目線を上げた。


「騎兵と戦ってたんだから、同じようなもんでしょ」


 バートは金棒を振り上げ、戦闘態勢に入った。


「それもそうか。怪力だけの木偶の坊の可能性もあるしなぁ!」


 ゾルタックスは歯ごたえがありそうな敵に興奮して、攻撃を仕掛けた。


「ハッ……。叩き潰してやるよぉ!」


 ゾルタックスとバートの激しい戦いが始まった。


「――どうだ? カロンは見えたか?」


 ルシアと直属の部下が、口元を手で覆って話をしている。


「いえ、まだ姿を見せません」


「見つけたらすぐに報告するように」


「はっ」


 部下はルシアの元を離れた。


「(右と左に分かれた歩兵の軍。カロンの指示が通りやすい方が壁を突破してくる本体に違いない)」


「どこだ……?」


 ルシアも二手に分かれた軍に潜んでいるが、なかなかカロンを見つけられない。

 その時だった――。


「――右だ! 右の敵軍が速度を上げてきたぞ!」


 味方の歩兵がそう叫んだ。

 村から見て右側に展開した敵軍の足が速くなったのだ。


「マズいな……」 


 ルシアは焦り始めた時、直属の部下が走ってきた。

 

「いました。右側後方です」


「本当か?」


「確かに」


 どうやら、速度を上げて兵と兵の間が空いた時、カロンの姿が見えたようだ。


「よし。半分は俺について右側に。もう半分は左側に。何かあれば逐一報告するよう伝えろ」


「はっ」


 指示を受けた部下は、ルシアの元を離れた。

 ルシアも右側に移動を始めた。


「隙をついてカロンの首を取ってやる……」


「――まっ。俺のいる軍は執拗に攻められるだろうな」


 カロンは自分が右の軍にいることはバレていると察していた。


「俺も全力で出さないと、もしかしたらもしかするかもな。よしっ――」


 カロンは、歩幅を広げた軍を追い抜かすように、後方から前方に移動を始めた。


「――全力で、演じないと・・・・・な」


 カロンは不敵な笑みを浮かべた。

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