第7話 準備


「――ふぅ。ひとまず、これで病人と怪我人の応急処置は済みました。医療に詳しい方がいればいいんですが……」


 屋敷にいるザカンは、任されたことをすべて終わらせていた。


「しかし問題はまだまだあります。リンドラ様はまだでしょうか」


「――ザカンさん! 領主様が帰ってきました!」


 ザカンの元に、民の男が駆け込んできた。


「い、今向かいます!」




◇ ◇ ◇




「リンドラ様! お帰りなさいまええええ!?」


「アハハ……。ただいま〜」


 ザカンは俺の後ろにいる50人に驚いていた。


 そりゃ驚くよな〜。


「う、後ろの方たちは……」


「今日から俺の部下になった。家臣はこのルシアとジャッカルだ」


「はぁ……。ルシアと言えば、隣国で10本の指に入る強さを持つと言われる!?」


「もう2年前の話です。今は大分衰えてます」


「そしてジャッカルと言えば、この領地で唯一の女性の盗賊じゃないですか!」


「……フンッ」


「しかも頭が切れるから、軍師としての才もあると聞いたことが……」


「へぇ、ジャッカルって凄いんだな」


「……フッ」


 俺がちょっと驚くと、ジャッカルはそっぽを向いて鼻で笑った。


「チョロ」


「は?」


「グエッ……な、なんでもないですっ」


 胸ぐらを掴むな。

 一応上司だぞ。


「もしかして、後ろにいるのは……」


「私の元部下だ」


「ということはまさか!」


「ああ! これで盗賊を迎え撃てる! あとジャッカルさんもう離して」




◇ ◇ ◇




「ではとりあえず、俺からみんなの紹介をする」


 屋敷に帰って早々、応接間を使って会議を開いた。


「まず、この屋敷の執事長をしているザカンだ」


「ザカンと申します。困ったことは私に聞いてください」


「次に、目の前にあるコソ居住区に住む民の代表、ヨボルドだ」


「ヨボルドと申します。微力ながら色々手伝わせてもらいます」


「そして最後に、家臣になった2人。ルシアとジャッカルだ」


「ルシアと申します。元は隣国のナートで、騎士団に所属していました。兵士の訓練、居住区の防衛面などは、力になれるはずです」


「ジャッカル……。元盗賊だ。普段は弓を使っているから、そっちのことについては色々教えれる。魔物についてや、狩り、採集についてもな。あと、私の後ろにいるコイツは、魔物について研究している。きっと役に立つはずだ」


