第8話 襲撃


「おいおい……。これは一体どういうつもりだ?」


 コソ居住区に来たゴドルーの手下たち30人は驚いていた。

 人の気配がしないからだ。

 もちろん、全員屋敷にいるからいないのは当然なのだが。


「――どうだった?」


「ダメだっ。老人や子供もいねぇ」


「チッ、何がどうなってんだ?」


「もしかして、屋敷で匿ってんじゃねぇか?」


「なるほどなぁ。籠城してるって訳か」


「そういうことかぁ。籠城って何だ?」


「そうとなれば……。お前ら集まれ!」


「なぁなぁ。籠城ってなんだ?」


「お前ら! できる限り固まって屋敷に行くぞ! この先の林で待ち構えてるかもしれねぇ!」


「分かった! で結局籠城って――」


「行くぞぉ!」


 盗賊たちは、林の一本道を進み始めた。




◇ ◇ ◇



 ――昨日のこと。


「それで何を準備するんだ?」


 ルシアは明日の襲撃までに準備することを説明し始めた。


「まず簡単な罠で数を減らしたいです」


「罠か。林のとこの一本道に落とし穴とかでいいんじゃないか?」


「いいですね。略奪しか頭のない盗賊にはお似合いの罠だと思います」


 肯定してくれるのは嬉しいけど、ルシアって結構口悪くね?


「じゃあ落とし穴は俺が担当しよう」


 バーンが手を上げた。


「おっ、早速見せてくれるのか。魔物の研究成果を」


「任せてくれ領主様。短時間で作れる最強の落とし穴を無数に配置しとく」


 最強の落とし穴って初めて聞いたな。


「よし。では早速やってところだが、移動で大分疲れただろうから、早朝にでも――」


「その通りです。早朝に準備すると言ったには、寝ずに戦うと不測の事態が起きるかもしれないからです。しっかり休むよう言ってください」


 ルシアが細かく説明してくれた。


「分かった。だが下準備はさせてもらう」


「ああ、任せたぞ」


 俺が許可を出すと、バーンは部屋を出ていった。


「では次に、簡単なバリケードを作りましょう。落とし穴による苛つき、焦りにより、バリケードはすぐ壊してくるはずです」


 ルシアはバリケードの話を始める。


「すぐ壊されるバリケードでいいんですか?」


 ヨボルドの言う通りだ。

 バリケードを頑丈にして、壊している間に攻撃を仕掛けるとかでもいいんじゃないか?


「はい。簡単なバリケードを壊せば自信がつき、勢いのまま屋敷に突っ込んできます。そこを屋敷の上の階から弓矢や石を落とすして攻撃しましょう。これなら皆さんが直接戦う必要はない訳です。経費削減にもなります」


