ドアの向こう側【参】
今の僕は陸上用の投げ槍ではなく、歴史博物館に有った、戦国時代に使われた槍を手にしていた。
さらに刀も。
どちらも村正だ。パラレルワールドで元いた世界とは、何かが違うとは思うが、
村正で在る事は間違いない。
殆ど廃墟と化した街を歩いていると、元商店街に見覚えのある商店を見つけた。
【愛結島琉之輔商店】
僕はこの商店を知っていた。
祖父母の家の近くに、そんな商店があった。
流行っているのか解らない様な商店だった。
【愛結島琉之輔商店】は、荒されてはいなかった。
その絶対繁盛していないであろう独特の雰囲気が、逆に暴徒を寄せ付けなかったのかも知れない。
僕は興味がそそられ、その【愛結島琉之輔商店】のドアを開いてみた。
奥に人の気配がしたので、奥に進んで見ると、店長と思える男が椅子に座ったまま眠っていた。
アラサーと言った所だ。
「あの~すいません」
声を掛けると、店長と思える男は目を覚ました。
そして不機嫌な顔で僕を一瞥すると、
「いらっしゃいませ」
やる気のない声がした。
間違いない祖父母の家の近くにあった商店の店長だ。
こちらの世界の雰囲気がするから、こちらの店長なのだろう。
あれ?
僕の心の奥で違和感を感じた。
何かが違う。
何だろう?
愛結島琉之輔商店。
僕は子どもの頃の記憶から、その違和感を探った。
この店は、何かが違ってた。
何だろう?
子どもの頃の僕は感じていた。
この店の客の違和感を。
異なる世界の雰囲気の客たちの存在を・・・
この世界と元いた世界の相違。
その雰囲気の相違。
それに似た感覚だった。
今なら解る。
あの客たちは、異なる世界の人々だ。
店長らしき冴えない男は、マグカップに入っている液体を、一口飲むと、面倒くさそうに、
「何かお困りですか?」
と尋ねてきた。
声の質から面倒くさい感が、ひしひしと伝わってくるのだが、それは商店の店長として最低限の商売っ気な感じがした。
これ以上愛想が悪ければ、きっと商人失格なラインだ。
その最低限の商売っ気を頼りに僕は、言った。
「助けたい人がいるんです」
「ほう」
「僕は知ってます。この店では助けてくれるはずだと」
ちょっと張ったりだったが、冴えない男は再び、
「ほう」
とだけ返答した。
その「ほう」はそう言う事だと僕は判断した。
この冴えない男は、パラレルワールドの秘密を知っている。
ただ特別な知識を持っている様には見えなかった。
「その人はこの世界に居ては行けない人なんです」
今度は冴えない男は「ほう」ではなく、ただ軽く頷いた。
「連れてきても良いですか?」
僕の問いに、冴えない男は無言で空を見つめた。
2分か3分か時が流れた後、冴えない男は告げた。
「構いませんよ。ただわたしはあまり働くのが好きではなくてね。
何ていうか、正月休みと称して、節分までは仕事はしない事にしてるんだ」
正月休みを1月取るのか?
でも渕上さんを探す時間も欲しいし、1月ぐらいなら大丈夫だろう。
「解りました。1月後に彼女を連れてきます」
「彼女?おなご?」
「はい彼女で、おなごです」
「おなごをそんなに待たせる訳にも行かないな。すぐ連れて来てください」
冴えない男の目が少しだけ輝いた。
大丈夫か?
この男は?
つづく
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