第12話 ネタ
「なっ……!?」
「……どちら様ですか?」
風呂でサッパリした俺が脱衣所から出ると、青髪の女性とバッタリあった。
「あれ?」
青髪にこの背丈……。
顔に傷跡が多いけどもしかして……。
「ジャッカル?」
「ち、違っ……!」
ジャッカルは手で顔を覆った。
「お前――」
ジャッカルが手で隠してる顔を覗いて言った。
「案外可愛いじゃん」
「へ?」
「その顔もその仕草も、普段じゃ想像できない分、余計可愛く見えるぜ」
俺は本心を伝えると、食事に向かった。
「風呂上がったんなら夕飯食べに行こう」
「あっ、ああ……」
ジャッカルは急いで服を纏い、フードを深く被った。
◇ ◇ ◇
その後、すでに始めていた食事会に途中参加し、『グレート・モーとマットマのニンニク炒め』を食べた。
ここに来て数日だが、久しぶりに美味しい食事を摂れた気がする。
病人たちには食べやすい食事を用意してくれたらしい。
「いやぁ美味いなぁ」
美味しく飯を食っていると、バーンが近付いてきた。
「領主様、飯が終わったら倉庫に来てくれ」
バーンはそう言った。
この屋敷には、地下に倉庫がある。
そこに色々物が置いてある訳でもなく、何もないガラガラの状態だったので、バーンに好きに使ってくれと言っておいたのだ。
「分かった。終わったら向かう」
◇ ◇ ◇
食事を終えた俺は、地下への階段を、ランタンを片手に降りていく。
「あの林から何が見つかったんだろう。ちょっと楽しみだな」
階段を降りた俺は、重い扉を開けた。
「来たか」
倉庫にはバーンと薬が調合できる男がいた。
その後ろには、物資が肩の高さ程積み上がっていた。
「改めて初めまして。領主のリンドラだ」
薬が調合できる男に挨拶をする。
彼は口元を黒い布を覆っていた。
「……ん」
彼は会釈をした。
「ハハッ。悪いな。コイツの名前はスー。無口だが良い奴だ」
バーンが代わりに紹介をした。
「気にしてないから大丈夫だ。それで、今日成果を聞きたいんだが」
俺は持っていたランタンを置き、早速本題に入った。
「ああ。あの林を3分の1程削った中で色々採集したが、あまり成果は得られなかったな」
バーンは淡々とそう言った。
俺もだが、あまり期待していなかったので、ショックは受けなかった。
「見つかったものはなんだ?」
そう聞くと、スーが物資を漁り始めた。
「まずは落とし穴でも世話になった『スライム』だ。まあどこにでもいる」
緑色のスライムが大量に入った箱が何箱もあった。
「スライムについて詳しく聞きたいんだが」
俺はスライムの使い道を、どうにか見つけようと思った。
「動きも遅い、生きる粘液といった感じだな。アイツの体は物理攻撃が効きにくく、体温も一定だ。あと……いらないと思うが、天日干しすると絶命し、緑色から青色になる。しかし能力はそのままだ。食っても味がしない」
あれ食ったのかよ。
「んー。あっ……」
俺はピンと来た。
「どうした?」
「いや、もしかしたら、そのスライム使えるかもしれない。保管しといてくれ。ちゃんと天日干ししてからな」
「ほぉ、分かった。明日には干しておこう」
バーンは疑うことなく了承した。
スーも頷く。
「じゃあ次に行こうか」
バーンがそう言うと、スーは角が生えたウサギみたいな魔物を取りだした。
もう死んでるようで、全く抵抗しない。
「この魔物は?」
「コイツは『ホーラビット』って魔物だ。性格はビビりでな、敵を感知するとすぐに逃げ出す」
「じゃあその角の意味は?」
「ああこの角はな――」
バーンはスーからホーラビットを受け取ると、角を折った。
「領主様、この角に魔力を込めてみてくれ」
バーンは俺に角を渡してきた。
魔力とは、魔法を使わない人には縁のない話だ。
魔法の源となるエネルギーである。
個人差があるので、多ければ多い程、強い魔法使いということになる。
今後もちょこちょこ出てくると思うから、一応説明しておいた。
「どれどれ――」
グッと角に魔力を送るようイメージする。
すると、角がオレンジ色に光出した。
「光った!?」
「これがホーラビットの角の特徴。魔力を込めると明りになる。ランタンぐらいの明るさだな」
「ただ光るだけか? いや、光るだけでも凄いんだが……」
