ミックスジュース【参】


店内の籠の中のインコが、ぼくを見ると羽を羽ばたかせた。

可愛い♪


この異界は現世と同じような硬貨を使っていて、よく見れば違うのだが、たかが硬貨を、わざわざ見る人などいない。


そして、これで硬貨は底をつく。


最後の食事になるだろう。


ぼくはハンバーガー屋の可愛らし女子の店員に小声で何かを呟き、メニューを指差した。多分、何かのハンバーガーと何かのドリンクだ。

ぼくがメニューを指差すと、可愛らしい女子の店員は「○○ですね」的な言葉を発した。ぼくは頷いた。


1つ気になったのは、その可愛らしい女子の店員の背後の厨房で、どー見てもやる気のなさそうな店長?が視線に入った。

一目でダメ人間だと解るレベルだ。


その点少しだけ不安感を覚えたが、目の前の可愛らしい女子の店員が、元いた世界の部活の女子の先輩に似ていたので、少しだけ心が落ち着き、心は少し躍った。


しかし残念ながらここはパラレルワールド。


言葉なんて通じない。


可愛らしい女子の店員は、何かの言葉を発すると、当然の様に、ぼくの頭を撫でた。


なぜかは解らない。

何かの習慣か?

何かの挨拶か?

何かそんなお祭り?


ぼくは愛想笑を浮かべ誤魔化した。

女子の先輩似の店員は、特別疑う事もなく、厨房に向かった。


先輩似の店員は、明らかにダメ人間な店長らしき男と、何かの会話をした。

そしてダメ人間の男が、ぼくを一瞥した。


背中に嫌な汗が流れた。

まさか異界人がいるなんて、誰も思わないだろう。


しかし2人の会話はすぐに終わり、女子の店員がハンバーガーとドリンクを持ってきた。そして自分の頭を差し出した。


これはどういう意味だ?

お祭りの風習か?

頭を撫でろって事か?


ぼくは店員の頭を撫でてみた。

店員は嬉しそうに、何かのお礼を言った。多分。


正解だったらしい。


女子の先輩に似た店員は、ポテトも持ってきていた。

『サービスだよ』

的なニュアンスだと思われる言葉を発した。


知らないパラレルワールドに来たとしても、ぼくの味方になってくれる人は、同じようなタイプらしい。


この街に来るまで、敵意に満ちた人々とばかり出会って来た。

ぼくは、生まれて初めて迫害と言うものを経験した。


でも運が、ぼくに味方し始めたのかもしれない。


どうやら指をさしたハンバーガーは、チーズバーガーだったらしい。

これもついてる?

ぼくはハンバーガーは、チーズバーガーと決めていた。


ぼくは焼きたてのチーズバーガーを食べた。

香ばしい良いチーズだ。

ケチャップとの相性が最高だ。

ドリンクは何かのミックスジュースらしいが、なんのジュースかは特定は出来ない味だ。


ぼくは深い息を吐くと、今後の事を考えた。


その時!

「西の山の洞窟へ行け!抜け道!抜け道!」

と声がした。


それがインコの声だとすぐ解った!

その言葉を理解できるたのは、ぼくだけだったようだ。


店の人はインコが意味不明の言葉を発しても、気にしない。

見つかった!どんな強固な城にも必ず抜け道はある。


ぼくが店を出ようとすると、女子の先輩似の店員が、手をあげた。


これはハイタッチ?

ぼくは先輩似の店員とハイタッチをした。

可愛い店員は微笑んだ。


どうやら正解だったようだ。

ぼくは店を出て、西の山にあるであろう洞窟へ急いだ。


「これで元の世界に戻れる!」




つづく

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