第21話 ガチバトルやん


「フゥッ、フゥッ……!」


 あの地面の抉れ具合……。

 力だけだったら姉のアキにも匹敵するんじゃないか?


「――ガッカリさせるなよ」


 ゾルタックスが斧を担いだ。


「――風魔法。【妖精の加護】」


 体に風が纏われる。


 説明しよう!

 風魔法【妖精の加護】とは、自身の体に風を纏わせ、動きの補助や攻撃に強化がかかる。

 また、風の鎧にもなるので、多少のダメージは減らすことができるのだ。


「風魔法か。魔法だよりになると勝負にならねぇ……ぞッ!」


 ゾルタックスの激しい攻撃が始まった。




◇ ◇ ◇




「す、凄い戦いだ……!」


 外にいた者も、屋敷にいた者も、2人の激しい攻防を見守っていた。


「――おいっ! 何の騒ぎだ!」


 ちょうど、狩りに行っていたジャッカルたちが帰ってきた。


「帰ってきたかジャッカル」


 審判を務めるルシアが、ジャッカルを迎える。

 戦っている2人はジャッカルには気づいていないようだ。


「ああ。もう少しで他の奴らもここに着く。それで、これは何だ。襲撃か?」


「……これは、決闘と言うべきだろうか?」


「……決闘?」


「ああ。リンドラ様が勝ったら、あのゾルタックスという男が仲間になる」


「はぁ? あのゴツいやつが?」


「だが、リンドラ様が負けたらこの領地を去らなければいけない」


「はぁ!?」


「うおっ……。まあ、あの円の外に相手を出したらいい話だ」


「なっ、なんだっ。それなら……って押されてるじゃないか!」


「黙って見ていろ。最後はリンドラ様が勝つ。というか、お前そんな声を出せるんだな」


「は、はぁ? ベべべ別にっ。これぐらい普通だ!」


「――ハアッ!」


 俺は2人が話していることを気にせず、反撃の一撃を入れた。

 しかし見事に防がれ、数歩後ろに退かせただけだった。


 テメェら何いちゃついてんだよ!

 こちとら俺の命運をかけた戦いをしてるんだぞ!

 帰ってきたことも話している内容もばっちり聞こえてるわ。

 お前ら以外喋ってないからな!

 ジャッカルのツンデレを俺にも見せろ!

 ずるいぞルシア!


「貴様ッ! どこを見ている!」


「ヤベッ――」


 つい2人の方を見ていたせいで、またもやゾルタックスの攻撃が始まる。


 また振り出しかッ!


「クッ……!」


 防戦一方のままではダメだ。

 どうせこのままでは消耗させられるだけだ。

 一気に勝負を決めるしかない……!


「……はぁ。止めだ」


 突然、ゾルタックスの攻撃が止まった。


「どういうつもりだっ……」


 俺は横に移動し距離をとる。


「俺がこのままいたぶり続けるのは気が引ける。だから一撃で決めてやる」


「ハァッ、言ってくれるじゃないかっ」


 渾身の一撃が来るだろう。

 隙が必ずできるはずだ。

 呼吸を乱しているが、避けることができれば……。


「行くぞ――」


 ゾルタックスが斧を振り上げると、斧が赤く染まる。


「来いっ!」


 ゾルタックスは赤く染まった斧を、ゴルフのようにブンッと振った。

 地面をすくうように。

 大気をかっさらうように。




◇ ◇ ◇




「――熱ッ!」


 俺は間一髪、ゾルタックスの攻撃を避けることができた。

 先程同様、横に飛び退いたのだ。


「おいおいおいおいっ……!」


 俺が立っていた位置は地面が抉れていた。

 しかし先程とは違い、抉られた地面は焼け焦げるかのように黒くなっており、点々と赤く光っていた。

 しかも円の外のずっと奥まで地面が抉れていた。


 あっ、喰らったら死ぬなこれ。


「で、出た! ゾルタックスさんの【烈火斬れっかざん】だ!」


「あの技は、ほんの少しだけ使える火魔法を斧に込めることで、大地が一振りで裂け、焼け焦げるんだ!」


 ゾルタックスの部下が説明した。


 技解説助かるわ〜。

 って言っても、土地結構荒れるし、勝つにしてもこれ以上撃たせるわけにはいかないんだよ……なッ!


 俺はすぐさま反撃に出る。


「フッ、臆さないか」


 ゾルタックスもドシッと構え、再び激しい攻防が始まる。


「――ハァッ!」


 とにかく、どんな強い攻撃もあの斧から出るから、斧の振り方、色に注意しないと……。


「……フンッ!」


 ゾルタックスは片手で振り上げた斧を、再び赤く染めた。


「ッ……!」


 あの攻撃が来――。


「――がっ」


 ゾルタックスは斧を持っていない方の手を使い、顔面を思いっきり殴ってきた。


「ハッ! 斧を気にしすぎだ」


 しまった。

 斧を警戒しすぎて視野が狭くなっていた!


 もろに拳を受けた俺は、ゴロゴロと転がりながら、屋敷の方向に飛ばされた。

 ギリギリ線は越えていない。


「……危ね」


「ほら! もう一発いくぞぉ!」


 先程赤く染めた斧を高く振り上げる。

 【烈火斬】の構えだ。


 早く避けなければッ!


「あっ……」


 チラッと後ろの屋敷が目に入った。


 避けたら屋敷に攻撃が当たる。

 中にいる民のみんなに被害が……。


「クソッ! 相殺するしかない!」


 俺はすぐに立ち上がり、剣を構えた。


「――風魔法。【黒風白雨こくふうはくう】」


 先程体に纏わせた風魔法が消え、背後に小さな竜巻が現れた。

 その竜巻は次第に形を変え、人間の上半身のような姿になる。

 首から上はなく、腰から下は小さな竜巻になっている。

 まるでランプの魔人のようだった。


 長い年月かけて使えるようになった必殺技だ。

 この風はもう一人の自分のような……なんというか……。

 まあ化身のようなものだ。

 常に2対1の状況を作ることができる。

 デメリットとしては、他の風魔法が使うことができなくなるほどの集中力が必要である。

 まあ色々大変だから、そこまで長く使えない。

 なんで領地開拓の話でこんなバトル設定を――。


「行くぞぉ!!!」


 ゾルタックスが合図をし、【烈火斬】を繰り出した。




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