「コイツは天敵が多いからな。この光は他の魔物が嫌うんだ。だからこの光で自分の身を守ってたのさ」
「へぇ。面白い能力だな」
「まあコイツの魔力は全然ないから、ほぼ意味はないんだけどな」
「え? 魔物にも魔力があるのか?」
そんなことは聞いたことがない。
「ああ。まあ何年も研究してやっと分かったんだけどな」
魔物を研究する奴はそんなにいない。
だからこそ、魔物に魔力があるなんて、今まで誰も分からなかったんだ。
俺も聞いたことがなかった。
「じゃ、じゃあ、俺がもっと魔力を込めたら――」
つい思ったことを、すぐに実行してしまった。
「え――」
倉庫全体が光に包まれた。
「ぎゃああああっ! 目が! 目がぁああああっ!」
視界が真っ白になり、俺はパニックになった。
しかし、角はずっと光り続ける。
「どうすればいいんだぁ!」
「もっと魔力を送れ! 出力を上げ続けて角を破壊しろ!」
バーンの声が耳に届く。
言われたように、一気に魔力を角に送った。
するとバギッ! という音が聞こえた。
「だ、大丈夫なのか……?」
次第に視界がハッキリしてくる。
「お、おおぉ……。良かったぁ」
少し待つと、視界が元通りになったので、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「……普通あの近距離なら失明するけどな」
「うんうん……」
それにしても、魔力次第で光り方も変わるのか……。
「ん? つまり光が強くなれば、強い魔物も寄ってこない……?」
「「「「あっ」」」
そこにいる3人が声を漏らした。
「バーン。いい商売ネタが思い浮かんだぞ」
「俺もだ。これは上手くいけば売れるぞ……!」
「ん!」
その後も話は盛り上がった。
ここでの話を要約すると、『スライム』に『ホーラビット』が林に多く生息していたということが分かった。
他にも、そこの木の樹皮や生えている植物には、薬の材料になるものがあることが分かった。
この薬の話は、スーとの会話が上手くいかず、長時間話し込んでしまったので、尺の都合上カットさせてもらう。
「じゃあ明日も引き続き頼む。スライムの方は、力仕事があまりできない人たちに干してもらうとしよう。ホーラビットはお前らに任せる」
「はいよ。明日も忙しくなるから、領主様も早く休んどけよ」
「じゃ……」
「ああ……。じゃあおやすみ」
俺はそう言い、ランタンを手に階段を上っていった。
◇ ◇ ◇
地下室へ繋がる階段を上った俺はランタンを消し、自室へ戻った。
「ふぅ……」
この仕事部屋であり俺の部屋。
横の壁の扉を開ければ、俺だけのプライベートルーム。
いつでも扉を開けて着替えて休むことはできるけど、まだ仕事が残ってる。
「これがルシアが調べた周辺の地形か」
机の上に置かれた地図には、色々と書き足されていた。
「ルシア凄いな。こんなに調べてくるとは……」
ゆっくり休んでくれてるけどいいけど。
地図の全体を見やすくするため、少し離れて見てみる。
「ここから北西に進むと、別の居住区があるのか。そこも廃れていると……」
多分盗賊の被害にあってるんだろう。
早く助けないとな。
「こっちの方に会った森は……倍以上の大きさになってるのか。それに魔物も多いか……」
危険というより、狩場ができたと思えばいいか。
しばらくはそこで食料調達しよう。
「おおっ。ここには大きな川が流れているのか」
この付近には小川しかなかったから、上手く繋げればちゃんとした水路ができるぞ。
そうすれば畑を増やせるし。
「ここの土地は……。ならこの丘も……」
地図に書き足された情報から、次々とアイデアが溢れてくる。
「――朝になってしまった」
ただでさえ疲れているのに、徹夜してしまった……。
その時、ガチャッと勢いよく扉が開いた。
「お、おいっ。昨日狩った肉がなくなった。朝飯分を狩りに行くぞっ」
「ジャッカル貴様! 次からノックはしろ!」
「領主様、商売道具のネタができたんだが、ちょっと見てくれないか」
「……1人ずつ喋れ」
今日どっかでぶっ倒れるなこれ。
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