第35話 訪問


「――よし。4人全員戻ったな。今日1日偵察してきて何か分かったか?」


 その日の夜、コソア村に偵察に行った4人がバートゥの元に戻ってきた。


「はい。見てきたことを報告します」


 直接偵察の言指示を受けた男が、他の3人が見てきたこともまとめて報告した。




◇ ◇ ◇




「――リンドラ様。ご報告させていただきます」


「何だ?」


 自分の部屋で書類整理をしていると、ルシアが部屋に入室してきた。


「昨日、オンドレラル居住区からの偵察と思われる人物を4人確認しました」


「おおっ。もう来たのか!」


 予想より早い偵察が来たことに驚いた俺は、仕事の手を止め、ルシアの報告に耳を傾けた。


「はい。それでオンドレラル居住区でどのような噂が出回っているのか調査しました」


「ほぉ……」


 きっと、明るくて素敵な村でしたとか。

 心を許してしまうほど雰囲気が良かったとか言ってくれてたら嬉しいな。

 ってかこういう時の調査ってどうやってるんだ?

 偵察してきた奴らに尾行して、どのように報告したのか聞いたのか?


「いや、そもそもルシア。調査とか噂を流すとか。そんな機敏に動ける部下がいたのか?」


「はい。兵士志望の方たちが多数いたので、私が基礎的なことを教えている内に、上司と部下のような関係になっていました」


「へぇ。いつの間に……。今度是非紹介してくれ」


「もちろんです。彼らも喜ぶでしょう」


「よし。それで、どのような噂が出回っていたんだ?」


「はい――」


 ルシアは手に持った報告書を読み上げた。


「訓練場と思われる場所で、数十人の兵士たちが訓練しているのを見て、村を守れる程の戦力は確保してあると感心した」


「うんうん」


 まさか訓練場がアピールポイントになるとは。


「魔物を狩ってきているのを見て少し引いた。まさか村全体で魔物の肉を食べているとは」


「……そういえば、魔物の肉を食べることが普通になっていて忘れていた。これは異常か」


 マイナスポイント来るの早いなぁ。

 食ってみたら美味いんだけどな。


「ぐちゃぐちゃした謎の物体を天日干しにしていた。アレも魔物だろう。きっと兵器を作っているんだ」


 スライムのことね。

 まあ干す人毎回嫌な顔してるし、危険と見られてしょうがないか。

 でもダンゴムシと同じ見つけ方のスライムが兵器になることは絶対ない。


「村の中心に噴水があった。わざわざ川に行くことなく、新鮮な水を手にしているようだ」


「おぉ……」


 やっとプラスポイント来た。

 今回は関係ないかもだけど、オブジェクトを設置するのはいいかもしれない。


「見たことない植物を育てていた」


「あー。マットマとかだろ。まあ世間には出回ってないからな」


「甘い匂いがした。きっと一度食べるとおかしくなる植物を育ててるに違いない」


 大○じゃねぇよ!


「まあこれも食べてもらわないと理解してもらえないよな」


「えーっと、神聖なドラゴン柄が入った服を着ている人が何人もいた。普通に怖い」


 ドラゴンかぁ~。

 撤廃してぇ。

 でも不満が出るかもだしな~。


「そして最後に……」


「まだあるのか……」


「誰もが幸せそうだった。雰囲気もとてもいい」


「え……」


 シンプルに嬉しい。

 結論、めっちゃいい村ってことだよな?


「……ということは」


「オンドレラル居住区の代表者が、リンドラ様と直接会って話がしたいと願い出が届きました」


 よし来た!


「いつだ?」


「明日あちらから伺うと」


「分かった。場所は会議室でいいか。ザカンとノアに来客用の菓子折りの準備をするよう伝えておいてくれ」


「分かりました。して、私もその場に参加しても?」


「もちろんだ。ルシアがいれば心強い」


「はっ。感謝します」


 ルシアはそう言うと、部屋を出ていった。


「――何とか仲良くなって、あの作物を育ててもらえれば……」


 俺は期待を胸に、残っている書類を片付け始めた。




◇ ◇ ◇




「――ここか」


「はい。コソア村です」


 バートゥを筆頭に、昨日偵察に来た4人が一緒に、コソア村にやってきた。

 ……が、今はその少し外れの木々に潜んでいる。


「あそこに見える屋敷に領主がいるんだな」


「――その通り」


「ッ……!?」


 背後から聞こえた声に反応し、瞬時に全員が振り返った。


「誰だ……!」


 部下の4人は臨戦態勢に入ったが、バートゥがすぐにやめるよう手で制した。


「ここの領主の家臣か?」


「はい。サイハテ領領主、リンドラ様の家臣。ルシアと申します」


 ルシアはお辞儀をし、出迎えの態度を取る。


「本日は良く足を運んでいただきました……。いえ、今日……ですね」


「(偵察がバレていたか……。しかも気づかない内に背後に回られていた。俺だけで勝つのは無理だ)」


「では、早速案内してくれ」


「分かりました。では私についてきて下さい」


「……お前ら行くぞ」


 バートゥは臆することなく、ルシアの後ろを歩いていった。

 部下の4人も遅れないように、慌ててついていった。




◇ ◇ ◇




 屋敷の会議室に辿り着いたルシアは、全員ついてきていることを確認し、部屋の扉をノックした。


「――リンドラ様。オンドレラル居住区の方を連れて参りました」


「入れ」


 俺からの返事を聞いたルシアが、扉を開けた。


「どうぞ」


 ルシアが横に移動し、バートゥたちに中に入るよう促した。


「ッ……!」


 と同時に、部屋の中から風が吹いてきた。


「……?」


 俺は部屋の一番奥の椅子に座り、バートゥたちを招き入れた。


「よくぞ来てくれた。さあ中に入ってくれ」


 やっぱり、あの時会ったアイツが代表者か。

 数は5人か。

 まあ、警戒されるよな。


「失礼する。オンドレラル居住区代表者の息子、バートゥと言う。父の体が不自由な上、今回は私が来させてもらった」


「ここまで足を運んでいただき、感謝する。改めて、サイハテ領領主リンドラだ。今日はよろしく頼む」


 俺は椅子から立ち上がり、バートゥと形式上の挨拶を交わした。

 すると、バートゥは一番手前の席に座った。

 俺と対角線上の、一番遠い席だ。


「……」


 バートゥが座ったのを確認して、再び俺も椅子に座った。

 バートゥの部下たちは、バートゥの背後に立った。

 ルシアは全員入ったのを確認すると、扉を閉め、俺の横に移動した。


「では早速、話し合いといこうか」


 俺はバートゥの目を見つめ、話し合いを始めた。

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