第4話

「では、訓練を始めましょう。サイ様」


「はい、よろしくお願いします。シャルロッテさん」


 俺は今、ユースダリア帝国軍の騎士団の一つ、

戦乙女の薔薇園ヴァルキリーローゼ】団長のシャルロッテにマンツーマンで剣の指導を始めようとしていた。


戦乙女の薔薇園ヴァルキリーローゼ】とは、女騎士で構成され、サイ派に所属している騎士団だ。レイとアテナの護衛もこの騎士団に頼んでいる。


 そして、団長であるシャルロッテは、帝国の軍士官学校を主席で卒業したと同時に団長に任命されたエリートだ。その人に俺は3歳の頃から剣を教えてもらっている。


「サイ様、剣を構えてください」


「はい」


 俺は木剣を習った通りにシャルロッテに向けて正眼に構える。


「違います。こう構えるのです」


 シャルロッテが俺の背後に立ち、木剣を持っている俺の手に自分の手を重ねて握り方を直接教える……んだけど。


「こうですっ……サイ様……」


 シャルロッテが俺の頭に胸を乗せて来る。


 しかも、胸を上下に揺らして頭に当てながら……。


 毎回これなんだよな。俺の構え方とか握り方と完璧なのに、必ずこれをするんだシャルロッテは。


 意味が分からん。


「そう…上手です……サイ様……その調子です……頑張ってください……はぁ…はぁ……」


「はあ……」


 どうしたんだ? そんなに息を荒くして。


 まだ訓練は始まっていないぞシャルロッテ。


 俺はただ、シャルロッテの言った通りに剣を構えているだけなのに何を疲れてるんだ。


 っていうか…そろそろ暑苦しく感じるんだけど…離れてくれないかな。


「シャルロッテさん、剣の指導をお願いしたいのですが……」


「は、はいっ! では…早速、模擬戦を致しましょう」


 シャルロッテが慌てて俺から離れて対峙する。


「それでは、始めましょう」


「よろしくお願いします」


 俺たちは木剣を構える。


「はぁあっ!!」


 俺は地面を強く蹴りシャルロッテに剣を振りかぶる。


「ぐっ…!」


「踏み込みは良いですが、剣の振りが甘いです。もっと脇を閉めてください」


 俺が振りかぶった木剣をシャルロッテは簡単に剣で受け止め、俺の指導をする。


 さすが…ただのセクハラ女じゃないんだよなシャルロッテは…ちゃんと強い。


 でも、子どもだからって余裕ぶっていると足元掬われるぞ……こんな風にな!


「はっ!」


「なっ…!」


 俺はシャルロッテの木剣を弾き、しゃがんでシャルロッテの股下を通り抜く。


 小さい体こそできる芸当、子どもの特権だ。


「これでどうだ!」


「くっ……」


 俺はシャルロッテの背後から膝裏を蹴り、膝カックンをするとシャルロッテが地面に膝をついた。


「僕の勝ちだよ」


 そのままシャルロッテの首元に木剣を当てた。


「参りました…。流石です、サイ様」


 シャルロッテが木剣を地面に落とし、両手を上げ降参のポーズを背後から見せる。


 ふ~、何とか勝つことができた。


 だけど…この勝ち方は卑怯だな…子どもの体こそできたことだ。


 それに、シャルロッテは加減をしている…いつかはちゃんと真正面から勝ちたい。


 俺がそう意気込んでいると、シャルロッテが振り返り、正座をしながら顔を赤く染めて俺の顔をちらちらと見た。


 ん? 何だかシャルロッテがいつもと違うような……どうしたんだ?


「さ…サイ様は……」


「は、はい…何でしょう……」


 な、何を言うつもりなんだシャルロッテは……。


 物凄く嫌な予感がするんだが……気のせいだよな……。


「サイ様は…私の……お……」


「お?」


「お、お股に……入りたいのですか?」


「…………」


 何を言っているんだこの変態女は。


「どういうことですか? シャルロッテさん」


「だ、だって! 私のお股を潜りましたよね!それってもうっ……! 

 ぐへっ……ぐへへへ」


 変態女は何やら変な妄想をし始めた。


 あー…こりゃもうダメだ。暫く放っておこう。


 俺はこの場を離れ、訓練場の端に置いてあるタオルを取りに向かう。


 次は魔法訓練か…その人はシャルロッテみたいに変態じゃないからマシなんだよな……早く魔法の訓練を始めたい。


 そう思いながら、タオルを二つ取りシャルロッテのところへ戻る。


 流石に、いつものシャルロッテに戻っているよな。


「シャルロッテさん、タオルどうぞ」


「は、はい…ありがとうございます……」


 シャルロッテは俺が差し出したタオルをたどたどしく受け取った。


 そして、俺は自分の分のタオルで額や首元に流れる汗を拭っていると、シャルロッテが俺を凝視していた。


「汗、拭かないんですか?」


「い、いえ!拭かせていただきます……」


 シャルロッテが俺の渡したタオルで汗を拭った。


 何で俺のことを見ていたのだろうか……拭き方が変だったか?


 すると突然、汗を拭っていたシャルロッテの手が止まった。


「あの…!サイ様……お願いがあるのですか……よろしいでしょうか?」


「えっ」


 シャルロッテが…俺にお願い?


 嫌な予感しかしないけど…一応聞いておくか……俺の家族を助けてもらっているからな。


「お願いって何ですか?」


「サイ様の体え―――汗が染み込んだそのタオルが欲しいのです!」


「………」


 おいっ、似たような下りさっきもやっただろ。反省しろよお前。


 まぁ…シャルロッテには世話になっているからな……そのくらいのご褒美を与えるか。


「シャルロッテさん」


「は、はいっ!」


 俺は自分の汗を拭いたタオルをシャルロッテの顔面に叩きつけた。


「~~~~~っ!!!」


「――――黙って嗅いでろ。このド変態クソ女ッ」


 俺は発情した獣の如くタオルを顔に押しつけているシャルロッテを無視してこの場から立ち去った。


 さて、次は魔法訓練か。

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