第2話

「ご出産おめでとうございます」


「元気な男の子ですよ。レイ様」


「はぁ…はぁ…ありがとう……ございます……」


 違うだろぉおおおっ!!何転生してんだよ俺っ!!


 俺は言ったよな!?


 異世界転生ものの主人公の人生の振り返りが、高々数行で描かれてしまっているって。


 俺の人生も数行で収まっているじゃないか!?


 他にもあるんだよ~俺の人生!?


 なのに……本当に俺の人生……数行で片づけられた。


 ちくしょうぅ……異世界転生め……。


 そう思っていると、宙に浮くような感覚が体に伝わって来た。


 もしかして…抱っこされているのか?


 おい! 俺はまだまだ言いたいことが―――


「―――生まれてきてくれて…ありがとう……」


 俺の頭上からで優しい声が聞こえた。


 ま、まずは状況を確認をして、この異世界の情報を収集しなとな、うん。


 け、決して! 今の優しい声で俺が異世界転生を好きになったとかそう言う訳じゃないからな!


 絶対に違うからな!


 …って、俺はさっきから誰に言い訳しているんだ。


 気を取り直して…こほんっ。状況確認だ。


 今、俺を抱っこしているこの人が異世界での俺の母親なのか。


 俺は瞼を上げて、母を見ようとするが…赤ちゃんだから当然、視界がハッキリとしてないため顔を見ることができない。


 少し残念、見たかった…こっちの世界での母の顔。


 すると、誰かが俺たちの方に近づく足音が聞こえた。


 段々と近づく気配に俺はこう感じた。


 冷酷で、残虐そうな、人を道具としか見ていない……そう嫌な気配を感じた。


「成功作だと良いのだがな……。お前が以前に生んだアテナは私の後を継ぐ皇帝には相応しくない無能だったからな。今回はどうであろうか…レイよ」


「………っ!」


 突然、母の体が震えるのが俺に伝わって来た。


 どうしたんだろう…急に怯えて……いやいや、今のは重要な情報かもしれない。整理に集中しよう。


 多分だが、母……レイが話しているのは俺の父親兼この国の皇帝ってことだよな。


 それで成功作とか、アテナ…恐らく俺の姉が無能だとか…状況が全く掴めない。


 ただ、分かっていることは親父がクソだってことと母さんが怯えていること。


 そして、俺がこの国の皇子であり、察するに他にも兄姉がいる……


 つまり、俺は将来確実に帝位争いに巻き込まれることだ。


 実に最悪な転生先だ!


「レイ…覚えているか?お前が先ほど生んだ子がアテナような無能だった場合……お前たちを処刑する…そう約束したことを」


「ひっ………!!」


 さらにレイの体が震えるのが分かった。


 自分の妻と子を処刑って……マジか、俺の想像以上にゴミだったなコイツ。


 子が無能だからとか無能を生んだから…そんな理由で処刑するとか俺には理解できない。


 俺が思うに、このクソ皇帝はある種の優勢思想ってやつか?


 優秀な人間だけが生き残り、その他は淘汰されるべき存在だと……。


 理不尽極まりない。


 ムカつく……許せないな。


 俺は異世界転生ものより……何より優しい人が傷つかれるのがこの世で一番大っ嫌いだ。


 舞姉さんを傷つけた奴らのように……。


 生まれてから短い時間ではあるが、俺はレイが強くて優しいことを知った。


 なぜなら、レイは子である俺のことを守ってクソ皇帝に対峙している。


 逃げず、泣き叫ばず、命乞いもせず……!


 なら、今の俺にできることは!


 俺は全身に力を入れると体温とは別の熱さを体で感じた。


 この熱が魔力だな……流石ファンタジー世界だな。


 このクソ皇帝が言うには、無能じゃなきゃいいんだろ。


 だったら、無能じゃないことを証明すればいいだけだ!


 全身に溜めていた熱…魔力を思いっきり解放した。


 その瞬間、俺の体を青い光と赤い光が包んだ。


「おぉ! これがお前の魔力か…! こんな魔力の圧を今までの我が子らから感じたことなど無い! 

 素晴らしい……素晴らしいぞ! もしや…お前が我が皇帝の座を継ぐことになるかもしれん……!」


 喜んでいるところ悪いんだけど、俺は皇帝になる気はさらさらない。


 というか、お前を殺してこの国を一から建て直す。


 そのためには、帝位争いに勝ち、クズ皇帝の信頼を得て絶対的な傀儡と思わせる必要がある。


 そして、機会を窺って油断している隙をついて殺せばいい。


 長い時間を要するが簡単なことだ。    


 その後は、この国を治める新たな国王を任命して、母と見知らぬ姉の二人の安全が確保されたら、俺は元の世界に帰る方法を探す。


 一応、この異世界での家族だ、俺には守る義務がある。


 だから、自分の目的はそれを果たした後だ。


 うん、そうしよう。計画が定まった。


 まぁ俺に殺される前に、喜べるときに喜んどけクソ皇て―――


 瞬間、体に酷い倦怠感を覚えた。


 あれ……体に……力が入らない。


 もしかして……これがファンタジー世界で言う…魔力切れってやつか……。


 俺は体内にある全魔力を放出したことで、母の腕の中で気を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る