第9話 悪魔


「クソっ! 半分もやられちまったじゃねぇか!」


「おいっ、今度はバリケードがあるぞ!」


「ああ? こんなものはなぁ!」


 まとめ役の男は、武器の棍棒を振りかぶり――。


「オラアッ!」


 一振で粉々にしてしまった。


「な、なんだっ。結局落とし穴が本命だった訳か」


 安心した男たちは、次々とバリケードを壊していった。

 上で何が起きているかも知らずに……。




◇ ◇ ◇




「おー壊してる壊してる」


 男たちはストレスを発散するように、バリケードを粉々にしていく。


「領主様、動ける者たちを各部屋に配置しました」


 ヨボルドがそう報告してきた。


「よし。合図を待つよう伝えてくれ」


「分かりました」


 そう言うと、ヨボルドは再び部屋を出ていった。

 こんなに足を動かして大丈夫かと、最初は心配したが、足はかなり良くなっているようだ。


「だが、アイツらに戦う意思なんてあるのか? 少しは抵抗がありそうだが……」


 ジャッカルがまだ納得していないようだ。


「大丈夫大丈夫。不満や鬱憤が溜まったときはな、思いっきり暴れた方がいいんだよ」


「しかし――」


「まあ見とけって。あの人たちは戦うというより、退治するという認識のはずだ」




◇ ◇ ◇




「ハァ、ハァ、もう守るもんはねぇぞっ」


 もうバリケードは破られ、男たちは息を切らしながら屋敷に近づいてくる。


「おいっ! 出てこい! もうお前を守るのはこの扉しかねぇぞ!」


 まとめ役の男が扉の前でそう叫んだ。


「おーい! 上見てみろよー!」


 4階の窓から声をかけてみる。


「ん? 上……はっ?」


 男が素っ頓狂な声をあげるのも無理はない。

 3階の各部屋の窓から、コソ居住区の人たちが顔を出していたからだ。


「な、何を……」


「よーし! 投げろー!」


 俺は満面の笑みでそう言い放った。

 すると――。


「くたばれえええ!」


 コソ居住区の人たちは、一斉に瓦礫やゴミを下の盗賊に向かって投げ始めた。


「よくもウチの畑をおおお!」


「頭かち割るぞオラあああ!」


 人たちは暴言を吐きながら、どんどん投げる。

 盗賊たちは下で大騒ぎだ。


「アッハハハッ。みんな鬱憤が溜まってんなぁ」


 これでストレス解消。

 盗賊撃退。

 最高の作戦だな。


「すいません領主様。ちょっと失礼しますね」


 ヨボルドを窓際にやってきた。

 大きめな石を抱えて。


「まさか……」


「死に晒せゴラアッ!」


 ヨボルドは鬼の形相で石を外へ投げた。


「――クソがっ! 絶対許さグハアッ……!」


 見事にまとめ役の男に当たった。


「しゃあああっ! フゥー!!」


「おいルシア! ヨボルドが悪魔に取り憑かれた! なんとかしろ!」


 俺はヨボルドに指をさし、ルシアに助けを求めた。


「リンドラ様、落ち着いてください! ヨボルドさんは正常です!」


「怖いよ! 領主やめたい!」


 俺も本気で怒らせたらこうなるんだろ!


「大丈夫です。終わった時には優しい皆さんに戻ってますよ」


「そうかなぁ……チラッ」


「まだくたばるなよぉ! もっと苦しめ!」


「……ルシア、あとは任せた。ザカン、バーンついてこい。領地のこれからについて話す」


 これ以上は見なくてもいいや。

 この時間を無駄のない時間にしよう。


「わ、分かりました。終わりましたら報告します」


「うん任せた」


「――生を実感するぞぉ!」




◇ ◇ ◇




「よし。じゃあこれから何をするかを話そう」


 別室に移動した俺、ザカン、バーンの3人で話を始めた。


「これからと言っても、領地同士の交易についてだ」


「交易か……」


「しかし、このサイハテ領には特産品になるようなものはないですよ」


 長いことこの領にいるザカンはそう言った。


「その通りだ。だから作るんだ。俺らにしか作れないものを」


「魔物を使うのか?」


 バーンは顎に手を添えてそう言った。


「正解。魔物と言っても、素材を使った道具を売るんだ」


「ほう……」


「しかし、財産的にも失敗は許されませんよ」


 ザカンは、手帳を取り出しそう言った。


「じゃあ開発も交易も、一発勝負って訳か」


「はい。ですので、ここから当分は、お金は節約してい――」


「ゴラアッ!!」


 一瞬屋敷が揺れた。


「ま、まさか……」


 嫌な予感がした3人は、駆け足で玄関に向かった。


「――嘘ぉん」


 なんとまとめ役の男が、屋敷の扉を大破したのだ。

 幸い、周りの仲間たちはついてきてないようだ。


「ハァ、ハァ、よくもっ、バカスカ石をぶつけてくれたなぁ!」


「ザ、ザカン……」


「この修理費は痛いです……」


「ヒギャッ……!」


「おおっ? なんだなんだぁ? ビビっちまったか領主さんよぉ」


 男は、ショックでひっくり返ったカエルみたいになっている俺に向かってそう言ってきた。


「お前が……」


 何かが切れた俺は、スッと立ち上がった。


「やる気になったか?」


 男は棍棒を構える。


「お前みたいな……」


「あ?」


「お前みたいな奴がいるから! 俺が苦しむんだろうがぁ!!!」


 体に風魔法を宿した俺は、目にも留まらぬ速さで男に体当たりした。


「――ガッ……!」


 男は屋敷の外に吹き飛ばされた。

 白目を剥き、ビクビクと痙攣している。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


「――うおおおおおおっ!!!」


「え?」


 屋敷中に、歓声が溢れかえった。


「――領主様が族のリーダーを倒したぞー!」


 あの叫びの直後ということもあって、俺が倒したって伝わったのか。

 これで信頼度アップしたりして……。


「あっ、そうだ」


 俺は飛ばされた男に近づいていく。


「どうしました? リンドラ様」


 ザカンも駆け寄ってくる。


 ザカンを無視し、男の元に辿り着いた俺は、男の胸ぐらを掴み――。


「テメェ修理代出せオラ! 弁償しろオラ!」


 白目を剥いていることはお構いなしに体を激しく揺らした。


「バ、バーンさん! リンドラ様が悪魔に憑り付かれてしまいました!」


「いや、多分正常だな……」


「テメェらのアジトで金品全部盗んでやるからな!」


「盗賊のような発言はやめてください!」


 こうして、ゴドルーの手下たちによる襲撃は、屋敷の玄関の崩壊だけで済んだのだった。

「」

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