ユウキの崩壊 9

(えっ!まだ私っ)


 咄嗟に音の方向に目を向けると既に部員が飛んでいた。


 部員の中でも一際体格の良い疋田葵ひきたあおいのジャンプは十分な高さを稼ぎ、両足は明確な悪意を持って揃えられている。優秀なアスリートの持つ緻密さで、既に壊されているみのりの左の足首に向かって思い切り着地した。


ゴッキャア!ゴギンッ!


「ひぃぎゃあああああああああああああああああ」


「ああああああああああううあぐううあああああ」


 十分すぎるほどの意図を持ったその着地は本人には何らダメージを与えず、みのりの足だけを完全に破壊した。鍛え上げられ絞り込まれた細い足首は見る影もなく変形し、不自然に折れ曲がっている。


「ゴメンゴメン、千川大丈夫か?」


 誠意の欠片もない言葉をかける。みのりは足首で爆発する痛みのシグナルに耐えながら、途切れそうな意識を繋ぐので精一杯で何も聞こえない。


「千川~、これくらいで壊れてちゃ、レギュラーなんて無理無理~」


「うわっ何この足、キモッ」


「だせー」


 歩み寄る部員たちの態度は反省や後悔など微塵も感じさせない。たった今、少女の一生を左右するかもしれない大怪我を負わせたとは思えない。


「せ、ん、か、わ~」


 姫衣がコートに這いつくばる、みのりの顔の前でしゃがみ込む。


「痛そうじゃん、びょーいん行った方がイイんじゃね?」


「はあああ……んぐうう」


「吉川呼んでやろうか?」


 兼任で顧問をしている吉川の名前を出す。


「おっお願い……呼んで……はぐっ、はや……く」


 みのりは悶え苦しみながら懇願した。


「あん?先輩にお願いする態度じゃなくね?おい、こいつの靴脱がしてやんな」


 濃厚な悪意を塗りたくった指示を出すと、葵はみのりの靴に手をかけた。骨折し靭帯がちぎれグラグラになった足首は、紙一枚ほどの抵抗も出来ないまま乱暴に持ち上げられる。


ギジィッ!!


「はあっぁああああぎゃうあああああああ」


 足首を力任せにもぎ取られたような、経験のしたことのない激痛が全身を走る。


「やめてやめて、さわらないっあああぃでーーーあああ」


「千川~、お願いの仕方があるだろ?」


「はぐっうう、おっお願いします」


「んっ?」


「お願いします、お願いします、許して下さい、先生呼んでください、お願いします、許して下さい……」


 生まれて初めて味わう絶痛絶句ぜっつうぜっくに十数年かけて作りあげた勇気とプライドは、いとも簡単に噛み砕かれてしまった。


「許して下さい、許して下さい、許して下さい、許して下さい、許して下さい」


 みのりは泣きじゃくりながら姫衣の足首にしがみつく。


「こんなもんかな」


 目の奥から溢れて出していた闘志と生命力を失い、許しを乞い続ける少女を見下ろし満足そうに吐き捨てた。

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