ユウキの崩壊 10

 みのりの身に起こっている出来事を何も知らない優希は何度もスマホの画面を確認していた。


時間は夜の10時をとっくに過ぎている。


 優希の左手の包帯を見てみのりが怒り狂わないよう、前もって自転車で転んだと嘘の言い訳を写真付きでLINEを送ったのが9時ごろ。いつもならその時間は、みのりも自宅でリラックスして過ごしている時間だが、未だ既読にならない。


(疲れて寝ちゃったのかな?みのりと話せないと学校に行くのが怖い……)




 翌日、既読はまだついていない。


(まだ既読がついてない……どうしたんだろ?)


 考え事をしている内に気が付けば教室の前にいた。深呼吸をし左手の包帯を隠すように右手で覆いながら教室に入る。


 誰一人目も合わさず、声もかけない。昨日あんな事があったのに何も変わらない日常がそこあった。


 ただ一つみのりが居ないことを除けば。


(みのり……本当にどうしたの?)


 包帯を擦りながら襲い来る不安と戦っていると担任が教室に入ってきた。


「あ~千川だが、昨日部活中に怪我をして暫く入院するそうだ。仲の良い奴は見舞いにいってやれ~」


 男性教諭の河田かわだは業務連絡のように死んだ目で、それだけを告げると教室を出ていった。


ガタンッ!


「先生っ!」


 優希は教室を飛び出す。


「みのりは大丈夫なんですか?怪我って?いつ?どこに入院してるんですか?なんで?」


「あ~分かった分かった、俺も詳しいことは知らんから聞いておく、昼休みに聞きに来い」


「……はい」


 優希は引き下がるしかなく、重い扉をひき教室に戻る。ほんの少しの間に鞄の中身は床にバラまかれ、教科書には汚れたソールの後がこびり付いていた。


(みのり……)


 優希は自分の苛めがエスカレートしたことよりも、みのりの容態が気になり上の空で散らばった鞄の中身を片付る。


 何人かのクラスメイトはその様子を見て嘲笑っていたが、ひるむ様子のない優希の態度に陽菜だけは苛立ちを感じていた。


「先生っ、聞いてくれたんですかっ」


「あ~ちょっと待て待て」


 昼休みになった途端に職員室に駆け込んできた優希にうんざりした様子で、メモを手にした。


「あ~足の骨折で手術をするそうだ、えっと緑ヶ丘中央総合病院だな」


「手術!そんなに酷いんですか?」


「いや、俺はそこまで詳しいことは分からんよ」


「……そうですか、ありがとうございます」


 肩を落とし職員室を出た優希は教室に戻ると鞄を持ち、そのまま早退した。


 緑ヶ丘中央総合病院は松葉女子と駅の反対側からバスで15分ほどのところにある。学校で怪我をしたので地元ではない病院での入院になったのだろう。


(どうしよう……手術なんて……そんな大怪我……私のせい……)


 不安と自責の念に押しつぶされながら病院行きのバスに揺られていると、真っ白な建物が見えてきた。総合病院らしく巨大で威圧的な建物の前に立つと思わず足がすくんでしまうが、大きく呼吸をして歩を進めた。


「すみません、昨日入院した千川みのりさんの病室を知りたいんですけど」


「千川さんですね。少々お待ちください。えっとB棟の604号室になりますね」


「ありがとうございます」


 優希は走りだしたい気持ちを押さえ、教えられたB棟を目指す。

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