第19話 契約成立

 ――宿屋の部屋にて。


「じゃあ今日の報告会を始めようとするか」


 3部屋取ることができた俺たちは、荷物を置いた後、俺の部屋に集まった。


「じゃあまずスーから。何か病人に効く薬は買えたか?」


「ん……」


 スーは小袋を渡してきた。


「どれどれ……」


 小袋を開けてみると、青い液体が入った小瓶が数十本出てきた。


「これは『ポーション』か」


 『ポーション』とは、怪我の回復や病気を治すことのできる液体のことである。


「費用もピッタリ。でかしたぞ」


 俺がそう言うと、スーはにっこりと目を閉じた。


「じゃあ次はルシア行こうか」


「はい。まあ今現在の状況なのですが、食料関係はぼちぼちです。代わりに小道具などが流行っているそうです。この町の物価は特に変わっている点はないので、この領と交易をしても、不利益になることはないと思います」


「そうか。それは良かった」


 ダメだよく分からん。

 物価が上がってたらお金の価値は下がるんだよな。

 需要が供給を上回るってことか。

 だから何だって話なんだけど。

 今小道具が流行ってるってことは、普段より小道具は高くなっているのか。

 まあそんぐらいじゃ物価は動かないと。


「詳しいことは今後も頼んだぞ」


「はっ」


 頭から湯気が出そうだからルシアに任せよう。


「じゃあ最後に俺だな……」


 俺は今日会ったことを詳しく話し始めた。




◇ ◇ ◇




 ――御者組合の応接室にて。


「それで? わざわざ別の土地の領主がこんな建物に何の話があるってんだ」


 応接室で、机を挟んで向かい合わせのソファに、互いが座る。

 先程の職員には席を外してもらった。


「もちろん分かっていると思うが、俺のサイハテ領は廃れている。いや、腐っているとも言えるだろう」


「フンッ。怪しい商売なら乗らねぇぞ」


「まあ待て。俺の土地では、今特別なランタンを作っているんだ」


 製作過程は内緒にしておく。

 企業秘密と言うやつだ。


「ランタンだぁ? 一体何に使うんだよ」


「もちろん馬車に提げるんですよ」


「そんなの普通のランタンでいいだろう?」


「そんな普通のランタンで商売するわけない」


 俺はそこで、開発しているランタンの効果を説明した。


「……それは確かか?」


「ああ。まだ時間はかかるが、今言った状態のランタンを提供するつもりだ」


「……そうすれば、護衛をつける必要はなくなる」


「ああ。盗賊などが厄介だが、その点も何か考えるつもりだ」


「護衛を雇う費用より少し安く提供すればいい。まあ今やってる値段よりは上がるけどな」


「なるほど……。そうすれば、御者組合の中では高いが、個人御者よりも安い値段で客に提供できる」


「ああ。この話を持ち掛けたのはここが初めてだ。契約するなら今が好機だと思うぞ」


 俺はそう言うと、手荷物から契約の紙を取り出した。


「……今契約を結んでも、すぐにはできないんだろう?」


「ああ。最低でも2週間はかかると思う。だから、契約してくれたら、まずこの建物の修理費用を出そう。まずは外観を良くしないとな」


「ほぉ……」


 コソ居住区の人体の家を建てる費用を回したと思えばいいだろう。


「さあどうする?」


「……よし! 乗ったぞその話!」


 やけに勢い良く、商談が成立してしまった。

 おじいさんはすぐに契約の紙に必要事項を書き始めた。


「まさかこんな早く決断してくれるとは……」


「ビビッと来たのさ。そうとなれば、食いつくしかねぇだろ」


 ちょっとギャンブラー気質なのか?


「ハハッ。だが、必ず成功させる。首を長くして待っておけ」


「ああ! 頼んだぜ!」


「――それが契約を結んだ御者組合の、『ホクロウ』ですか」


 契約の紙を確認したルシアがそう言った。


「そうそう。初めての取引先だし、全面的に協力関係を結んでいきたいと考えている」


「……まあ御者に商談を持ちかけることはそうそうありませんからね。面白いことになりそうです」


「うんうん」


「よし。じゃあ目的は完了したな。明日はどうする?」


「そうですね。すぐに帰ってもいいですが、何か個人的に欲しいものを買っていきますか?」


 ちなみに、こんなに金を使って大丈夫かと思うだろうが、ゴドルーのアジトから金品を回収するよう頼んであるので、林の伐採が終わり次第、回収してくれるだろう。


「そうだな。畑に植える種とかあれば買いたいな。スーも欲しいものあるか?」


「ん……」


 スーは頷いた。

 何を買ったのか明日の帰りに聞くとしよう。


「じゃあこれでお開きにして、各自部屋で寝るか」


 報告会を終わらせ、今日はもう寝ることにした。


「じゃあおやすみ」


「ん〜」


「おやすみなさい」


 今更だけど、ルシアはここに来てから俺の名前1回も呼んでないな。

 バレないよう気をつけてるのか。

 俺は安易に領主ってバラしちゃったけど……。

 まっ、いっか。

 俺も寝よ。


 目的が完了したこともあり、今日はベッドでぐっすり眠れた。




◇ ◇ ◇




「――じゃあ今日も各自解散して、昼には噴水の広場に集まって帰ろう」


「はいっ!」


「ん!」


「じゃあ一時解散!」


 今日も朝から各々が好きな行動を取る。

 俺も色々屋台を見たかったので、存分に楽しもう。


「――これは何だ?」


「これはウチの特製ダレを塗った牛串だよ! 1本どうだい?」


「美味そうだ……。1本くれ!」


「――この化け物の人形は何に使うんだ?」


「これはただの人形じゃない。魔物に襲われた時にこの紐を引っ張ると……」


「ギギャアアアアアアアッ!!!」


「あ――」


 そんなこんなで、バリエキの町を堪能した俺は?お土産もたくさん買って、サイハテ領に帰っていった。




◇ ◇ ◇




「――もうそろそろ着くか。ちょっとは変わってるかな?」


 馬車に揺られ、少しは領地が良くなってたらと思った。


「皆さん、想像以上に忠誠心がありますから、きっと驚くことになってますよ」


 ルシアはそう言う。


「じゃあちょっと期待しようかな……」


「ん!?」


 突然、御者をやっているスーが声を上げた。


「な、なんだ!」


 俺は窓を開け、身を乗り出す。


「あれは――」

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