第6話 お仕置き

 そこがお前の甘いところで困ったところだな、と、呟いて暖己はオレの髪を梳く。

 突き放せば良かったのか?

 もっと強く拒否しておけば?


「拒むなんて難しいだろう。あんなにお可愛らしいんだ」

「笙介さまはなあ……お可愛らしい上に聡くていらっしゃるから、ご自分の活かし方をよく分かっておられる」

「よくできた方だ」

「悪知恵もお働きになるがな」

「地頭がよいと言うんだよ」

「それでこんな中年執事に引っかかっていたら、世話がない」


 サクっと落とされて、しょんぼりだ。

 なのにすかさずに暖己がオレを喜ばせる。


「だが、笙介さまは人を見る目にも長けていらっしゃる。お前を選ぶんだからな」


 そう言う暖己の顔は複雑そうだった。

 オレの気持ちは疑う余地なくても、相手が笙介さまであっても、本当は自分以外がオレを選ぶのはイヤだって思ってくれている?


「でも違うから」

「ん?」

「笙介さまは愛おしくてお可愛らしい。けど、お前は別枠で愛してるから」

「俺も同じだよ」

「主筋の皆さまは、大事に思ってる。でも、手に入れたいとかオレから離れるなとか、そういうのは、暖己だけだ」

「それは光栄だ……」


 暖己がオレの上に屈みこんでくる。

 オレの両手を首に回して、身体ごと引き寄せた。

 下唇を甘噛みしてくるから、ちゅうっと舌を吸い込んでやった。


「この酔っぱらい」

「もう抜けた」


 だから、この僥倖を堪能させろ。


「業務連絡の続きがある」

「なに?」

「明日はふたりとも休みでいい。明後日からは速やかに次の業務に就くように、と」

「オレは春日井の本家に行けばいいのか?」

「そう。大旦那さまが『ふたりを入れ替えてそれでいいだろう』って」

「入れ替えって……」

「俺と寛文」

「それで、お前が笙介さまを叩き直すのか」

「ものすごくいやがっておられたけど、な」


 暖己がくつくつと喉をならして笑う。


「お手柔らかにして差し上げてくれ」

「じゃあ、嫉妬にかられないように、しっかりと寛文の気持ちを俺に刻んでおいて」


 言われずとも。

 唇をあわせておいしく味わい、せわしなく手を服の下にはわせる。

 じゃまな服ははぎ取ってベッドの下に投げた。

 きれいな暖己の身体。

 日焼けをする暇もないから肌は白いままで、それでも隙を見て鍛えているんだろう、うっすらと均等についた筋肉。


「きれいだな」


 明日が休みだというなら、お互いに出すものがなくなるまで、励むとしようか。

 これからしばらくは暖己に酔うのだ。

 正気に戻るのは、明日の朝でいい。


「寛文、おいで」


 暖己が脚を開いて、オレを誘った。





<end>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

執事の恋 たかせまこと @takasemakoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