更新日時 49日前
「……えー、残念なお知らせですが、小田君が今朝、亡くなりました」
「一時間目は自習です」と言うが早いが、額の汗をハンカチで拭いながら、先生は教室を飛び出した。
そしてすぐ、蜂の巣をつついたように騒ぎが巻き起こる。
クラスメイトの小田牧夫が死んだ。SNSで拡散されている情報によると、線路に飛び込んで電車に轢かれたらしい。
いじめを受けていたとか、勉強に行き詰まっていたとか、本当に自殺なのかとか。身勝手な憶測が夏の羽虫のように飛び交い、彼らの退屈を紛らわす玩具になっている。
僕は頬杖を付いて聞き耳を立てつつも、雲一つない眩しい初夏の日差しが差し込む窓の外を眺めていた。
「……ねぇねぇ、SNSの『#あの世希望』って噂、知ってる?」
隣ながら席の離れたジャージ姿の女子が振り返り、チョコレートバーをむさぼる太った女子に話しかけた。
「ああ、あれね。ツブヤッターに『#あの世希望』ってハッシュタグつけて『死にたい』って投稿すると、冗談でも49日後に死んじゃうってやつ。もしかして、小田が投稿してたってオチ?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……私、昨日、ハチ公前で見たんだよね。しかも、韓流アイドル気取った格好でさ」
「ええー? あのクソダサ陰キャのアイツが? 見間違いじゃないの?」
「いや、あれは絶対に小田君だった。あの趣味の悪い猫のスマホケースだったし。でね、なんか周りを見回したり、スマホを確認したり、ソワソワしてたの。だから絶対、あれは彼女を待ってたのよ、きっと」
「マジ?! その相手見た?」
「ううん、友達に急かされてその場をすぐ離れちゃったから……」
途端に太った女子は興味を失ったようで、二本目のチョコレートバーの封を開けて豚のように食らい付いた。
「ま、3年生になってから、アイツ成績ガタ落ちだったし。ほら、カンニング疑惑もかかったじゃん。なんか色々と思い詰めちゃったんでしょ、知らんけど」
ジャージ姿の女子は「たしかにー」と馬鹿みたいにあっけらかんと答え、すぐにヨウツベのバズリ動画の話題に移った。
僕はそこで聞き耳を立てるのをやめ、スマホをバッグから取り出し、ツブヤッターのアプリをタップする。
(#あの世希望……本文に『死にたい』っと)
投稿ボタンに親指が伸びるも、途中でぴたりと止まった。
本当に自殺願望があるわけではない。ただ、今が死ぬほどつまらなくて、未来に希望が持てないだけ。
(……ついでに『毎日退屈だから』って書いとくか)
だから、何か変わった刺激が欲しかった。
通販サイトでマンガを買う時と同じ感覚で、僕は投稿ボタンを押した。
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