 ジャッカルがそう言うと、後ろに立っていた男が前に出る。

 山に入った時、色々説明してくれたバンダナの男だ。


「バーンだ。魔物について研究している。素材や肉も色々使えるから、聞きたいことがあれば聞いてくれ」


「これで全員――」


「お待ちくださいリンドラ様。私からも1人。紹介してもいいでしょうか?」


 ザカンが頼んできた。


「いいぞ。大歓迎だ」


 俺がそう言うと、ザカンの後ろからひょこっと誰かが出てきた。


「ん?」


「きょ、今日からこの屋敷で働かせて頂きますっ。ノアと言いますっ」


 そう言ったのは、ピンクの短い髪が輝き、メイド服を着た少女だった。


「あの時の子か! 随分可愛くなったもんだ」


「ザカンさんのおかげですっ」


「それで、この家の使用人になってくれるのか。これからよろしく頼むよ」


 こんな可愛い子が屋敷で働いてくれるとはな。

 この廃れた領地で元気貰える〜。


「よ、よろしくお願いします!」


「言ったでしょう? リンドラ様なら快く了承してくれると」


 一応ザカンとも今日会ったばっかりだけどね。

 なんで俺のこと分かったてるような口振りなんだよ。


「よ、よしっ。とりあえず今ここにいる人たちを中心に、色々話し合っていこうと思う」


 全員が頷いた。


「じゃあ早速、明日以降攻めてくる盗賊について話そうと思う。ザカン、詳しく頼む」


「はっ。この屋敷と、コソ居住区で悪事を働いていた盗賊は、200人規模です。今日リンドラ様に撃退された数人は今頃、ボスに伝えているでしょう」


「そのボスは強いのか?」


「分かりません。しかし、名前はゴドルーと聞きました。ジャッカルさんは何か知っていますか?」


 ザカンはジャッカルに聞く。


「ゴドルーか。強さはイマイチ知らないが、一度目をつけた相手を、生かさず殺さず、金を搾り取ると聞いたことがある」


 うわぁ、闇を感じるなぁ。


「強さは未知数か……。ヨボルド、コソ居住区で戦える人はどのくらいいる?」


「申し訳ありません。11人です。武器を扱ったことはあるのですが」


「いや十分助かる。ルシア、60人ほどだが、何か策はあるか? 戦えない人にも手伝ってもらって、バリケードを作るくらいならできるが」


「いや、そこまでしなくて大丈夫です!」


 ルシアは自信満々にそう言った。


「詳しく教えてくれ」


「はい。まず、ジャッカルが言ったことが正しければ、完全に我々を潰すようなことはしないでしょう。貴重なお金の収入源ですから」


 確かに、もし俺らを潰したとしたら、困るのはあっち側だもんな。


「その場合、ゴドルーがどういう判断を取るか。考えられる例は3つあります」


 ルシアは3本の指を立てた。


「まず1つ目。200人全員で攻め込む。攻め込むと言っても、数で圧倒させて降伏させるでしょう。または脅す。これ以上逆らったらこの200人が攻め込んでくると」


 ルシアは立てた指を1本畳む。


「そして2つ目。数十人で攻め込む。新しい領主にやられたと言われれば、コソ居住区の様子を見た上で、たかが1人だけだと思うはず。それか、領主の力を見るために、偵察を兼ねて攻め込んでくるでしょう」


 さらに指を畳む。


「そして3つ目。あえて攻めない。コソコソと偵察に行き、攻める機会をうかがう。もちろん、領地を復興して、金回りが良くなった時というのもあるでしょう。とにかく、我々の警戒が解けた辺りが目途だと思います」


 流石ルシアだ。

 この短時間でここまで……。

 まあこの才を見抜いた俺も凄いってことだな。


「じゃあその中で一番有力候補は1――」


「2ですね」


「2だな」


「同じく」


「私も2だと思います」


 ルシア、ジャッカル、バーン、ザカンが2と答えた。


「1……は絶対ないな! 2だよな2! 俺もそう思った!」


 前言撤回。

 俺は凄くないです。

 やっぱり戦場には立ったけど、ただ指示されたことをやってただけだもんな。

 そりゃ頭も悪いよな。


 でも1の200人で攻めれば、攻められた側は戦意も失せるでしょ。

 短期決戦にもなるし、いいんじゃ――。


「流石リンドラ様! 1は絶対ないです。1を選ぶのは戦いを知らない子供くらいです」


「ふぁっ!?」


「そもそも、噂からして金銭信者のゴドルーが、お金があるアジトを空にする訳ない。考えれば分かる」


 ジャッカルも頷きながらそう言った。


「ソソソソソダネ」


「大丈夫ですかリンドラ様? 汗が凄いですけど」


 ザカンが心配して寄ってきてくれる。


「大丈夫だ。問題ない!」


「そ、そうですか……」


 もう、軍事関係は任せよ。

 俺は領地復興の方で知恵を絞ろう。


「フゥ……。それで、2の対抗策はなんだ?」


「はい。明日の早朝から準備することを伝えます」




◇ ◇ ◇




「ふぁあ……ねみい」


「俺も昨日酒飲みすぎたな~。とっとと領主に降伏させて、アジト帰って寝ようぜ」


「だな。流石に30人もいれば大丈夫だろ。まだ日も昇ってないし、アイツらも寝てるだろ」


「おっ、見えた見え――」


「ん? どうし……何だあれ?」


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