第39話 宣戦布告


「――ボス! 今日も大量だな!」


「ああ。だがこの量を解剖するのは面倒くさいな。早く肉屋というものを作ってほしい」


 今日もジャッカルたちは魔物を狩って、馬に乗って村に運んでいた。


「肉屋?」


「肉を捌いて売る。その店ができれば肉を提供した私たちにも金が入る」


「おぉ。そりゃいいや」


「そろそろお前たちの武器も新しくしたいだろうし、ちょうどいいだろ」


「じゃあ帰ったら領主様に頼まないとっすね……。ボス?」


 部下との会話中、ジャッカルは馬を止めさせた。


「……」


「どうかしたんですか? もう村が見えましたぜ?」


 コソア村から南西の方向から帰って来たジャッカルたち。


「あれは……」


 村の手前で何か揉めているのが、ジャッカルの目に入った。


「――敵襲だ」


「……へ?」


「お前ら! 全速力で村へ向かえ! 敵襲だ!」


「て、敵襲? 確かに1対1で何かしているのが見えますが……」


「とっとと行け! 体に穴が開きたくなければな!」


 ジャッカルは馬上で、愛用している弓を取り出し、弓矢を引いた。


「ヒィッ! お、お前ら行くぞっ!」


 部下の1人の掛け声を合図に、魔物を手放したジャッカルの部下たちは村に向かって走り始めた。


「(馬に乗った者でも着くまで少しかかるな。それまでの時間稼ぎしなければ……。敵は……明らかに見たことない服装の方だろう)」


 ジャッカルは引く弓矢を調整する。


「距離……よし。角度……よし」


 ギリギリと弓矢を引きながら、角度を調節する。

 止まった敵に狙いを定め――。


 ――カァンッ!


 ジャッカルが甲高い音を立てて放った矢は、若干山なりの弧を描き、標的に飛んでいった。




◇ ◇ ◇




「――あっ。そういやいたなぁ! 盗賊の中で唯一の女の、弓術が長けている奴がよぉ!」


 カロンは体を低くし、左手に持つサーベル剣を背中の鞘にしまった。


「部下たちがこっちに向かってきてるなぁ。流石にここまでが限界か」


 カロンは懐から手紙を取り出し、腰にぶら下げていた小さなナイフに括りつけた。


「さあ始めようか。戦争を!――」


 カロンは笑いながら、ナイフを地面に思いっきり刺した。


「――多分アイツだー!」


「――逃げたぞ! 追えー!」


 ジャッカルの部下が近づく前に、カロンは南に向かって逃げ出した。


「――ボス。どうやら逃げたようです」


「お前、行けと言ったのに行かなかったのか……。まあちょうどいい。追跡をやめるよう伝えてこい」


「はっ!」


 万が一ジャッカルに何かが起きた時に対処できるよう残っていた部下に、伝令を頼んだ。


「私も村に戻ってアイツと話さなければ……」


 ジャッカルも馬を走らせ、コソア村に走っていった。




◇ ◇ ◇




「――状況を教えろジャッカル!」


「いや私も詳しく知りたいんだよ。確かに撤退させたけどさ」


 屋敷の廊下を早歩きで歩くルシアに、ジャッカルも遅れないようついていく。


「やはり当事者のリンドラ様に聞くのが一番だ」


「何だその言い方。まあ私も渡さなきゃいけないものがあるけど……」


 文句を言うジャッカルを無視して、負傷者と共にリンドラがいる部屋に向かう。


「――失礼します! リンドラ様はいますでしょうか!」


 ルシアは部屋に着くと、勢いよく扉を開けた。


「……」


 そこにはベッドで処置を受けた2人の負傷者が眠っていた。

 そのそばで、処置を施した村民とリンドラがいた。


「リ、リンドラ様……?」


「……たった今、1人逝ってしまった」


 リンドラが見つめる先には、血の気が引いた顔で眠っている、1人暮らしの男がいた。


「ッ……!」


「すまない。後のことを任せていいか?」


 リンドラは村民に後のことを頼んだ。


「は、はい……。して、領主様は……?」


 村民の問いに対し、少し間を置いて言った。


「――決まっているだろう。戦うんだ。民を守るために」


「領主様……」


「ルシア、ジャッカル。すぐに会議だ。会議室にゾルタックスたちを集めてくれ」


「はっ! 行くぞジャッカル。貴様もバーンたちを呼んで来い」


「お前に言われる筋合いなんて……。はぁ、分かったよ」


 指示を受けたルシアとジャッカルは、すぐに部屋を出て、人を呼びに行った。


「……すまない」


 俺は亡くなった男に向けて一言そう言い、早歩きで部屋を出た。




◇ ◇ ◇




 俺の指示から会議室に集まったのは、ルシア、ジャッカル、バーン、ゾルタックス、カショウ、ザカン、ヨボルド、オオヅチの8人だ。

 ザカンは俺の横に立っていたが、他の7人人は、大きな机を囲うように設置されている椅子に、間を空けないように座っている。


「――集まったな。では今から緊急会議を始める」


「やけに焦っているな主よ。敵襲か?」


 ゾルタックスは俺の様子がおかしいことに気づいた。


「ああ。今日1人でやって来た盗賊に、村の男が2人襲われた――」


 俺は今日あったことを、8人に詳しく話した。


「カロンというのは、茶髪でサーベル剣を使うと……。次来た時は我が相手しよう」


 ゾルタックスが腕を組みながらそう言ってみせた。


「それはその時次第だ。では次に対策について――」


「ちょっといいか?」


 ジャッカルが手を上げた。

 その上げた手には、1つの手紙が握られていた。


「それは?」


「そのカロンがいた場所に、ナイフに括り付けられて刺さってたんだ。部下が回収してきた」


 ジャッカルはそう言うと、机の上で手紙を広げてみせた。


「……『サイハテ領領主。並びにコソア村に対し、宣戦布告を宣言する。カロン』」


 そこには端的に、我々に対する宣戦布告の宣言が記されていた。


 宣戦布告だと……?

 盗賊なら何も言わずに襲撃してくるだろう。

 これじゃまるで――。


「戦争じゃないか……」


 俺はボソッと呟いた。

 みんなが黙っているせいで、その声がより鮮明に会議室に響いた。

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