ドアの向こう側【伍】

ガソリンが貴重になった世界で、軽トラ並みの機動力を手に入れるのは、なかなか難しい。

悪そうな奴らはバイクで追いかけてきた。

まだ動く軽トラとガソリンが欲しいのだろう。

バイクの後ろに乗ってる奴が、軽トラの荷台に乗り込んできた。


渕上さんが、僕と悪そうな奴を交互に見た。

その視線にどういう意味があるのかは、解らなかったが、少なくとも悪そうな奴より僕を選んだ感はあった。


ちょっと安心した。


荷台に乗り込んできた悪そうな奴には悪いが、この軽トラはダンプ仕様で、荷台が傾くのだ。

荷台が傾きだすと、渕上さんが少し驚き、悪そうな奴はさらに驚き、地面に転がり落ちて行った。

さらに軽トラの側面を走るバイクに、軽トラをぶつけ、バイクの奴らも始末した。


そのまま少しだけ勝手が解るようになったパラレルワールドを、軽トラは疾走した。

念のため幾つかの角を曲がり、遠回りしてあの【愛結島琉之輔商店】に辿り着いた。


不安げに見つめる渕上さんに、

「僕は渕上さんを助けたいだけだ」

と告げた。


「わたしを助けたい?」

そう言う渕上さんの手を握り【愛結島琉之輔商店】に入った。

人の気配が全くしなかった。


僕は奥のこの前、あの店長がいた椅子に向かった。

「いない」

「ん?」

少しだけ落ち着いた渕上さんが、僕を見た。

その視線は、陸上部だった僕を見つめる、女子マネージャーの視線に近かった。


渕上さんがレジに置いてある、呼び鈴を押してみた。

呼び鈴の綺麗ない音が、人の気配がしない店内に響いた。


何の反応もない。

店内にはいないので、控え室に向かった。

人がそこに住んでる気配がする控え室に向かった。


は、陸上部だった僕を見つめる、女子マネージャーの視線に近かった。


渕上さんがレジに置いてある、呼び鈴を押してみた。

呼び鈴の綺麗ない音が、人の気配がしない店内に響いた。


何の反応もない。

店内にはいないので、控え室に向かった。

人がそこに住んでる気配がした。

「すいません」

僕はそう言うと引戸を開けた。


そこには4畳半ぐらいの和室があって、掘り炬燵が設置してあった。

その掘り炬燵に冴えない男が寝転んでゲームをしていた。

【愛結島琉之輔商店】の店長だ。

彼女をすぐ連れてこいと言ったあの店長だ。


「あの連れて来ました」


店長は「解るだろ?今ゲーム中だ」と言わんばかりの表情で、僕を一瞥した。

しかし、渕上さんを見ると、一瞬動きを止め、溜息を着いた後、ゲームを消した。




つづく

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