第13話 姉登場


「ふぁあ……」


 とりあえず、動ける人には昨日同様伐採を。

 食材調達も、昨日一緒に狩りと採集をした人たちに任せた。

 朝飯はまだあった屋敷の備蓄で何とかした。

 バーンとスーにも林の調査を進めつつ、商品と薬の開発を頼んだし。

 力仕事できない人にはスライムの天日干しを。

 嫌そうだったけど。


「あと俺がすることは……」


 住む場所だな。

 流石にこの屋敷に250人は多いな。


「伐採した木を使って作るとして、何軒家を建てるかも把握しないとだな」


「では是非ともこの私に任せてください!」


 俺のそばにいたルシアが、期待の目でそう言ってきた。


「お、おうっ。頼んだぞ」


「承りました!」


 このテンションは寝てない俺に効く。

 効果抜群だ。

 早く行ってくれ。


「ではすぐに報告してきますので!」


 ルシアは張り切って部屋を出ていった。

 部屋は俺とノアの2人きりになる。


 まあ疲れてるのとずっと無言だったから今気づいたなんてとても言えないけど。


「ルシアの奴。犬みたいだな」


「フフッ。そうですね」


 ノアはクスッと笑った。


 やはり、日が経つにつれて、緊張が解けていってる気がする。

 仕えられる身としても、嬉しい限りだ。

 だが、俺が直接何かしたかって言われたらしてないなぁ。


「ほとんど出かけっきりで悪いな。1人にして」


「だ、大丈夫ですっ。空いた時間はザカンさんに色々教えてもらってますのでっ」


 あっ、そっか。

 メイド服が似合いすぎてて忘れてたけど、見習いの身だもんな。


「記念すべき俺のメイド1人目だからな。これから入ってくる人の見本となれるよう励んでくれ」


「は、はいっ!」


 ノアは声が裏返りながらも、大きな声で返事をした。


「まあそう気張らないようにな」


 俺はそう言い、書類と小袋を持って、部屋を出る準備をした。


「お出かけですか?」


「ああ。そういえば、コソ居住区の人たちの中に、畑とかの農作業に詳しい人いるかな?」


「えっと……。ほとんどの大人の人が、農作業をやっていたはずです」


「本当か!」


 これで畑に関しても次のステップに進めるな。


 俺は勢いよく部屋の扉を開けた。


「あ、あのっ……」


 ノアが俺を止めた。


「ん? どうした?」


「き、昨日から寝ていないので、早く帰ってきてお休みになってくださいっ」


 勧めると言うより、お願いするような言い方だった。


「……心配してくれてありがとな。できる限り早く帰ってくるよ」


 ノアの目を見てそう言った俺は、部屋を出ていった。


「……」


 ノアは主人をしっかり見届けた。




◇ ◇ ◇




「どうしましましたか。領主様」


 俺は農業に詳しそうな男3人を、伐採の合間に借りて、畑の話をした。


「この小袋に入ってるんだが……」


 『マットマ』の種が入った袋を、3人に手渡す。


「これは昨日の食事に入ってた赤い……」


「元々森で採集したんだが、畑で育てることができたらと思ってな。栄養価も高いらしい」


「この植物……野菜でいいか。この野菜を育てるにしても、色々試しながらやるしかないですね。成長速度、日光、与える水の量など」


「難しいか?」


「フッ。何を言ってるんですか領主様。俺たちは農業一筋だったんですぜ。1カ月以内には正しい育て方を見つけてみせますよ」


「おお! 頼もしいな」


 じゃあ1カ月は狩りや採集で何とかしよう。


「じゃあどこかの合間で進めてくれ。しっかり休憩も取るようみんなに伝えてくれ。俺はこれから出かけてくる」


 これから行く北西の居住区で、何かがあればいいんだが。


「分かりました! 領主様もお気をつけて」


「あっ。あと大工とかがいたら、俺が帰って来た時に話があると伝えておいてくれないか?」


「分かりました。探しておきます」


 この切った木の使い道も、正確に導き出さなきゃいけないしな。


「頼んだぞ」


 3人に見送られながら、俺は馬小屋に向かった。




◇ ◇ ◇




「これは……」


