第38話 武器なし


※魔法による攻撃などは、色がつき、可視化されるものという設定です。

 説明追記失礼します。




◇ ◇ ◇




「――ん? 要望を出した人はあの人か。あれ? もう1人いるな」


 村の南端に着く手前で、2人の男があたふたしているのが見えた。


「まさか魔物か?」


 各家にランタンを提供するべきだったか!

 

 俺は腰に手をやり、剣を引き抜――。


「剣ない!?」


 しまった。

 荷物になると思って自室に置いてきちゃった……。


「クソッ! 風魔法でどうにかするしかない!」


 俺は2人の元へ走り始めた瞬間、突然1人の男の体から血が噴き出して倒れた。


 斬られた……!?


 明らかに男は斬られたと確信した瞬間、もう1人も血を噴き出して倒れた。


「チッ……!」


 俺は走りながら風魔法を発動し、小石を何個も宙に浮かして右手の中に集める。


 2人の倒れたそばに、両手に1本ずつサーベル剣を持つ者が立っていた。


「捉えたッ!」


 俺は今までの走りを助走としてステップを踏んだ。


 敵は倒れた2人に剣を向け、トドメを刺そうとしている。


「風魔法。【緑風りょくふう】」


 俺はボール投げのように、ステップと合わせて右腕を振りかぶって――。


「フンッ!」


 風を纏い、球体のようになった小石たちの塊を敵に向かって投げた。


「――ん? うおっ!?」


 ビュンッと眼前まで迫ってきた小石たちの塊に気づいた敵は、咄嗟にサーベル剣で防御した。

 しかし、小石たちの塊が剣に触れた瞬間、もの凄い勢いで小石が飛び散った。

 

「チッ……!」


 敵は急いで飛び退いたが、飛び散った小石がいくつもの小さい傷を生み出した。


「よし! とりあえず2人からは離れたぞ! これで距離を――」


 【緑風】は、物体に風を纏わせ、1つの球体にする。

 放たれた球体が衝撃を受けた時、纏われた風は分散され、風に覆われていた物体は、もう一段階加速して的に向かっていく。

 今回は小石を沢山集めていたので、散弾銃のように四方八方に飛び散ったのだ。

 尚、物体に風を纏わせなくても使えるが、威力は半減する。


「――ってぇ。風魔法か〜?」


 敵は余裕そうだ。


「貴様ッ! 何者だ!」


 敵が怯んでいる隙に、距離を一気に縮めることができた。


「まあ待て。落ち着けよ」


 時間稼ぎのつもりか、俺に手で制してきた。


「あ?」

 

「プッ。だって悪いのはコイツらだぜ? ふらふらと近づいてきた得体の知れない俺に、手を差し伸べてきやがった」


「何だと……?」


「こんなっ。ボロボロの服着て、助けて〜って言ったら警戒心が一気に解けてよぉ。普通呼ぶだろ誰か」


 敵は着ていた服を破いて脱いだ。

 その下からは戦闘用の服が出てきた。

 

「どう見ても悪いのは貴様だろうが!」


 俺は目の前で倒れている2人を見て、怒りの言葉を吐き出した。


 コイツは一体何者だ。

 それより2人を早く治療しなければ。

 俺は今剣を持っていない。

 ここは村の端。

 近くの家の住人はほとんど仕事で家を空けている。

 どうする?


「(フッ。焦ってる焦ってる。煽られて怒ってなければまだ冷静でいられただろうに。我ながらクソみたいな戦法だな)」


「フゥ……。今すぐ立ち去れ。どこぞの誰だか知らんが、盗賊のたぐいだろう」


「ああ。俺はカロン。察しの通り盗賊だ」


「(思ったより落ち着くのが早いな。怒り狂って突っ込んできたら簡単にやれたんだけどな)」


「俺はこサイハテ領の領主、リンドラだ。騒ぎを聞いてここに来た。すぐ増援も駆けつけるだろ――」


「違うだろう。領主さんよ〜。アンタはたまたまここに1人で来て、この現場に居合わせた。嘘がバレバレだぜ〜」


 ハッタリは聞かないか……!

