ドアの向こう側【陸】

「さあさあ」

と店長は僕と渕上さんを部屋に誘った。


渕上さんは僕を一目見てから、4畳半の掘り炬燵がある部屋に上がって、僕もそれに続いた。


寝転んでいた愛結島琉之輔は、起き上がり、隣の部屋からマグカップを4っつ持ってきて、掘り炬燵の上に置いた。


何故4っつなのかは不明だ。


「どうぞ」

と勧められるまま、マグカップの中の液体を飲んだ。

何かのお茶だとは思うけど、何のお茶かは不明だ。


慣れたら美味しと思えるかも知れない味がした。


愛結島琉之輔は、

「で?」

と。多分、パラレルワールドの事を自分から話す気はないらしい。


僕は仕方なく言葉を出した。

「パラレルワールドの件です」

「えっ?」

反応したのは、渕上さんだ。

渕上さんの反応に僕も

「えっ?」


渕上さんは「何言ってるの?」って顔だ。

愛結島琉之輔は、薄らと笑った。

そして渕上さんと同じ「何言っての?」って顔をした。


「渕上さんはこちらの世界の人?」

「こちらの世界の人・・だよ、うん」


愛結島琉之輔は、

「君たち、もう良いかな?吾輩にはまだゲームの途中なのだが」


「えっえっえっちょっと待ってください。えーと・・」

僕は混乱した。そして、

「じゃあ何故、渕上さんはあちらの世界の渕上さんと同じなんです?」

「ん?」

渕上さんも少し混乱し、愛結島琉之輔は寝転んでゲームを始めた。

ここの店長なのに。アラサーなのに。


渕上さんは僕を真剣に見つめた。完全に女子マネージャーの目だ。


「話の流れから言うと、しょうくんは、そのパラレルワールドから来たしょうくんなの?」

「うん」

「じゃあ、あたしが知ってるしょうくんとは、違うしょうくん?」

「どうだろう?そのこちらの世界の僕が、どんな僕なのかは解らないけど、渕上さんが違いを解らないくらいには、一緒だと思うけど」


しょうくんは、陸上の槍投げは何位だった?」

「2位、本当は1位だったけど、風がなんか変だった」

「あたしが上げたチョコレートは何?」

「チョコ最中アイス、バレンタインにアイスって思ったけど」

しょうくんは、数学で0点を取った事がある?」

「・・・何で知ってるの?」

「なるほど、君はしょうくんだわ」


僕は認めて貰えて安堵した。

その安堵感の中、ふと4ッつ目のマグカップを見ると、少しだけ減っていた。

なんだろう?


つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る