ミックスジュース【肆】

懐中電灯の灯りが消え、完全に光のない闇がぼくを覆った。

ぼくの人生は終り?



☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆




車の窓に、カブトムシが風にも負けず必死でしがみついていた。


配達用の軽トラのミゼットの室内はやたら狭く、運転席に座る愛結島琉之輔の肘が、水穂未樹の肘に当たった。


さっき会ったばかりの男と、こんな狭い空間に一緒にいるのは気が引けた。

それもかなり愛想の悪い男だ。


「少なくとも商店の店員なんだから、少しくらい愛想良くしても良いのに」水穂未樹は思ったが、表情には出さなかった。


でも車内はなんとなく良い香りがした。

知らない異質な香りだ。

そもそもこの愛結島琉之輔も、異質な香りがした。

嫌な香りではなく、どこか安心させる香りだ。


「悪い人間ではなさそう」水穂未樹の勘はそう告げていた。

「だからこそもうちょっと愛想良くしたら、モテるのに」水穂未樹の乙女心はそう告げていた。



ミゼットは山道を走り始め、空はどんどん薄暗くなっていく。

水穂未樹の心は不安が満ちて行ったが、窓にしがみつくカブトムシを見ていると、少しは不安が落ち着いた。


ミゼットを降り、山道を少し歩いていると、あのカブトムシも着いてきた。

少し頼もしさを感じた。


「あちらです」

愛結島琉之輔は、が示す方角には小さな地蔵があった。

愛結島琉之輔は、その地蔵をどかすと、地蔵の奥の壁を開いた。


その奥には、人が1人入れるトンネルがあった。


「どうぞ、この中へ」

「えっ?わたしが先に入るの?」

「先にではなく、貴女だけが入るのです」


水穂未樹は流石に恐怖を感じた。

鬱蒼と茂った木々によって、周囲は薄暗く、さらに人里からかなり離れている。

こんな洞窟に1人で入るなんて。


「親近者である貴女が貴女の兄を引き寄せるのです。ここはそう言う仕組みです。

人は人と繋がる」

と人との繋がりを拒絶してそうな愛結島琉之輔は言った。


1分くらい水穂未樹が躊躇っていると、

「それでは閉めますね」

「えっお兄ちゃんは?」

「どちらにせよ、もうすぐ時間切れです」

「時間切れ?」

「はい」

「お兄ちゃんは?」

「もう会えないでしょう」

「!・・・行きます」

水穂未樹は、暗い穴を見た。

泥がぬかるんでいた。


愛結島琉之輔から、懐中電灯の着いたヘルメットを渡され、

「彼が道案内をします」

とカブトムシを紹介された。


普通のカブトムシではないらしい。


カブトムシがトンネル内に入ったので、水穂未樹も覚悟を決め小さなトンネル内に入った。

「ううううう制服がどろどろじゃん」

匍匐前進意外に進む手段がなかった。


「待ってろお兄ちゃん!」



つづく

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