 俺はこの相手に風魔法だけで勝てるかは分からない。

 1ヶ月干し肉を売りに行っている間、剣を振り回す訳にはいかないから、空き時間に風魔法の強化訓練をしていたのだけど、流石に無理か?


「(領主ねぇ……。ボスが目の前にいるのにそう簡単には引かねぇよ。それに、この距離での魔法使いとの戦いなんて、こっちの方が圧倒的に有利なんだ)」


「もういいか? そっちも早いとこ俺を片づけねぇと、その2人死んじゃうぜ」


「ハッ。心配してくれるとはな」


 会話を続けながら、お互いに臨戦態勢に入る。


「――風魔法。【緑風】ッ!」


 俺は瞬時に右手に風の球体を作り出し、カロンに向かって投げた。


「――もう見たぞその技はッ!」


 カロンは体を低くし、こちらに向かって飛んできた。

 腕をクロスさせ、その勢いのままバツ斬りする気だ。


 早っ!

 そして低っ!


 こちらに低空で向かってくるカロンは、【緑風】をくぐった。


「くっ……!」


 一気に距離を詰められた俺は、迷うことなく、前に出た。


「何ッ……!?」


 標的が距離を詰めてきた為、カロンはその場で踏み込んで攻撃のタイミングを合わせた。


「オラアッ!!」


 カロンがサーベル剣で俺を斬るより先に、クロスしている腕目掛けて右足を振り切った。


「ぬおっ!?」


 カロンは腕のクロスが解け、体が後方に飛ばされた。

 

 怯んだ……!


 俺はすぐさま追撃をするべく、そのまま距離を詰める。


「風魔法。【妖精の加護】」


 体に風が纏われる。

 そして右腕を振りかぶり――。


「喰らええええッ!」


「しまっ――」


 俺は強化された動きで、カロンの右頬をぶん殴った。


「ぐがっ……!」


 カロンは更に体を吹き飛ばされた。

 しかし倒れることはなく、すぐに防御の姿勢を取った。


「チッ。近距離戦闘がここまでできるとは……!」


「ハァッ、ハァッ……!」


 怖ぇぇぇ。

 武器なしで戦うとか実戦でしたことねぇよ!

 剣の間合いが何となく分かったからできたけど。

 めっちゃドキドキしたぞマジで!


「(思ったより痛ぇな……。だが、さっきから小規模な風魔法ばかりだな。やはり倒れている2人がいい感じに邪魔になってるな)」


 クソッ……!

 少しでも風魔法の出力をミスったらこの2人に危害が及ぶ。

 ちょうど俺の後ろにいるなら、一瞬で担いで逃げるか?


「次は仕留める」


 カロンは防御の姿勢を解き、一歩前に足を出す。


 ――カァンッ!


「ん?」


「な、何だ!」


 突然、甲高い音が周囲に鳴り響いた。

 当然、カロンも俺も、音の正体は分からない。


「貴様何かしたの――」


 カロンが何かしたと思い叫んだ瞬間、カロンの頭に何かがぶち込まれ、体が吹き飛んだ。


「……へ?」


 何が起こった?

 援護? 新たな刺客?

 いや、そんなことは後でいい。

 このチャンスを逃してはいけない。


「風魔法。【憩いの笛】」


 すぐに倒れた2人に風魔法を使い、出血を抑える。


「もう少し我慢してくれ……!」


 俺は2人を担ぎ、屋敷に向かって走り出した。


「――がっ。クソッ……!」


 カロンは上体を起こした。

 間一髪、サーベル剣で何者かからの攻撃を防いだようだ。


「(頭はクラクラするし、剣ごと衝撃が来て出血するし。領主にも逃げられたし)」


「一体何が……矢?」


 地面には1本の矢が落ちていた。


「確かあっちから飛んできたよな」


 矢が飛んできた方を見ると、集団が見えた。


「あの格好。盗賊どうしゅか? ん?女っぽい奴もいるな」


 女っぽい奴を目を凝らして見てみる。


「あっ。そういやいたなぁ! 盗賊の中で唯一の女で、弓術が長けている奴がよぉ!」


 カロンは声を荒らげつつも、村からの増援が来る前に逃げる準備を始めた。

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