第45話 奇策


「――敵の情報を細かく教えろ!」


 ルシア、ジャッカル、バーン、ゾルタックス、カショウの6人を会議室に集めた。

 そして村の周囲が分かる地図を机に広げ、軍議を始めた。

 かなり前にルシアが描いてくれたものだ。


「報告します! 西の方角からは――」


 東西南北に配置していたジャッカルの部下からの報告を元に、地図に敵軍を表した駒を置いてみる。


「――各盗賊の3つの軍に別れていますね」


 駒を置いたルシアはそう言った。


 上から見てみると、屋敷の正面である南にはノルチェボーグの軍。

 西にはケビルドンの軍。

 東にはカロンの軍が配置されていた。


「多分、一緒に戦うと連携がとれないんだろう」


 ジャッカルの言う通り、盗賊同士が協力することですら珍しいのに、連携をとるなんて無理な話だ。


「ではこれを見て、どのように迎え撃つかだな」


 バーンは俺らを表す駒を、地図の中央に置いた。


「予想より1日ずれたおかげで、防御壁も監視塔も完成した。門は北と南にある」


 オオヅチたちのおかげで、急ピッチで建設を完了してくれた。


「まあ本命は、南側の門だろうな」


 ゾルタックスはそう言った。


「そうだな。ではリンドラ様。この南に兵を多くして、西と東は弓矢で迎え撃つのはどうでしょうか?」


 ルシアは、門がある、本命の南は歩兵でぶつかり、壁がある西と東は弓兵で対応するのはどうかと提案してきた。


「……いや、カロンの軍。東の方角に歩兵を多めに配置しよう」


「えっ!?」


 俺の提案に、ルシアは驚いた。


「いくら盗賊同士で連携をとれないとしても、何か仕掛けてくるはずだ。だったら、頭であり首謀者のカロンには、あまり動かれない方がいいと思うんだ。そして、残りの兵を南と西に配置するわけだが――」


「――ハハハッ! 面白い! 乗ったぞ我は!」


 ゾルタックスは大声で笑い、俺の作戦に乗ってくれた。


「だが、敵も俺らの配置を見て変えてくるんじゃないか?」


 バーンは不安そうにそう言った。


「大丈夫だ。その為に監視塔とジャッカルがいるんだ」


「ん? 私か?」


「ああ。今から言うことを徹底してほしい。各自の配置もハッキリさせる――」


 俺は駒を使い、全員の配置を決めた。

 全員が配置につくと、ついにその時がやって来た。




◇ ◇ ◇




「――よし。全員配置についた」


 ジャッカルは監視塔の上から、迎え撃つ準備ができたことを確認した。

 本人は戦いたかったが、リンドラの指示で、いざという時まではあることを頼まれていたのだ。


「どこから仕掛けてくる……?」


 敵は行軍を一旦止め、開戦を今か今かと待っているように見えた。


「――持ってきました! 羽が赤い矢です!」


 ジャッカルの部下が監視塔に登り、赤い羽根の矢がたくさん入った籠を持ってきた。


「そこに置いておけ。アイツの指示でここにいるが、いざとなったら共に戦いに行くからな。準備しておけ。下の奴らにも伝えておけ」


「はっ!」


 監視塔の下には、ジャッカルの部下が数人配置されていた。


「……ん?」


 ジャッカルが再び敵を見ると、違和感を感じた。


「ッ……! 動いたッ!」




◇ ◇ ◇




「――進め」


「おおおおおおおっ!!!」


 最初に動いたのは、ノルチェボーグの軍だった。


「――き、来たぞ!」


 南の門の前に構える我らの軍は、各々武器を握りしめた。


「――恐れるな! 策がハマれば、勝利は我々のものだっ!」


 そう言い聞かせたのは、他でもない俺、リンドラだった。


 ノルチェボーグの軍の兵は、約150人。

 それに対し、迎え撃つ南の兵は、俺とスーが率いる47名。

 約3倍の兵の数を相手する。


「バーンから貰ったアレ・・は設置したか!」


「はっ! あの位置に設置しました!」


 俺の問いに対し、兵士は前方を指さした。


「よし。弓兵も準備していてくれ!」


「はいっ!」


 後方の弓兵に顔を向け、声がけをする。


 弓兵は15人。

 歩兵は俺とスーを入れて34人。

 こちらに騎兵はいない。

 

 敵は騎兵を先頭に、その後に歩兵が走ってきている。


「スー。いつ火の矢・・・を放つかの判断は任せた」


「ん」


 スーに弓兵が矢を射るタイミングを任せる。


「――歩兵! 2人1組になり! 武器を構えろ!」


 歩兵のほとんどが、余った木材で作った木の盾を片手に、各々別の武器を構える。


「領主様。この鉄球は……?」


 歩兵の1人が、転がっている2つの鉄球について聞いてきた。


「ああ……。鍛錬ように使ってたんだが、今回武器として使ってみようと思ってな」


「武器として……?」


「まあ見とけ――」


 俺は風魔法で、転がっている鉄球を浮かしてみせた。

 1週間で、鉄球もフワフワと浮かすことに成功できている。


「――ギャハハッ! 蹴散らせ!」


 敵の騎兵が槍を片手に迫って来た。


「行っけええええ!!」


 俺は大きく振りかぶり、風魔法で浮かした鉄球を、先頭の騎兵に向かって投げつけた。


「――おいおいっ! 俺たちだけで片づいちまうんじゃっ……バハァッ!」


 見事、先頭の騎兵に鉄球が命中し、馬上から吹っ飛んだ。


「――お前ちょっ……グヘッ!」


 吹っ飛んだ騎兵が、別の騎兵にぶつかり、2人諸共地面に叩きつけられた。


「痛ってぇ……ん? 何だこれ?」


 地面に落ちた騎兵が、地面にヌルヌルする何かがばら撒かれているのに気づいた。


「ッ……!」


 それを見たスーは、右腕を上げ、弓兵に合図を出した。


「――撃て!」


 弓兵は矢先に火がついた矢を、一斉に放った。

 放った火の矢は、空高く飛び、少しバラけているが、騎兵の集団に向かって、弧を描いて落ちていった。


「――矢が来るぞ! 駆け抜けろ!」


「――お前ら伏せろ!」


 矢の落下地点が絶妙な位置だった為、敵の騎兵は駆け抜けることを選択し、歩兵は1度立ちどまることを選択した。


 来たッ!


 火の矢は敵に当たることなく、地面に突き刺さっていく。

 その瞬間――。


 ――ドカンッ! と音が鳴り、横一直線に火が舞い上がった。


「――何だッ!」


「――アツッ……!」


 突然舞い上がった火に、敵軍は動揺している。

 軍の後方にいたノルチェボーグは、眉間にしわを寄せた。


「――いやぁ。被害はほとんどないようですね」


 その傍にいた部下が、ホッとした様子でそう言った。


「……分断された」


「え……?」


 横一直線に舞い上がった火のおかげで、敵の歩兵と騎兵は、綺麗に分断されてしまった。


「今だ行くぞぉ!」


 俺は歩兵を率いて、戸惑う騎兵に向かって走っていった。

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