第26話 温泉の為に


 温泉について詳しい知り合いがいるというカショウに温泉関連のことはある程度任せることにした。

 少しずつでいいから準備や設計図などを作るよう頼んでおいた。

 話は終わり、ジャッカルとゾルタックスは少し落ち込んだ様子で部屋を出ていった。

 カショウはあくびをしながら部屋を出ていった。

 任せてよかったのか心配になる。


「あっ。ルシアとザカンは少し残ってくれ」


 ここで、1つ聞かなければいけないことをがあったのを思い出した。




◇ ◇ ◇




「――ぶっちゃけ、金どうやって手に入れる?」


 そう。

 領地復興のための資金は常にカツカツになってしまうため、いい加減収入源を確保しなければいけない。

 ゴドルーのアジトにあった財宝である程度は持つと思っているが、いつなくなるかも分からない。


「まあ、そこが1番の問題ですよね」


 ルシアも同感のようだ。


「リンドラ様やバーン様が考えている商品開発も、最低1カ月はかかりますよね? 野菜などを売るにも畑はまだ耕し終えてもいないですし……」


 ザカンも頭を抱えている。


 シンプルに考えて、財政がちゃんとしていない領地などと協力してくれる領地は少ないだろうし、移民も増やせない。


 シミュレーションゲームとかだと月日が一瞬で流れるから簡単なんだがなぁ。


「魔物でどうにかできないでしょうか?」


 ルシアが真剣な表情で提案してきた。


 魔物か。

 素材や肉、スーに作ってもらった薬。

 薬は気休め程度にしか使ってなかったから、安くなってしまうだろうが。


「素材の使い道はあるのでしょうか?」


 ザカンは2人に聞いてきた。


 いやない。

 あったにしても、特殊な武器の生成をしている人や、怪しい魔女ぐらいしか買わないだろう。

 それに――。


「素材の使い道は俺たちが見つけて、保持していきたいんだよな」


 未知数なことが多いから、これからもっと研究していきたいんだよな。

 立派な施設を建てて。


「それもそうですね」


 ルシアは納得した。


「となると――」


 『肉』。


 3人はこの答えに辿り着いた。


「じゃあ料理長に聞いてみるか」


「ですが、肉を料理を作っても鮮度の問題がありますよね?」


 ザカンの言う通り、鮮度が関わるとほとんどの案が潰れてしまう。


「でしたら、『携帯食』や『保存食』はどうでしょうか?」


 ルシアはひらめいた表情でそう言った。


「待てよ……。『携帯食』ならば、あの御者組合と協力して大量に売ることができるのではないか?」


 遠方まで送る人に無料で少し与えて、気に入ってもらったら買ってもらうとか。


「『保存食』ならば、オンドレラル居住区にも大量に支給することができ、信用を勝ち取れるかと」


 ルシアもこう言ってるし、この案が成功すれば色々良いことがありそうだ。

 安定したら、オンドレラル居住区の人たちにはもっと豪華な食事を振舞えるしな。


「よし。では早速作り方や材料など聞いて来ようと思う。ルシアはさっき任せた仕事を。ザカンは……患者の様子を紙にまとめておいてくれないか?」


 今現在何人が寝込んでいるのか把握しておこう。

 そう考えるとちゃんとした医者も配属させないといけないのか。


「分かりました」


 2人は声を揃えて返事した。


「頼んだぞ」


 俺は体に無理をさせない速さで、部屋を出て厨房に向かった。




◇ ◇ ◇




「――料理長い……る?」


 ゆっくり階段を降りていき、厨房に辿り着いたが、料理長は誰かと話しているようだ。

 中を覗いてみると、そこにいたのはノアだった。


「何を話しているんだ……?」


 俺は聞き耳を立てる。


「ほぉ? なんでまたそんなことを聞くんだ嬢ちゃん」


「あのっ。領主様の為……です」


 俺の為?


「……よし分かった。詳しくは聞かねぇが教えてやろう。ちょうどホーラビットの肉が大量にあって困ってたところだ。そろそろ調理しないと腐っちまうからな」


 ん?

 何やら料理が始まりそうだぞ?

 今話しかけても邪魔するだけだし、このまま覗かせてもらおう。


「よし。準備するからちょっと待ちな」




◇ ◇ ◇




「――準備はできたな。じゃあ調理開始だ。と言っても、そんなに過程は多くないけどな」


 料理長の教えの下、ノアの調理が始まった。


「まずホーラビットの肉を大きく3つに切り分ける。もう身だけになるよう下処理は済ませたから、気分は悪くならないと思うぞ」


 料理長はまな板の上に、ホーラビットの肉をドカッと置いた。


「いいか? 背中の部分。前足と胸の部分。後ろ足と尾の部分で味や油の量が変わるから、ここを切り分けるんだ」


 ノアは料理長に教わりながら、ホーラビットの肉を切っていく。

 やはり手先が器用なようで、スムーズに切っていく。


「手際が良いなぁ。それじゃあ次に、その肉を薄く切っていこう。その間に俺は別のを準備する」


 ノアに肉を切るのを任せると、料理長は肉を浸す為の液体を作り始めた。

 様々な果汁、液体、調味料を入れて混ぜていく。


 そのタレは秘伝なのか、説明してくれないなぁ。

 まあそのうち聞いてみるか。


「――よし。そっちはどうだ?」


「はいっ。きっ、切れました。どうでしょうか……?」


「ほぉ。綺麗に切れてるじゃねぇか。大したもんだ」


「あっ、ありがとうございますっ」


 ノアの頬が少し赤くなった。


「そしたら薄く切った肉を、この秘伝のタレに浸していく。3つのトレイに分けて浸してくれ」


 ノアは言われた通りに、切り分けた肉を、種類ごとに分けてトレイに浸していく。


「――全部終わったな。この肉は浸したまま1日置いていく。そしたら専用器具を使って干すんだ。干せば干すほど日にちが持つようになる」


 やっぱりそうだ。

 ノアは干し肉の作り方を教わっていたんだ。

 さっきの会話を聞いていたのか?


「また明日来てくれ。片付けはやっておくから」


「で、でもっ……」


「いいっていいって。あそこで覗いてる奴に報告にでも行きな」


 あっ、バレてたの?


「えっ、あっ、いつっ、からそこに!?」


 ノアがめちゃくちゃテンパってる。


「アハハッ。すまない。俺も料理長に用があってな」


 俺は隠れるのをやめて、厨房に入っていく。


「そ、そうだったんですか……」


「まさか、さっきの会議の内容を聞いていたのか?」


 俺はノアに近づき、手を差し出した。


「あっ。も、申し訳ッ――」


 殴られると思ったのか、目をギュッと瞑ったノアの頭を、優しく撫でた。


「え……?」


「殴られると思ったのか? そんなことする訳ないだろう。ありがとう。率先して動いてくれて」


 こういう時は、まずは感謝しないとな。

 良かれと思ってやってくれたんだ。

 実際助かったし。


「私も、何か役に立ちたくて……」


「そうか。明日から実は手が空いてる女性陣に、干し肉を沢山作ってもらおうと思ってるんだ。見本として一緒に作ってくれないか?」


「じゃあ厨房開けておけばいいか?」


 料理長が片付けしながら聞いてくる。


「ああ。どこか空いてる時間があれば、是非料理長にも教師を頼みたい」


「領主様の頼みなら喜んで」


「ありがとう。ノア、頼んでもいいか?」


「も、もちろん! 承りました!」


「よし。頼んだぞ」


 干し肉販売に向け、大きな一歩を踏み出した。




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