更新日時 43日前

 数日後、週末の昼下がり。

 僕は生涯縁の無いであろうはずの原宿駅竹下通り口前にいた。

 昨日の夜中まで考え抜いた無難ながらおしゃれだと思うコーデに身を包み、午前中のうちに髪を切って清潔感を出すように心がけた。

 切りすぎたかもしれないと不安になる前髪をいじくったり、スマホの画面を1分ごとに確認したり、今日のプランを頭の中で反芻したり。

 その時、後ろからポンと肩を叩かれ、僕は弾かれたように振り返った。


「うわぁ! すっごい勢いで振り返るからびっくりしちゃった」


 ふわりと、甘い花の香りと爽やかな石鹸の香りが鼻腔をくすぐった。


「君が『我が心の呪いカースマイハート』だよね? はじめまして、私が『百合』です。今日はよろしくね」


 金色に近い栗色の長い髪と、シミとほくろが一つもない白い肌。二重の切れ長の目と赤い唇を細めて、いたずらっ子のように笑う彼女。


 ――冗談で『#あの世希望』と投稿したその日の夜、一通のDMが僕のツブヤッターに届いた。


「ほら、さっそく行こ! 今日はね、いっぱい買い物するって決めてたから」


 ギャルにも清楚にも見える不思議な雰囲気をまとう彼女は、ワンピース型のセーラー服をひるがえし、何の抵抗もなく僕の手をとって歩き出した。


――#毎日退屈#人生オワタ#気が向いたら病み同士繋がりたい#来世ガチャする


 そんなハッシュタグたちで、プロフィールが半分埋まっていた。すぐに察した僕は、見なかったことにしようとアプリを閉じかけたその時、アカウントの写真を見て手が止まった。

 ああ、なんて可愛いんだろう。理想を具現化したみたいな彼女の容姿に、趣味も似通い、おまけに彼女が理想とする彼氏の人物像に僕が当てはまっていた(気がする)。


「だって、もうすぐ死ぬんだから!」


 その『百合』名乗るユーザーとDMでやり取りをし、昨日突然、何の脈絡もなく連絡がポンと来た。


――『明日、死にたい者同士、会わない?』


「あ、それとも先にゴハン食べる? ねぇ、どんなお店、予約してくれたの?」


「あ、え、『百合』……さんが珍しい料理って言ってたから、チュニジア料理の……」


「やだー、SNSと同じで呼び捨てで良いってー。でもありがとー、チュニジアってどこか知らんけど」


 振り返ったまま、じろじろと不躾な視線を向ける人混みをかき分け、突き進む彼女。夏の太陽のような、眩しくも輝かしい笑顔を僕にだけ向けている。


 ――だから、そんなに元気な姿で『死にたい』だなんて、きっと僕と同じ冗談だ。


 こんなに可愛くて優しくて陽キャな彼女が、僕にずっと付き合ってくれるわけがない。きっとおふざけだ。だから今だけラッキーと思って、退屈しのぎをしよう。

 僕はそんなことを思いながら、15年の人生の中でもっとも充実した半日を過ごした。

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