 俺が訪れた北西の居住区は、少し前のコソ居住区と同じ状況だった。


「人はいるだろうか……」


 馬から降り、歩いて居住区に入っていく。


「誰かいないか! 先日サイハテ領の領主になったリンドラと言う! 誰かいないのか!」


 声を上げながら、居住区を進んでいく。


「――新しい領主だぁ?」


 突然声が聞こえてきた。

 バッとその方向を見ると、崩れかけた家の屋根に、露出をできる限りなくした服装の男が立っていた。


「何者だ!」


 インド人の服装みたいだな。

 いつか着てみたい。


「お前に教える義務はない」


 生意気そうに、その男は言った。


 盗賊の類か?

 仲間もいるかもしれないし、警戒はしておこう。


「じゃあ、この居住区に住む人たちを知らないか!」


「ハッ。オンドレラル居住区の奴らなんて知らねぇよ」


 オンドレラル居住区って言うんだ。

 名前の癖すごっ。


「……そうか。後日また来る!」


 俺はそう言うと、他に何もすることなく、すぐに居住区を出た。


「二度と来んな!」


 そう吐き捨てるのが聞こえたが、言い返すことはしなかった。


「――アイツは多分、敵じゃない」


 俺は馬に乗り、自分の屋敷に戻っていった。


「ん? 昼に流れ星?」


 馬の乗った時、空に何かが飛んでくるのが見えた。


「……こっちに飛んできてね?」


 その流れ星のようなものは、屋敷がある方向に落ちていった。


「ちょいちょいちょいっ! 隕石か! 隕石なのか! 俺の屋敷が消し飛ぶのか!?」


 馬をすぐに走らせ、大急ぎで屋敷に戻っていくのであった。




◇ ◇ ◇




「――よし!一旦休憩だ!」


 伐採作業も林の半分が終わっていた。

 区切りもいいので、バーンは声をかけ、休憩を取ることにした。


「どうだスー。薬は人数分できそうか?」


 バーンは薬の材料となる素材を集めていたスーに聞いた。


「ううん。まだ、足りない」


 スーは首を振ってそう答えた。


「まあ、あと半分あるし大丈夫だと思うが……」


「(薬ができても、病人や怪我人の症状を把握しないといけないな。ホーラビットの角はかなりの数手に入れたから、商品開発は順調な滑り出しだが……)」


「――お、おいっ! アレ何だ!」


 休憩中の男たちが、空を見上げて、次々とそう口にした。


「ん? アレって――」


 バーンは振り返りながら上を見ると、何かがもの凄い速さで落ちてきていた。


「はぁ!?」


 外にいた人たちは、急いで逃げようとするが、もう間に合わない。


「――あ」


 落下してきた何かは、少し軌道を変え、林に突っ込んだ。


 ドンッ! と大きく地面が揺れた。

 その周りは土煙が蔓延した。

 落ちたのは、もう木を切った場所だったため、二次被害はなさそうだった。


「――何の騒ぎだ! 敵襲か!」


 屋敷を飛び出してきたのはルシアだった。

 他の屋敷の中にいた人たちも、窓から外を覗く。


「クソッ。リンドラ様が不在の時に……!」


 ルシアは臆することなく、落下してきた何かに近づいていく。


「一体何が……ッ!」


 突然ルシアは足を止め、剣を引き抜いた。

 この剣は、元々屋敷にあったかなりいい剣だった。


「フゥッ、フゥッ……!」


 ルシアは呼吸を乱しながら、土煙に剣を向けた。


「な、何が……」


 周りの人たちが困惑する中、土煙から人影が現れた。


「だ、誰だ!」


 ルシアが声を上げ、人影に向かって問う。

 それに答えるように土煙から出てきたのは、甲冑を着た、長身で髪が緑色でロングの女だった。

 


「――私は、アキ・キンドレッド! ガイザー王国現国王の娘であり、騎士団団長である!」


 アキと名乗る女は、皆に聞こえるようにそう言い放った。


「現サイハテ領領主。リンドラの姉である!!!」


 彼女は表情変えず、そう言い放った。

 先程よりも大きな声で。


「りょ、領主様~。早く来てくれ~」


 バーンはボソッとそう言った。

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