「よし。お前は今日からこの地の領主だ。よろしく頼んだぞ!」


「リンドラ様!? お気を確かに!」


 遠い目をする俺を、ザカンが激しく揺する。


「いえ、私は貴方についていくと心に決めました。私の主人はリンドラ様しかありえません」


 ルシアは真剣な眼差しでそう言った。


「そ、そこまで言うなら領主やるか〜」


 そう言うと、ジャッカルは鼻で笑った。


「フッ……チョロいな」


「お前よりはチョロくねぇよ」


「ああ?」


「2人とも、話を戻してもいいですか? あとジャッカル、貴様には後で礼儀というものを教えてやる」


 3人の口論が激しくなる。


「アハハ、騒がしくなりましたね」


「で、でもっ。なんだか楽しいです」


「私が生きてる内に、復興した領地を見れるのかもしれませんなぁ」


 他3人は、その様子を見て笑顔を浮かべるのであった。




◇ ◇ ◇




「――全員固まって動けよ! 茂みには気をつけろ!」


 盗賊30人は、できるだけ固まって、林の一本道を進んでいた。


「そんなビビんなよ! たかが1人だろうが」


 数人が我先にと前を歩く。


「お、おいっ! もっと慎重になぁ!」


「うるせぇうるせぇ。行こうぜー」


 まとめ役の男を無視して歩いていく。


「はぁ……。なんで俺がコイツらを」


 ため息をつきながら、男は頭を抱える。


「――ぎゃあああっ!!」


「へ?」


 バッと前を見ると、調子に乗っていた数人が消えていた。


「ど、どこ行った!」


「誰か助けてくれ~」


「ん? 下?」


 男は慎重に道を進むと、大きな穴があった。

 下には、緑色で粘り気がある固形物に体が埋まってる男たちがいた。


「落とし穴か!」


「助けてくれ~」


 幸い、落ちた男たちは無事のようだ。


「穴も深いし、あの緑のブヨブヨはよく分からんし……」


「おいどうする? 落ちたのは6人だぞ」


「……しょうがない。置いてこう」


「後で回収するのか?」


「ああ。領主に手伝わせて引っ張り出す」


「じゃあそれで行くか。お前らちょっと待ってろよ! あとで助けてやるから!」


「お前ら! 罠に気を付けて進めよ!」


「ハッ、落とし穴なんて引っかかる訳ええええ!?」


「馬鹿! こういうのは道の隅を歩けばああああ!?」


「お、俺もう手前で待ってるわああああ!?」


「おい! 馬鹿しかいねぇのか!」


 次々と小さな落とし穴に落ちる仲間を見て、またもや男は頭を抱えた。




◇ ◇ ◇




「上手くいってますねリンドラ様!」


 林から聞こえてくる悲鳴を聞いたザカンが、興奮している。

 とりあえず、昨日会議をした6人と、メイドのノアの7人で部屋にいた。


「ああ。しかし、一体どんな落とし穴を作ったんだ?」


 バーンに聞いてみる。


「落とし穴の底に、スライムを工夫して作った仕掛けがある」


「スライム? 魔物か?」


「ああ。ちょうど悲鳴が聞こえてくる林で調達した」


「えっ? そんな近くに魔物がいるのか?」


「岩とかひっくり返したらいるぞ」


 ダンゴムシの見つけ方じゃん。


「まあ落とし穴の仕組みはそのうち聞くとして、何人ぐらい抜けられると思う?」


 バーンに聞くと、自信満々に答えた。


「何人で来たかは分からないが、10から20人は削れると思う」


「それは凄いな」


「流石、魔物の研究をしているだけあるな。手先も器用なのか?」


 ルシアがバーンを褒める。


「ああ。なんなら小道具や武器も作るぞ」


「小道具や武器だと?」


 確かにそう言ったな?


「ああ。魔物の素材を使って色々作ってるからな。試作品でも見るか?」


「いいのか!」


「2人とも……来ましたよ」


 ルシアにそう言われ、窓の外を見てみる。


「うおっ……」


 いかにも悪人顔の男たちが、ゾロゾロと現れた。


「何人いるんだ?」


「たったの14人です。大分少ないですね」


 ルシアは一目見て数を言い当てた。


「よし。じゃあヨボルド、みんな呼んできてくれるか」


「分かりました」


 ヨボルドはそう言い、部屋を出ていった。


「一体何をする気だ?」


 ジャッカルが俺に聞いてきた。


「いや、昨日ルシアが言ってた作戦を、コソ居住区の人たちにやってもらおうと思ったんだ」


「なぜ彼らにやらせるんだ? あまり動けない人もいるだろう?」


「へぇ、心配してんだ。優しいじゃん」


「はぁ? 戦力にならないと思っただけだけど!」


 今思ったけどジャッカルって、顔をフードで隠している分、ツンデレというかクーデレというか、そういう方に勝手に変換されるな。


「はいはい。まあ気にするな。みんな精神が衰弱しているからな。解消してもらうんだ」


「?」


「まあ見てれば分かる」


 俺はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る