サチコさんと一緒【参】

異空間演算機によれば、この隣のカプセルにもうすぐサチコさんが転送される。


空には満月。


惑星の軌道は異界間の接続に大きく影響を及ぼす。

月の満ち欠けは、普通に生きている人々に取っては些細な事だが、ぼくら異界の旅人には重要な事なのだ。


異空間演算機が赤く点灯した。

「来た」

ぼくはカプセルから飛び出すと、隣のカプセルを覗いた。

「やあ」

とぼくは赤いコートを着た背の高いサチコさんに声を掛けた。


カプセルを見ると、なんとなく出産現場に立ち会ってる様な気分になる。

出産を、世界から違う世界への旅路だと思うと、満更全然違う事もないだろう。


カプセルの中のサチコさんと、視線を交わすと、サチコさんが微笑んだ。


「うむ、元気そうでなにより、るりゐろくん」

「なんで上から目線やねん」

「それは君がチビだからじゃない」

「チビちゃうわ。サチコさんが高いだけじゃ」


背の高い彼女は、ぼくの頭を撫でた。


ぼくは、からかわれているとしても、この瞬間がとても好きだった。


中高生になったら男子は女子の身長を追い越すと言う情報は、ガセネタだった。

ぼくはサチコさんの身長を追い越すせなかった。

追いかけても追いかけても、サチコさんは先を行った。


サチコさんは微笑むと、ぼくを抱きしめ、ぼくもサチコさんを抱きしめた。


ぼくが知ってる人の香り。

ぼくを知ってる人の香り。


どこにも属さない孤独感は癒され、ひと時だけ、ぼくは彼女に属した。

サチコさんがぼくに属しているかは不明だけど。


その後、ぼくとサチコさんは、【愛結島琉之輔商店】の中庭にある鉄板焼き屋で食事をすることにしたた。


中庭に着くと、夜空に満月が輝いていた。


ぼくが思っているだけかも知れないけど、パラレルワールドによって満月が違うように思える。

哀しい満月だったり、嬉々とした満月だったり。

今、夜空に輝いている満月は、少し哀しげだった。


なんでだろう?


中庭では残念な事に、あの冴えない男が、鉄板焼きを焼いていた。

こんなに愛想のない鉄板焼きの店員なんて、どんな世界にもいないに違いない。


いつもは愛想の良い女子の店員が、焼いているのだが、その件に関してはついてない。



つづく

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