第10話 大胆に


「チッ、一文無しかよっ」


 俺たちは、攻めてきたゴドルーの手下30人を縄をかけた。


「ルシア! コイツらを監獄に連れてけ!」


「しかし、情報を聞き出すべきではないでしょうか?」


「向こうから勝手に来てくれるんだ。だったらコイツらに用はない。金もないしな」


「(考えが盗賊だ……)」


「じゃあ頼んだぞ」


「は、はっ!」




◇ ◇ ◇




「ふぅ……」


 ひとまず襲撃が終わったので、ちょっと休憩することにした。

 今は自分の部屋で椅子に座っている。


「――さて、ここからどうするかー」


 交易の話は早めに進めたいんだけどなぁ。

 でも他にやることあるよなぁ。


「居住区の人たちの衣食住の確保。他の居住区の確認。優秀な人材の勧誘。交易のための商品の開発……」


 考えれば考えるほど問題が出てくる。

 

「あーダメだ! 休憩って言ったのに結局休んでない!」


「あのっ、領主様」


「うおっ!?」


 いつの間にか横にいたノアが、顔を覗いてきた。


「なんだノアか。どうした?」


「いえ、その、お茶を淹れ……お茶の用意ができました」


 ちゃんと目上の人への話し方に直し、机の上に、紅茶が入ったティーカップを置いてくれた。


「おおっ、ありがとう」


 俺はさっそく紅茶を口に含んだ。


「……」


「んん。美味い!」


 特に高級というわけではないが、一仕事済ませた後の一杯だと、とても美味しく感じた。


「エヘヘッ……」


 その様子を見たノアは、照れ臭そうに笑った。


「――そうだ」


「?」


「ノアは今、何が一番欲しい?」


「え?」


 ノアの笑顔を見た俺は、俺だけが考えるのではなく、民の考えを優先しようと思った。

 しかし大人たちに聞いても、どうせ俺と同じ道を辿るだろうし、素直な子供に聞くのが一番だろ。


「――私は」




◇ ◇ ◇




「――昼を過ぎたら、早速取り掛かろうと思う」


 ノアの意見を聞いた俺は、すぐにザカンを呼んできてもらい、今後に指示を出した。


「しかしいいのですか? この林を……」


 ザカンは俺に恐れながらも聞いてきた。


「もちろんだ。この林を更地にする」


「か、かしこまりました。皆に伝えてきます」


「あと、ジャッカルに、狩りや採集が得意な人材を10人程集めとくよう伝えててくれ」


「はいっ。すぐに!」


 装返事したザカンは部屋を出て行った。


「フッ。まさかノアが、もっと領主様とお近づきになりたいって言うなんてなぁ。つまりもっと民と寄り添えってことだ。だったらまず居住区と屋敷の間にある林をなくそう!」


 うん! 我ながら暴論だ!


「絶対解釈間違えてるぞ……」


 そう言うのは、先程から壁にもたれかかっていたバーンだった。


「うおっ。いたのかバーン」


「領主様が呼んだんだろうが」


「そういればそうだったわ」


「ったく……。それで? 何の相談だ?」


「いや、ザカンに話したように林をなくす訳だが。その前に魔物とか、使えるものを採集しておいてほしいんだ」


「あの林だと、大したものはいねぇと思うが」


「まあ、やれることはやっといた方がいいだろ。あっ、あと薬とかに詳しい奴はいないか? いたら助かるんだが」


「……1人いるが、俺とセットって感じだな。俺が魔物の素材や植物を調べて、そこからソイツが調合する感じだ」


「十分だ」


 植物に詳しい上に、薬を作れる奴もいる。

 待ってこの人たち有能すぎじゃない?

