第36話 協力関係


「――では早速、話し合いといこうか」


「もちろん話し合おう。これからのお互いについて」


 俺とバートゥを主軸とした話し合いが始まった。


「まず聞きたい。今まで支援を拒んでいた貴方たちが、急に話がしたいと?」


「それはそちらが誘い出したんだろう? わざわざ名前を変えて」


「まあ心機一転を兼ねての名前変更だったんだが。耳に入っていたとは」


「ウチで噂になっていたからな。見に来てみれば、まさかここまで賑わっているとはな」


「そうだ。1ヶ月でここまで持ち直せた。君たちとも協力できれば、オンドレラル居住区と共に復興できていけるはずだ。どうだ? 支援を受ける気はないか?」


「いきなりぶち込んできたな……。だが、その代償で俺らに何かさせる気じゃないのか?」


「……フッ。ご名答。君たちにはある作物を――」


「無理だ」


「ん……?」


 あまりにも即答すぎじゃない?


「まだ何を育てるかも言ってないんだが……」


「無理なもんは無理だ。俺たちの土地じゃな」


「土地?」


「あっ、俺から説明します」


 バートゥの背後に立っていた部下の中の、ガタイのいい男が手を上げた。


「頼む」


「俺たちが住んでいるオンドレラル居住区周囲は、水はけがいいこともあり、土地が瘦せているんです」


「では食べ物はどうしているんだ?」


「パッと見だとわかりにくいですが、瘦せた土地でも育てやすい『ヨツイモ』という芋を育てています。収穫の周期も早いので、最低限の食事は確保できます。そこに、俺たちのような動ける若手が出稼ぎに出て、マシな食料を少しですが、確保しています」


 『ヨツイモ』……。

 サツマイモみたいなもんか。


「そうか……」


 小麦育ててパン作りたかったんだけどなぁ。


「うーん……」


 痩せた土地でも育てられるものはないか?

 川や森も近くにはなかったし。

 思い出せ前世の記憶を!

 こういう時に使わなかったら前世の記憶持ってる意味ないだろ!


「――葡萄ぶどうだ」


「葡萄……?」


「そうだ! 葡萄があるじゃないか!」


 酒があるということは、この世界にも原材料の葡萄があるはずだ。


「葡萄ですか?」


 ルシアがつい口を出した。


「ああ。確か、葡萄は痩せた土地で育てるのに適しているんだ。豊かな土地だと、葡萄は枝などをどんどん伸ばして成長していく。だが痩せた土地では、実に栄養がいくような仕組みになっている。多分」


 家族で旅行に行ったときにそんなことを聞いた気がする。


「その育てた葡萄でどうする気だ? 酒でも作るのか?」


 バートゥが腕を組みながら聞いてきた。


「まあ葡萄は収穫まで1年掛かるだろうし、ぼちぼち考えていこう」


 このサイハテ領だけのものを開発したいよな。

 酒やジャム。

 ジュースやレーズンもいいな。


「ではそちらの居住区に、葡萄を育てた経験がある者はいるか?」


「どうだ……?」


 こちらの問いに対し、バートゥはガタイのいい男に聞いた。


「はい。親父の世代に何人かはいたと思います。直接食料にするには非効率だと考え、しばらくは距離を置いていますが」


「よし。若手はその人たちの話を聞いて、知識を蓄えておいてくれ。種などの必要なものはこちらが手配しよう。その前に、病気などの検査もしよう。症状によって薬をそちらに寄こす」


「……分かった。居住区の奴らにもそう伝えよう」


「ということは?」


「我々オンドレラル居住区は、アンタと協力関係を結ぼう」


「感謝する。お互い協力し、より良い領地をつくっていこう」


 あんなに拒絶していたのに、こうもあっさり話を受け入れてくれるとは。

 正直驚いた。

 

