ミックスジュース【弐】

公園を歩く人々は、まったく未知の言語で話していた。


その未知の言語を聞きながら、公園のベンチで寝落ちしそうになる寸前、

「あの丘を越えれば、あなたの願いが叶うよ」

と誰かが耳元で囁いた。


ぼくは目を開けた刹那、可愛らしい妖精が一瞬だけ見えた様な気がした。


幻?


だとしても、この異界で、ぼくが生まれ育った世界の言葉をしゃべる存在に、少しだけ涙が零れた。


人は異なる人を迫害したがる。

その迫害の中で聞いた懐かしい言葉に、ぼくは癒された。

こんな事で癒されるなんて、嘆かわしい。




☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆…━━━━━・:*☆



100キロは歩いたんじゃないかと思う。

身体に疲労が充満していた。


丘を越えると辿り着くと思っていた。

やっぱり無理か。


知らない街。

知らない人。

知らない言葉。

知らない習慣。

知らない価値観。

知らない匂い。


夜空には、知ってる月が輝いていると言うのに。


『どんな強固な城にも必ず抜け道はある』

歴史探究部の女子の先輩が、ぼくに行ってくれた言葉だ。


そう、この異界にも必ず抜け道があるはずだ。


「はぁ~先輩に会いたい~めっちゃ先輩に会いたい~」

ぼくは言葉にして呟いた。この世界では意味のない音だろう。


「はぁ」


ぼくが書こうとしていた『パラレルワールドに関する論文』

決して異界に来たかった訳ではない。


でも興味を持ってしまった事が、ぼくを異界に呼び寄せたのかも知れない。

「はぁ」


人々の表情がかなり陽気だ。この雰囲気なら迫害はされないだろう。

知らない街では、どうやら何かの祭りをやっているようだ。


ぼくはちょっとホッとした。


賑やかな街を歩いて行くと、この世界としては不思議な看板が見えた。


【愛結島琉之輔商店】

字体は少し崩れてはいるが、そう読めなくもない。


何かにすがりたい気持ちが、そう読めてしまうのかも知れない。

ぼくの心は、それだけ弱っていたらしい。


そんなぼくに、

「ようこそ、いらっしゃいませ!ようこそ、いらっしゃいませ!」

と声が聞こえた。


人間の声ではなく、インコの声だと言う事はすぐに解った。

インコの声だとしても、理解出来る言語が、脳に入ってくる感覚が、これほど心地よいものだとは、思わなかった。


そして、弱っているぼくの心は、その【愛結島琉之輔商店】と言う看板が掛かっていたハンバーガー屋に入った。


もう持ち金は少ないと言うのに・・・



つづく

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