 ジャッカルの気性難を除けば。


「じゃあソイツと一緒に、薬になるような素材も集めて欲しい。まだ病気や怪我で衰弱している人が多くてな」


「分かった。できる限り集めよう。その間領主様はどうする?」


「俺は一通りみんなに挨拶を済ませたら、ジャッカルと行動するつもりだ」


「分かったよ。見かけたら報告する」


「頼んだぞ」


「ああ」


 バーンも部屋から出て行った。

 ノアも紅茶などを片付けに行ったので、部屋には俺しかいなくなった。


「まだまだこの地はマイナスだ。まずスタート地点に立たなければな」




◇ ◇ ◇




「――調子はどうだ?」


「領主様……」


 俺は病人や怪我人がいる部屋に足を運んだ。

 コソ居住区の動ける女性を中心に、様子を見てもらっている。


「処置をしていただいたので、しばらくは大丈夫だと思います。しかし、早くちゃんとした治療をしなければ……」


 口元を布で覆っている女性はそう言った。


 そこの林から、少しでも薬の元となる材料が手に入ればいいんだが。


「部屋に入っても?」


「おすすめはしませんが……」


「構わん」


 そう言うと、女性は部屋の扉を開けた。


「――うっ」


 カーテンを開け、風も通しているが、瘴気のような悪い気が充満しているようだった。

 それほどまでに、強烈な臭いが広がっていた。


「少し離れていてくれ」


 女性にそう言い、俺は祈るように手を合わせた。


「風魔法、【憩いの笛】」


 詠唱をした俺の体から、ブワッと風が溢れたと思うと、心地の良い音と共に、部屋全体に風が吹いた。

 決して強くない、髪が軽く揺れるほどのそよ風が。


「領主様これは……」


 後ろには慣れていた女性は、驚いているようだ。

 寝込んで苦しんでいる人たちの表情が、少し落ち着いた表情に変わった。


「病は気からって言うからな。少しでも安心してくれればと」


 まあこんなものは焼け石に水だからな、急いで薬を作らなければ。


「次の部屋に案内してくれ」


 俺はその後、病人や怪我人がいる部屋全てに、風魔法を使って回った。


「――待たせすぎだぞ」


「ハァ、すまないっ」


 思ったより時間がかかってしまった俺は、息を切らしながら、ジャッカルの元に走ってきた。

 周りを見ると、ジャッカルたちは馬を連れており、他の人たちは、すでに伐採活動を始めていた。


「話はなんとなく分かっている。お前も早く馬を連れてこい」


「わ、分かった」


 俺はまた走り出し、屋敷の裏の馬小屋に向かった。


 そう。

 人が増えたことで、すぐに食料が尽きると思った俺は、狩りや採集の仕方を見て聞こうと思ったのだ。

 アイツらが食料を持ってきてくれたが、結構食うから結局意味なかったからな。




◇ ◇ ◇




「ただいま戻りました。リンドラ様はどちらに?」


 ゴドルーの手下たちを1人で収監してきたルシアが、屋敷に戻ってきた。


「これはルシア様。ご苦労様です」


 ザカンが出向いた。


「リンドラ様はいますか? それに、この外の騒ぎも何か聞きたいのですが」


「今、そこの林の木を伐採しています。リンドラ様の指示で」


「リンドラ様が……? なぜ林を?」


「何か考えがあるかと。先程、ジャッカル様とどこかへお出かけになりましたし」


「ジャッカルと?」


「はい。詳しくは分かりませんが……」


「……とりあえず、私も伐採を手伝えばいいでしょうか?」


「いえ、リンドラ様から指示を承っております」


「私に?」


「はい。『帰ってきて早々申し訳ないが、周囲の地形などの簡単な調査を行い、地図に周囲の情報を、何となくでいいから付け加えてほしい』と」


「地形調査か……」


「はい。こちら、地図と書くものです」


 ザカンはこの領地の地図と、万年筆をルシアに渡した。


「お願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。主人のご命令とあれば!」


 ルシアは休むことなく、屋敷を飛び出した。


「――皆さん働きすぎな気がしますが、大丈夫でしょうか」


 ルシアの異常な忠誠心を見たザカンは、心配……というより、少し引いた。




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