「早速戻って話すとする」


 バートゥは立ち上がり、すぐに立ち去る準備をした。


 もてなしの菓子や茶は最初の方に飲み食いしてくれたから、もう引き留める理由はないか。


「分かった。馬車を出そう。それに乗って帰るといい。数日後、また訪問する」


 俺はすぐにルシアに合図を出し、馬車を準備するよう頼んだ。


「感謝する。今度からは、行きも迎えに来てもらおうか?」


 バートゥは煽るようにそう言った。


「もちろん手配しよう。だが、そちらも今度からは、話し合いに必要ないものをこの屋敷に持ち込まないでほしい」


「ッ……!」


 バートゥは目を見開いた。


「……行くぞ」


 そして焦るように、部下を引き連れて部屋を出た。




◇ ◇ ◇




「……バートゥさん。良かったですか。ちゃんと話し合わずに決めちゃって」


 まだ日が真ん中から少し傾いている中、バートゥたち5人は馬車に揺られていた。

 御者はコソア村の男が担当していた。


「アンタ。バートゥさんが決めたんだ。うだうだ言うんじゃないよ」


 オロオロする部下に対し、女の部下が軽く𠮟った。


「ああ。親父たちには俺が説得しよう。お前たちも、もうあの領主を敵と見るのはやめろ」


「(偵察がバレた上に、念のために隠し持ってきていた短剣もバレた。多分扉を開けた時の風だな。あの領主は風魔法を使えるに違いない)」


「まあこの地の領主だからだろうけど、ここまで献身的だと、少し怖いですよ」


 一番の部下の男がそう嘆いた。


「いきなり大量の飴を貰うと流石にな」


 ガタイのいい部下の男も怖がっている。


「(仮に戦っても勝率は低い。俺が初めて会った時より強くなってやがる。横にいた家臣もヤバい)」


「だからと言って、とても俺達で勝てる相手ではない」


 色々考えた上で、バートゥはそう判断した。


「しかし、アイツの目を見て分かった。あれはマジだ」


「マジ……?」


 部下のオウム返しに、窓の外を眺めながら――。


「この荒れ果てたサイハテ領を、マジで復興させようとしている目をしていた。本当の狙いがあるかもしれないがな」


 居住区や兵士をまとめ上げようとするのを見て、領地を復興させようと考えているのを、バートゥは読み取った。


「でもそんなの、あの時間だけじゃわからないじゃないですか」


 最初心配していた部下の男が疑問の目を向ける。


「……だったら聞いてみればいいだろ。おいアンタ!」


 バートゥは御者の村人に声をかけた。


「はい? どうかしましたか?」


「アンタから見て、あの領主はどんな人間だ?」


 バートゥの問いに対し、御者は少し間を置いて、こう答えた。


「――私は、あんなに優しい領主とは初めて会いました。我々のことを第一に考え、率先して動く。最初は何か騙されているんじゃないかと思いましたよ」


 御者の話を、5人は黙って聞いていた。


「さらに、とても聡明な方でね。この馬車にも提げているんですが、特殊なランタンを器用な方と協力して開発したんですよ。火がいらないランタンでしてね。特殊な光で魔物も寄ってこないらしいんですよ」


 バートゥは窓から顔を出し、ランタンを確認する。


「今はホクロウ組合という御者の組合に提供しているんですけどね。これも大量生産できれば、サイハテ領の名もあちらこちらに広がることでしょう。もちろんいい意味で。本当にこの地を良くしようとしてくれて、私は嬉しいです」


 5人が黙っているのを聞いて、御者は少し焦った。


「す、すいませんっ。思わず喋りすぎてしまいました」


 焦って謝る御者にバートゥは返事をした。


「いや、もっと聞かせてくれ。あの領主のこと。コソア村のこと。アンタたちのこと」


「は、はい! でしたら現在建設中の温泉施設の話でも――」


 オンドレラル居住区に着くまで、御者は5人にコソア村のことを話し続けた。

 5人も邪魔はせず、ただただ御者の話を聞き続けた。




◇ ◇ ◇




「――そろそろ鬱陶うっとうしいと思わないか? あの新しい領主」


「それはそうだが、わざわざ1人で来るか?」


「まあ話を聞け。同じ盗賊同士……」


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