第25話 会議


「――どうしたザカン。わざわざ呼び出して」


 俺は会議によく使われているという部屋に訪れた。


「申し訳ございません! わざわざ足を運んでもらい……」


「いいよいいよ。みんなに……。運んでもらったし……」


 上裸のマッチョどもに担がれた時は言葉が出なかったよ。

 怖すぎて。


「それにしても、揃いも揃って――」


 会議室を見渡すと、ルシア、ジャッカル、ゾルタックス、カショウの4人がいた。

 部屋の中央にある大きすぎる机を囲むように席が多数あり、4人ともバラバラに座っていた。


「ジャッカルも狩りに行ってると思ったんだが」


「私も呼び出されたんだ。狩りは部下に行かせてる」


「え? じゃあみんな呼んだってこと?」


 ザカンに確認しながら、俺も席に着いた。


「はい。実は屋敷の壁にある張り紙がありまして……」


 ザカンはそう言うと、机の中央に1枚の紙を提示した。


「何々……。”立ち去れ侵略者め オンドレラル居住区代表ディアーナ”?」


 オンドレラル居住区って、西の方角にあった……。


「侵略者とは、相当恨みを買っているな我が主は! ハーハッハッハッ!」


 ゾルタックスは大声で笑った。


「貴様ッ! リンドラ様が恨みを買うようなことをする訳がないだろう!」


 ルシアは怒鳴って否定した。


 まあ十中八九、あの見慣れない服装をしていたアイツが送り主だろうな。


「正直そこまで焦らなくていいと思う」


 俺はこう答えた。


「何故ですか?」


 ルシアがそう聞いてきた。


「その居住区に一度足を運んだ。とても満足な暮らしをしているようには見えなかった」


「つまりここに攻撃する余裕はないと?」


 黙っていたカショウが天井を見ながらそう言った。


「それもそうだが、この領地に住む者なら助けてやりたいのが本音だ」


「へぇ……。まあ俺は考えるの面倒いんで、領主様に任せまぁす」


「貴様も! 失礼だぞ!」


「まあまあ落ち着けルシア」


 ルシアもこのままだとストレスで倒れるんじゃないか?


「結局、その件は放置にするということか?」


「うーん。食料やら必需品を定期的に送って信頼を得るのはどうだろう?」


 ザカンに提案してみる。


「その期間にもよりますが、その場合、皆さんも今以上に忙しくなってしまいますが……」


 そうか……。

 ではこの案はダメか。


「じゃあこの件は一旦――」


「いや、この件は私に任せてもらえないでしょうか?」


 ルシアが俺の顔を見てそう言った。

 と言うかやっぱり切り替え早いよな。

 不自然なくらいに。


「まあそう言ってくれるなら、是非頼む。金銭面も自由に使ってくれ」


「ありがとうございます。できる限り早く、良い報告をするよう頑張ります」


 ルシアは深々と礼をした。


「おい。もしかしてこれで話は終わりか?」

 

 ジャッカルが不満のようだ。

 わざわざ来てすぐ議題が解決したから、無理もない。


「まあ待て。短気なジャッカルの為にもまだ話すことがある」


「はぁ?」


 ジャッカルががんを飛ばしてきたが、いつものことなので無視する。


「この先の予定についてだ」


 全員が耳を傾けた。


「正直、色々なことを同時進行させているから、進行速度も速くないんだ。家を建てる。畑。商品開発とか」


「でも上手く分担しているから大丈夫なのでは?」


 ザカンの言ってることは正しい。


「そうなんだが、今俺たちは思いついたことから手をつけてるんだ。先に予定しておけば準備もできて、効率が上がると思うんだ」


「なるほど……」


「だから今から、各々やったらいいこと! これが欲しい! みたいなものを募集する!」


「……」


 あれ?

 反応なし?


「フッ。ならばここは私から行こう」


 ジャッカルが立ち上がった。

 

 空気が変わった?

 何このプレゼンテーションみたいな雰囲気。


「私が提案するのは武器関係の職人だな。狩りや戦いが多い中、手入れや仕入れる時間はもったいない。領地のことも考えて、鍛冶屋を作るべきかと」


「いいぞ小娘! 俺も賛成だ!」


 ゾルタックスはジャッカルに賛同し、自分の意見もつけ加えた。


「これからのことも考えるんなら、兵舎や訓練場は欲しいな。すぐに戦えるようにしねぇと襲撃や奇襲に対応できないからな」


 なるほど。

 ジャッカルとゾルタックスは軍事関連の施設が欲しいと。


「なるほどな。カショウはどうだ?」


「俺ですか……。まあ、温泉は早く完成するべきかと」


「なぜだろう?」


「ここには娯楽がないっすよね。今はみんな元気だけど、そのうち疲労や不満が溜まったりするだろうし。温泉を主にそういう施設を作っちゃいましょうよ。商品の生産に役立てたり、観光名所にすることもできますよ〜」


 カショウにしてはまともな意見だ……。


「ふむ。ルシアやザカンはどうだ?」


「……まあそうですね。居住区の人たちが安定した生活を送るために、我々が直接支援できる施設ならばいいと思います。しかし、あまりにも不利益が続くと、経済的に破綻してしまいます」


 ルシアにザカンが続く。


「ルシア様の言う通り、最低限の生活は我々が負担し、それ以上は居住区の人たちが負担する形が良いと考えます。ですので、全員の衣食住を確保次第、何か職を用意し、稼ぎができればと思います」


 民の稼ぎか。

 確かに今は、自分たちのために労働していると思えばいいんだが、それ以上は報酬や賃金を発生しなければいけないのか。

 とりあえず、ルシアとザカンは経営者目線になっているということでいいのか?


「さてどうするか……」


 ルシアとザカンの意見は頭に入れておく。

 となると鍛冶屋か温泉かという話になる。

 個人的には温泉は完成させたら経済的には嬉しいんだが、温泉の詳しい知識がない。

 というか、この世界には詳しい人はいるのか?

 風呂と同じ原理で、あとは記憶でどうにかなるか?

 その点、鍛冶屋の方が早く済みそうか……?


「そもそも、温泉の施設を作るとして、そう言う知識に詳しい人はいるのか?」


 ルシアに聞いてみる。


「温泉ですか……。大きな風呂と考えれば簡単ですが、源泉となるとどうなるのか……」


 やっぱりそうだよなぁ。

 温泉は一旦諦めか。

 まあランタン作りの為にも、整備だけはしておくか。


 今進めていることが終わり次第、『鍛冶屋』を作ることが可決されそうな空気になった時、カショウが一言こう言った。


「あっ、俺知り合いいますよ」


 マジ……?


 俺は、本当にご都合主義って最高だなと思った。


 

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