更新日時 7日前

 それから彼女は『死にたい』と、頻繁に口に出すようになった。

 僕は病院やカウンセラーを進めたが、頑として首を振らず、あげく怒らせ破局しかけてしまった。

 数週間前と打って変わって、彼女に会うのがつらく苦しく、まるで真綿で首を締められている心地だ。

 しかし、『百合』のことが好きというのは変わらない。どうにかして彼女を救う方法はないかと、手がかりを必死に探した。

 そして夏休み期間となり、勉強に手が付かないまま『百合』の過去を探るべく、SNSで彼女の足跡をたどった。しかし、当たり障りのない投稿ばかり。

 ふと、彼女と出会う切っ掛けにもなった『#あの世希望』というハッシュタグを思い出し、検索して過去を追う。すると、思いがけない人物の名前を目にすることになった。


「……おだ……まきお」


 『オダマキ』というアカウントの最後の投稿。『#あの世希望』と共に書かれていたのは。


『俺は明日、このくそったれな世界から解き放たれ、彼女との約束を守るため、共に電車に飛び込みます。大好きだよ、ももちゃん。ずっと、一緒にいようね』


 最終投稿日時は42日前。アカウント名も本名と似ているし、住んでいる地域、学校など、小田牧夫と共通点が非常に多いユーザーだった。

 しかし、もう一人自殺者がいたなんて。学校内ではそんな噂は流れていなかったはずだ。

 僕は気になって、当時の人身事故に関するニュースを徹底的に調べ上げた。利用者のもっとも多い朝の時間、男女が電車に飛び込んだなんて、誰かが見ていたに違いないのだから。

 しかし、どの投稿も『男子生徒が飛び込んだ』という話ばかりで、女子生徒の話など1ミリもでてこない。

 小田の頭が宇宙レベルでおかしくなっていたのか、はたまた、幽霊にでも憑りつかれていたのか。


――ツブヤッターに『#あの世希望』ってハッシュタグつけて『死にたい』って投稿すると、冗談でも49に死んじゃうってやつ。


 急にあの噂がよみがえり、僕は生唾を飲み込みながら小田の最終投稿日時に視線を移した。

 49日まで、あと……。


「……いやいや、そんな非現実的なことがあるわけがない。都市伝説なんて馬鹿らしい」


 もし真実だとしたら、もっと大騒ぎになっているに違いない。

 たまたまあの投稿を見た『百合』が僕に興味をもって、連絡してくれただけにすぎないのだから。


「一緒に……死んでくれる人を、か」


 きっと、『百合』を拒絶したら、彼女はまた別の人と死のうとするのだろうか。

 あの陰のある綺麗な笑顔、よく手入れされた小さく滑らかな手、血のように赤い唇も青痣まみれの白い柔肌も。


「……嫌だ。クソみたいな今と未来より、僕は彼女との一瞬が欲しい」


 そう口に出してみると、厚い雲に覆われていたような頭の中がぱっと晴れ渡り、清々しい気持ちとなった。

 すぐにそのまま、彼女にDMを送った。『僕は死んでも『百合』といたい『#一緒にあの世希望』』と。

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