第20話 強者


「――あれは!」


 目を凝らすと、屋敷の前で何かが起きていることが分かった。


「……スーさん。急いでください」


 何が起きてるか分かったルシアは、スーにそう言った。


「ん」


 スーは、言われた通りに馬を急がせた。


「うおっ……何か見えたのか?」


うっすらとですが、見慣れない甲冑を着た人間がいました。襲撃の可能性が高いです」


 甲冑?

 誰かが屋敷にあった甲冑を着たんじゃ……。

 

「あれ? ウチに甲冑なんてあったっけ?」


「そうです。屋敷にあるものはすべて把握しましたが、甲冑なんてありませんでした」


「そうか……」


 全部把握してるのか。

 ちょっと引くな。


「もしかしたら戦いになるかもしれません。気を引き締めていきましょう」


「お、おうっ」




◇ ◇ ◇




「――ですから、今ここを離れていまして……」


「まだ言うか。どうせ屋敷の奥に隠れているのだろう?」


「あなたこそ……あっ!」


 屋敷に着くと、ザカンと言い合っている、全身甲冑で大きな斧を持った、巨体の男がいた。

 その後ろには、数十人の鎧を着た男たちがいた。


「――貴様何者だ!」


 俺が馬車から降りるより早く、ルシアが飛び出した。


「ああ? まさかお前が?」


 甲冑の男は、こちらに体を向ける。


「違う! 私はリンドラ様に忠誠を誓ったルシアという者だ! 貴様は何者で、何をしにここへ来た!」


 おおー。

 やっぱ気迫があるなぁ。

 気を引いてる間に、コッソリ馬車から降りとくか。


「いいだろう! 我の名はゾルタックス! この領地の騎士団団長をしていた者だ!」


 騎士団?

 サイハテ領にもあったのか。


「ゾルタックス……。何の用があってここに来た!」


 ルシアは改めてゾルタックスに問う。


「何の用だと? そんなの新しい領主が来たから挨拶に来ただけだろう」


「挨拶……?」


「そうだ。前の領主は軟弱で、姑息で、何より自己中心的な男だった。だから今回の領主はどういう奴なのか見極めに来たのだ」


 うわぁ。

 絶対期待してないじゃん。


「同時に、我を認めさせたら、領主を主として、死ぬまで従うことを誓おう」


 マジ?

 あんな強そうな奴が仲間になってくれれば、戦争や争いが起きたときに民を守れるぞ。

 そうとなれば……。


「恐れ多いぞ貴様! リンドラ様にそのような真似ッ!」


「フッ。中々面白い奴だな」


 俺は胸を張って、ルシアの後ろから現れた。


「なっ、リンドラ様――」


「まあ下がれ。俺に用があるみたいだからな」


 ナヨナヨした姿を見せる訳にはいかないからな。

 ここは堂々と……なっ。


「貴様が新しい領主か」


「ああそうだ。このサイハテ領の新たな領主となったリンドラだ」


「フンッ。堂々としているな。前の奴と違って」


 ファーストコンタクトはいい感じかな?


「それで? 認めさせたら俺の部下になってくれると言ったな?」


「ああ。俺を認めさせたらだがな」


「どうやって?」


「前は上手く言いくるめられたからな。今回は実力を確かめさせてもらおう」


 ゾルタックスは、そう言って斧を振り上げた。


「……」


 なにやってんだ前の領主は!

 目があったら即バトルなんてどこのゲームの世界だよ!


「今?」


「もちろんだ」


「条件は?」


「納得、気絶させるまでだ。もちろん殺す気でいく」


 殺したら元も子もないだろ。

 言いくるめられただけあって単純なんだな。


「そ、そんな曖昧だから言いくるめられたんだろう?」


「……あ?」


「もっと分かりやすい戦いにしよう」


 反論したり怒ったりする前に、俺は剣を抜いて地面に線を描き始めた。


「何をする気だ?」


 俺はゾルタックスを無視してかなり大きい丸を描いた。


「俺とお前が戦うのはいい。ただし勝利条件は、相手をこの円の外に出すことだ」


「外に出す? それだけか?」


「ああそれだけだ。単純だろ?」


「……」


 ゾルタックスは少し考える。


 このルールは特に作戦はない。

 この巨体を持ち上げられるか微妙だが、風魔法で吹き飛ばすつもりだ。

 余裕があれば、少し強さを見てみたいけど。


「――いいだろう。その勝負、受けて立つ」


 ゾルタックスは円の中に入った。


「よく受けてくれた」

 

 俺も同じように円に入る。


「俺が勝ったら、この地を去ってもらおう」


「俺が勝ったら、俺に忠誠を誓うこと」


 互いに武器を構える。


「ルシア。開始の合図を頼む」


「は、はいっ!」


 ルシアが円の外側に立ち、2人の距離を確認する。

 2人は円の淵に立つ。


「ではいいですね?」


 ルシアが聞く。


「いつでも……」


「早く始めろ……」


「では……始めッ!」


 ルシアが開始の合図を出した直後、ゾルタックスの姿が消えた。


「え――」




◇ ◇ ◇




「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」


 何が起こった……?

 俺は無意識に横に飛び退いていた。


「――むっ。避けたか」


 バッと俺が立っていた位置を見てみると、そこにはゾルタックスが斧を振り下ろした姿で立っていた。

 地面は円の外より先まで抉れていた。


「マジかよ……」


 思わずそう口にした。

 この男の力を見誤っていた。


「よっ……と」


 ゾルタックスは斧を地面から抜く。


「一筋縄ではいかなそうだな……」


 この力は是非とも欲しい。

 本気で行こう。


「まさか降参じゃないだろう?」


 ゾルタックスが鎌をかけてくる。


「まだ始まったばっかだろうが……」


 俺は風魔法を体に宿し、臨戦態勢を取った。

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