第18話 御者事情


 あれから暫く馬車を走らせ、『バリエキ』という交易が最も行われている町に向かうことにした。

 途中途中で家が集合しているのが見えた。

 貧しいかどうかは分からないが、ウチよりはマシに見えた。


 早くいい暮らしをさせたいな。




◇ ◇ ◇




「――おおっ。ここが……!」


 見渡す限り人! 馬車! 屋台!


「ここが、『バリエキ』か……」


 田舎から都会の引越してくるとこういう感じなのか。

 城から辺境の地からのここだからな。

 祭りのように感じるなぁ。


「では行きましょうか」


 馬車を専用の場所に駐車させた3人は、各々の目的を確認する。


「俺は御者に話を」


「私は物価などの経済状況の調査」


「……薬、買う」


「よし。じゃあ各自解散! 終わったらこの噴水のある広場に戻ってくること!」


「はい!」


「ん……」


 俺とルシアとスーの3人は一時解散した。




◇ ◇ ◇




「あのー。少しお話いいですか?」


「おっ。何のご利用ですかい?」


 俺は別れてすぐに、馬の手入れをしていた御者に話しかけた。


「貴方のような御者の組合や組織ってありますか?」


「御者の組合か……。あるにはあるぞ。ソッチに頼むんだったら帰った帰った」


 御者はシッシと追い払うような仕草をする。


「いやちょっと気になることがありまして、お話を聞くだけです。貴方は個人でやってるんですか?」


「あ、ああ。組合に入る奴もいるが、利用客を増やすために色々御者がキツイ状況になっちまってるから、個人の方が儲かるんだよ。まあぶっちゃけ、俺らの個人でやってる方が金かかるぜ」


「なるほど……。主に費用はどういう感じに?」


「あー分かった。お前御者を雇ったことねぇだろ。いいぜ教えてやる」


 勝手に勘違いしたけど、話しても大丈夫なことだよな?


「まずは運賃。これはどこの御者にも払わなければいけない。次に魔物や盗賊などから商品や自分の身を守る護衛を雇う費用がいる。そして最後に、時間帯による費用の追加だな。夜は危ねぇから倍の運賃を払ってもらう」


 思ったより金がかかるんだな。


「今説明したのが個人の方だ。金を事前に貰っといて、護衛を雇っておくのさ。護衛もそんないないから、俺らが先に予約しとくんだ。そういう工夫から顧客を確保し、長期間世話になるんだ」


 個人タクシーみたいだな。


「じゃあ組合の方は……」


「圧倒的に安い。つまり護衛を雇う人件費がないな。時間帯も自由だ」


 変な言い方だ。


「もしかして、御者の方が辛いんですか?」


「その通り。賃金が安いってことは、給料も少ない。その上危険な道や時間帯に馬車を走らせないといけない場合が多いからな」


「……なんでそんなやり方なんですか?」


「まあ、駆け出しの商人や金がない奴には使いやすいからな」


 そういう客を狙ったやり方か。

 ハイリスクだが、何も起こらなければ、個人でやってるとこより半分も安く済むと。


「なるほど。色々聞かせてくれてありがとうございました。では!」


「はいよ。次は客として来てくれよな!」


 その後、御者に組合の場所をいくつか聞いた。

 俺は一番客が少ない組合に行くことにした。


 なんとなく見えてきた。

 商売繁盛の4文字がな!




◇ ◇ ◇




「――うわぁ」


 訪れた御者組合は、客を迎えるような雰囲気はないほど、ボロい建物だった。


 いやいや、これから一緒に頑張るビジネスパートナーになるかもしれないんだ。


 俺は首を振って不安を振り払い、建物に入っていった。


「――お邪魔しま〜す」


 中に入ってみると、思ったより綺麗だった。

 客はそんなにいないからか、受付にいた男の職員がすぐこちらに気づいた。


「い、いらっしゃいませ……」


 受付はビクビクしながらそう言った。


 毎回ドキドキしてるんだろうなぁ。

 危険な道に行くんじゃないかって。


「突然で悪いが、この組合の代表者はいるか? 話がしたい」


「……へ?」


「俺は完全な余所者だ。何かを取り締まる訳じゃな――」


「た、大変だー!」


 職員は聞く耳を持たず、奥の部屋に走っていった。


 第一印象悪すぎじゃね?


「――誰だ! この店潰しに来たのは!」


 そう怒鳴りながら部屋から出てきたのは、頭の両サイドに棘のように逆だった白髪が生えているおじいさんだった。


「いやいや潰しに来た訳ないだろう!」


「あぁ? だがウチのもんがそう言ったぞ!」


「そ、そうです。入ってきていきなり代表を出せって言ったんです。この人危ないですよ!」


 どこの銀行強盗だよ。

 金出せみたいなテンションで来てねぇよ。


「まあ落ち着いてくれ。俺はある商談に来ただけなんだ」


「あ? 商談だぁ?」


「ああ。将来性のある話だ」


「……おい。今日は予約入ってるか?」


「えっ? 今日はないはずですけど……」


「アンタ名前は?」


「ここだけの話だが、俺はサイハテ領の新しい領主だ」


「なっ……! サイハテ領だと?」


 おじいさんは少し小難しい顔をしたが――。


「いいだろう。こっちに来な」


 なんと奥の部屋に案内された。


 ファーストコンタクト成功だ!


 俺は心の中でガッツポーズをし、おじいさんについていった。




◇ ◇ ◇




「来ないですね。リンドラ様」


「ん……」


 噴水のある広場で、先に用を済ませた2人は周囲に目を配りながら待っていた。


「もう夕方ですし、そろそろ宿を取らないといけないんですが……」


「おーい!」


「あっ。こちらですー!」


 随分遅くなってしまったな。

 2人とも用が済んだようで良かった。


「すまない遅れてしまったっ」


「いえいえ。余程有益な情報を聞き出せたんでしょう?」


「ふっふっふっ……」


 俺は手荷物をゴソゴソと漁って、1枚の紙を取り出した。


「これは……?」


「契約書だ!」


「まさか……!」


「そう。開発中の商品が完成次第、取引を開始する」


「なっ……。流石です!」


「ん!」


 まあまだ試作品もできてないんだけどね。


「その話を詳しく聞きたいところなのですが、とりあえず宿に向かいましょう」


 ルシアは宿屋に行くことを提案した。


「そうだな。商売の話を外でする訳にはいかないもんな」


 ルシアの案内のもと、空いてそうな宿屋に向かった。


 各自の詳しい話は、宿屋の部屋ですることにしよう。

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