第4話 条件


「あったあった」


 少しの荷物を持ち、屋敷の裏に行くと、確かに馬小屋があった。


「馬もちゃんといるな」


 茶色の毛並みが整った馬が、ひょこっと顔を覗かせてきた。


「よろしく頼むぞ」


 馬をポンポンと叩き、早速乗馬の準備を始めた。


 監獄があるのはサイハテ領。

 つまりその監獄は俺のもの。

 ということは囚人も俺のものだ!


 そうこの男。

 埋められない兵士の穴を、囚人で埋めようと考えているのだ。


「領主の証明書も持ったし、いくぞ!」


 馬に乗り、勢いよく走り出した。

 言うことを聞いてくれるいい馬だ。




◇ ◇ ◇




「この湯をあちらの方にお願いします」


「はい!」


「包帯が足りない場合は、この布をお使いください」


「分かりました!」


 屋敷では、ザカンがリンドラが任したことを忠実にこなしていた。


「あ、あのっ……」


 テキパキと指示をするザカンに話しかけたのは、先程盗賊に攫われそうになっていた少女だった。

 食事を食べさせ、服も新調したので、先ほどとは見た目が大違いだ。


「ん? 貴方はさっきの――」


「こっここで! 働くことってできます……か?」


 最後の方はか細い声になってしまったが、伝えたいことはザカンにしっかり伝わった。


「貴方、歳は?」


「今年で、13……です」


「13歳ですか。両親はなんと?」


「快く、了承して、もらいました」


「ふむ……。リンドラ様に聞かねば分からないですが、とりあえず、手伝ってくれませんか。試験だと思って」


「は、はいっ!」


「では早速、この水を持って行ってくれませんか?」


 ザカンはそう言うと、水が入った桶を、少女に手渡した。


「はいっ」


 少女は水をこぼさないよう、受け取った桶をゆっくりと運んでいった。


「――新しく同業者が増えることになれば、私も嬉しい限りです。あの子は顔も整っていますし、最悪リンドラ様のパートナー……。いや、まずは領地の復興ですね」


 ザカンも、クスクスと笑いながら、任されたことを再開した。




◇ ◇ ◇




「――ここが……」


 俺は湖に辿り着いた。


「こんなにデカいのか……」


 湖の真ん中にそびえ立つ四角形の監獄は、異様な雰囲気を醸し出していた。

 そこに行くための橋は1本しかなく、入口は厳重に管理されている。


 監獄と俺の屋敷って結構近いな。

 監獄崩壊したらまず俺が狙われるじゃん。

 やっぱり勧誘やめとこうかな。


「ブルルッ……!」


「お、おいっ。勝手に動くなって!」


 俺の考えを否定するかのように、馬が勝手に橋に向かって歩き出した。


「――すいません。もう一度言ってください」


「だから、新しい領主のリンドラだ」


 俺は今入口でここに来た旨を門番に伝えている。


「それは確認しました。それで? 何をしたいと言ったんですか?」


「何人かの囚人を俺の家臣にしたい」


「……なぜ?」


「今人手が足りないんだが、何より、戦闘経験がある人材が欲しいんだ。だからくれ」


「……なんで解放できると思ったんですか?」


「俺がここの領主だから!」


「そんな意見が曲がり通るか!」


「曲がり通せよ! 俺は領主だぞ!」


「だからこそだよ! 領主が犯罪にでも手を染めようってか!」


「この地を守るためだって! 俺は領主だぞ!」


「それ言えばいいと思ってるだろ!」


「ぐぅ……分かった! 1つ、何か困っていることを解決してやる! それでどうだ?」


「ほぉ? なんでもですか?」


「ああ! 二言はない!」


 そう言ったのを確認した門番は、胸元から地図を取り出した。


「じゃあここから少し南に行ったところに山があるんですが。ほら、ここからでも見えるでしょう?」


 門番が指差す方向を見ると、森の奥に山があるのが見えた。


「そこにいる盗賊が、ここに収監されたボスを助けようと襲撃してくるんですよ」


「……つまりそれを撃退しろと?」


「ここにいる兵士が毎回追い払っているんですが、もちろん無傷で済むとは限りません。どうか領主様に討伐してほしいのです」


「俺1人で?」


「はい。相手は50人程度ですが、領主様なら大丈夫ですよね?」


「いやー……」


 1対50は流石に無理だろ。


「領主様ですもんね! いけますよね!」


 この野郎……ッ! 俺は領主だ……はっ!?


「……分かった分かった。じゃあ前払いでまず1人――」


「さっさと行け!」




◇ ◇ ◇




「もう日が沈んできたな」


 馬に乗って山に辿り着いた時にはもう日が沈みかけていた。


 帰る時は夜中だな。

 魔物とかに気をつけなければ。


「ってか勝てるかな俺。手練が何人もいるとキツいんだけど」


「ブルルッ」


「おっ、お前応援してくれるのか?」


 馬はかなり懐いてくれたが、危険だから待っててもらうか。


 手網を気に括り付け置いていくことにした。

 茂みで体は隠れているし、大丈夫だろう。


 俺は覚悟を決めて、山を登り始めた。

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