ねぇ、殺してもいい?

@mika_hanawa

第1話 序章


「美花ちゃん、今までありがとね…」

「また絶対会おうね!今度うちに遊びに来てよ!」


 私は如月きさらぎ 美花。普通の中学1年生。

 いや、普通ではないか。なぜなら、私は殺し屋だから。コードネーム”月光”として、暗殺組織”クレッセント”で働いている。まあ、殺し屋といっても、まだ見習い程度で、相手は大体、常人より少し体力があるだけの....まあ要はザコだ。

 お父さんの如月翔も殺し屋で、コードネーム”満月”として活躍している。父はクレッセントでエリート中のエリートだから、相手はほとん上級者プロだ。普段は製薬会社の社員として働いている。

 先月、その製薬会社から転勤を言い渡されて、私たちはここから車で5時間ほどの町へ引っ越すことになった。今日は、その引っ越す日で、友達にお見送りをしてもらっている。


「うん!また会って、一緒に遊ぼうね!」


 涙ぐみながらお見送りをしてくれる友達に大きく手を振ると、私は父と弟が待つ車へ乗り込んだ。



 車に乗り始めてから、4時間半くらいたった。

 ...綺麗だな。

 この町は、自然の町、と言われる意味がよく分かる。

 あたりには美しい海、森林が広がっている。

 ピロンッ

 私のスマホから通知音が鳴った。

 スマホをのぞき込むと、クレッセントでの私の上司、京極 天音からだった。

『美花、お仕事のお知らせだよ。明後日、××路地裏の××店で”岸野 将太”。宜しく。』

 とだけ書かれていた。

 その瞬間、何とも言えない感情が体を包み込むのを覚えた。

 そんな私に気づいていないのか、弟は呑気に外を眺めている。

「ねぇ、お父さん。まだ着かないの~?」

 私の弟、如月 蘭が言う。小学4年生だけど、IQ200の天才で、物凄く頭がいい。だけど、父の職業が殺し屋だということもあり、敵から狙われるかもしれないから、その能力は他人に隠している。蘭は、まだ小学4年生で幼いから、殺しはしていない。その代わり、敵の情報を集めたり、作戦を立てたりする役割を果たしている。

「後もう少しだよ。ほら、あそこに大きなマンションがあるだろう。今日からお前たちが住む家だぞ。」

 お父さんに言われてマンションを車の窓から覗き込む。マンションは前に住んでいたアパートとは比べ物にならないほど、大きく、美しかった。今日からこのマンションに住むことができると思うと、胸が高鳴った。ずっと住むことができるとは限らないのだけど。そう考えると、私がこのマンションに住む権利があるのか疑問に思う。そんなことを考えていると、先程まで高鳴っていた胸は、いつのまにか不安に変わっていた。悲しく、残酷な"殺し"。でも、もういまさらやめる事なんて不可能だ。止めれば即座に殺される。組織に、いやお父さんに。


 なぜなら、お父さんは、’’本来の姿’’に変貌してしまうから。






 相当の優等生だけが入学できる学校、"七海学園"。

 僕が通う中学校は、その七海学園の附属中学校だ。廊下には、「すめらぎ 慎也しんや 」と書かれた賞状が沢山貼られている。

 皇さんは僕のクラスの学級委員長で、なんでも出来て、女子からも人気だ。それに対して僕、信濃しなの 朝夜ともやは、入学試験に本当に受かったのか、というほど頭が悪く、運動もできない。頑張って勉強しても、定期テストの順位は、常にビリで自分でもやる気を無くしている。

 入学試験では、問題がわからなすぎて居眠りしていたら、なぜか解いてもいない問題に丸が付いていて、運悪く合格してしまった。採点者は、どんだけテキトーに採点してんだか。"運悪く"というのは、合格した時はとても嬉しかったが、入学した今としては、最悪極まりないからだ。

「こ、こんにちは。」

 僕に小柄な女の子が話しかけてきた。

 整った顔。

 美しい瞳、茶髪の髪の毛。

 そして、頭に大きな赤いリボンを着けているのが特徴的だ。

 こんな綺麗な女の子、僕の学年にいたかな?

