第3話

 異世界に転生してから6年が経った。


 その間に、俺は様々なこと知った。


 俺が生まれたこの国は、ミスティア大陸北部を支配しているユースダリア帝国ということが分かった。


 何でも…ユースダリア帝国はミスティア大陸で三大強国の一つに数えられているらしい。


 つまり、クソ皇帝……現皇帝ジークは相当な実力者だということがわかった。


 近年でも、そこそこの規模の国を侵略し帝国領土を拡大させていた……クソ、ただの冷徹噛ませ犬じゃなかった。


 そして俺は、ユースダリア帝国、第九皇子…サイ・ユースダリアと名付けられた。


 まさか…この世界でもサイと呼ばれることになるとは思いもしなかった。


 それで、話を戻すが俺は九番目の子…だから、兄姉が8人いることになる。


 その内の一人は、俺の姉であるアテナが、一つ年上の八番目の子どもだということはわかっているが……後の7人の兄姉には実はまだ会ったことが無い。


 というのも、俺は狙い通りジークに期待されているため、俺を強くしようと剣と魔法の訓練に時間を使われているため他の兄姉と会う機会が無かったからだ。


 でも、名前だけは調べたので最低限の情報は取り敢えず得ることができた。


 帝位争いに俺は勝たなきゃいけないからな。


 そうそう、帝位争いについてなんだが…俺はてっきり男のみで争うと思っていたが、女であっても帝位継承権があると知った。


 なので、アテナには継承権を返上してもらった。


 よし、これでアテナの命は保証された。


 そう俺は一安心をしたんだけど……まだ、問題があった。


 俺は重要なことを失念していた。


 それは……派閥だ。


 俺の派閥…サイ派には当然、俺の家族であるアテナ姉さん、レイが属している。


 一体俺が何を懸念しているのかと言うと……俺の派閥を崩すために、他兄姉が二人の命を狙われることだ。


 一応、ジークに与えられた邸宅の前に護衛の騎士を置いて、レイとアテナを守っているが……正直不安だった。


 なんせ、サイ派に所属しているのが全て女…ってことは護衛をさせているのも女騎士だ。


 なぜ、女が俺に与するが分からない…だから俺は不安を抱いた。


 しかし、生まれてからすぐに理由が分かった。


「まさか…今世でもこの顔になるとは……あはは」


 俺は今、姿見の前で椅子に座りながら苦笑いをしている自分の顔を見る。


 そこには、髪と瞳の色が違う、前世の小さい頃の自分が姿見に映っていた。


 前世では茶髪黒瞳だったけど…こっちでは黒髪に金と銀のオッドアイとなるとは……。


 どこの厨二病だよ……。


 まぁ、この忌々しい見た目のおかげで、女どもを味方にすることができた訳だから甘んじて受け入れよう……。


「うんうん……」


「サイ? 何一人で頷いているの?」


 俺が目を閉じ腕を組んで頷いていると、アテナが俺の顔を覗き込んでいた。


 アテナは黒髪で蒼い瞳をした明るくて可愛らしい女の子……なんだけど、時々グイグイ来るからやかましい時がある…それさえ直せばもっと可愛いと思うんだけどな……。


「あ、アテナ姉さん……何でも無いよ。ただ、この後の訓練のことを考えていただけだよ」


「ふ~ん、そっ頑張ってね」


 そう言い残してスキップしながら立ち去った。


 んだよバカ姉…お前たちを守るために俺は頑張ってるのに…それだけかよ!?


 俺がいなかったらお前……死んでんだぞ……わかってんのか……あぁんっ!!


 俺は部屋を立ち去ったアテナの背中を睨みつけるが、冷静さをすぐに取り戻した。


 待てよサイ…相手はただのクソガキだ…一々腹を立てたってしょうがない。


 俺の精神がストレスに侵される…それだけだ……レイ母さんの顔を思い浮かべて……リラックス……リラックス……。


 俺はあの一件があった時からレイのことが好きだ。


 好きといっても人として尊敬している方の好きだ、母を異性として見るなんて高レベル性癖は俺には持ち合わせていない。


 俺はレイの顔を想像した。レイは白髪に蒼い瞳をした人なんだが……。


 驚いたことに顔が前世の俺と似ていた。


「いるんだな…異世界でも自分と似たような顔をしている人が……」


 俺がぼそっと呟いた瞬間、部屋の扉が開いた。


「サイ…今日も訓練に行ってしまうの……」


「母様…はい、僕は強くなりたいので」


 俺は椅子から立ち上がりレイと向き合う。


「サイ……!」


 すると突然、レイが俺を抱き締めて来た。


 まぁ…レイがこうなるのも無理ないか。


 実は、あの出来事があってから……レイは俺に依存するようになってしまった。


 そりゃ、処刑されるって絶望していた時に俺が助けたら…依存するのも仕方のないことだと思う。


 それに、時間が経てばいずれ、レイも俺に依存することなくなるだろう。


 俺はレイの強さを知っている。必ず立ち直れるはずだ。


 そう信じている。


「母様…そろそろ訓練の時間なので……」


「えぇ…」


 レイは名残惜しいそうに体を離した。


「それでは、行ってきます」


「いってらっしゃい…怪我をしないようにね……サイ」


「はい……」


 俺はレイに笑顔を見せるとレイも微笑み返した。


 それを見て安心した俺は部屋を出て訓練場に向かった。

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