 いや、いたとしたら、すぐに人気を集めて、有名人になっていただろう。

 ならば、他の学年だろうか。

 しかし、この身長では、中学2、3年生だということは考えにくい。もちろん、2、3年生でも小柄な子はいるが、この子は、子供っぽいというわけではないが、どこか2、3年生より幼さを感じさせる。

「あの、今学期からこのクラスに編入する、1年の如月美花と申します。」

 考え込んでいた僕に気がついたのか、彼女は気まずそうに話しかけた。

「そうでしたか。僕は、信濃朝夜と申します。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「おっはよ〜!」

 2人だけだった教室に陽気な男子たちが入り、静かだった教室が一気に賑やかになる。

「あれ!?信濃、その女の子は?」

「えっと...」

「私、このクラスに編入してきた、如月美花と申します。よろしくお願いします。」

「え⁉︎マジで⁉︎美花ちゃんめっちゃ可愛いじゃん‼︎」

「ハハッ、ありがとうございます。嬉しいです。」

「なんなら俺の彼女になってくれてもいいよ。」

「...えーと」

 美花は明らかに困った顔をしている。


 ガラガラ...

 その時、教室のドアがゆっくりと開いた。

「みんな、おはよう。」


「キャー‼︎皇く〜ん♡」

「皇くん、はいこれチョコ♡皇くんのために作ったんだ♡」


 例の皇さんが教室に入ると、クラスの女子たちはいつもこうだ。今日がバレンタインなこともあり、今日はいつもに増して女子たちが集まっているように感じる。

 さっき美花と話していた男子は、それが羨ましいのか、眉間に皺をよせて舌打ちしている。

「皇め〜!俺なんて女の子からチョコ一つも貰ったことないのに〜! ブツブツ」

 隣の男子なんかは、嫉妬のあまり、本音が口に出てしまっている。

 僕としては、どうでもいいことが気持ち悪く耳に入ってきて、迷惑極まりないのだが。


「それじゃ、みんな起立!」


 皇が声をかけると、普段先生が言っても立ち上がらないところ、みんな一斉に立ち上がった。


「今日は、みんなにお知らせがあるんだ。ジャーン、今日からみんなと一緒に過ごす、編入生だよ!ほら、入って。」

「皆さん、こんにちは。北市立中学校からかきた、如月美花です。今日からよろしくお願いします。」


「よろしく。」

「よろしくね。」


「それじゃあ、まず、先生が来る前に自己紹介を済ませようか。まずは俺から。このクラスの学級委員長を務める、皇慎也と申します。よろしく。」

「私は、桃井杏奈よ。美花ちゃん、よろしく!」

「うん、杏奈ちゃんよろしく!」

 しーん

「ほら、信濃も早く!!」


「グースピ...」


「「「・・・」」」

「ちょっと、信濃!?せっかく美花ちゃんに自己紹介してるのに、あんた何寝てんのよ!?」


「うるさいなぁ。眠かったから寝ただけだよ。」

「それは分かるけどさ、今はー」

 コンコンッ

 誰かが教室の扉をたたく音がした。

「お姉ちゃんっ!」


「蘭!?」

 どうやら、この子は美花さんの弟みたいだ。

 何があったのか、物凄く焦っている。

「ちょっと、来て!」

「えっ?あ、うん。すいません、ちょっと抜けますね。」

 僕は、その姿を、眠気のせいもあって、ボーっと眺めていた。




とりあえず、私と蘭は廊下に出る。

蘭の焦った様子からして、’’あちら’’側の話だろう。

声を最小限までひそめる。

「蘭、いきなりどうしたの?」

蘭の顔が前髪で隠れて見えない。

しかし、とてつもなく暗い顔をしているのは分かる。

「さっき、京極さんから連絡が入ったんだ。あのね...」

「なあに?」

「お父さんからの命令。今日こいつを殺せだって。」

蘭が写真を見せる。

「.......また?明後日もあるけど。」





「殺せなければ.........」











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