ユウキの崩壊 8

「ほらっ早くしろよ」


「はいっ」


「トス練っ!」


「はいっ」


バシッ。


「おら、もっと指立てろっ!」


「っつ、はいっ」


「肘固めろっつってんだろ!」


 部長の姫衣は次々に強烈なレシーブをみのりに打っていく。


 今日の練習はいつもにも増してキツい。


 通常トスは人差し指と中指で三角形を作り、肘や膝を柔らかく使うのだが、あえてその逆をやらせている。固めた肘や膝は衝撃を逃がせず、立てた指の関節を壊し続ける。ボールの威力で可動域以上に反らされ、伸びきった靭帯は骨を剥離させてしまう。


(ぐううっ!つうっ)


(あぐっ!つあっ!)


 もう無事な指は一本も残っていない、治る暇もなく痛め続けられているので始めは軽い突き指だった指も、靭帯損傷、剥離骨折と重症化していった。日常生活に支障が出るレベルの怪我を負わされ苦悶の表情を浮かべながらも、みのりは非情なしごきに耐え続ける。


(絶対見返してやる!)


 その目からは射るような闘志が溢れ続けていた。


「よし次っブロック!」


「さんさ~ん」


 他の部員達は素早くブロック練習のフォーメーションをとった。


 ネットの前に2人並び交互にブロックをする、ブロックした側の部員は素早くコートから出て次の部員に入れ替わる。部員はコートの右側と左側に別れ、グルグル回りながらひたすらブロックの練習の為ジャンプとダッシュを繰り返す。


 ”さんさん”というのは3人づつ別れてチームを作れという意味で、当然人数が多い方が自分の順番まで体力を回復できるのだが、3人のフォーメーションは通常の半分以下の人数で、体力的にはかなりキツい。


(珍しく他のレギュラーがいると思ったら、この為か)


 肩で息をしながら、みのりはネットの左サイドに移動する。


「千川っ」


バシンッ!


 みのりは最初にブロックをすると、素早く左サイドの輪の後ろに移動する。


(はあはあ、畜生、指ばっかり狙いやがって)


 姫衣のレシーブは常にみのりの指を狙い、壊そうとしているのは明白だった。ズキズキと痛みと熱を訴える両指を震わせながら、頭の中で悪態をついていると直ぐに順番が回ってきた。


(にゃろう、早いなっ)


バシイッ!


「ウグッ」


 痛みに耐えながら後ろに回る。息を整える暇を与えず3周目に入る。


「ほらっもっと高く飛べって!」


(てめえ、ふざけんなっ)


 怒りを込めてジャンプブロックは思いの外高く飛ぶことが出来たので指のダメージは軽減された。


(ざまーみろっ)


 してやったりと思い着地した時、左足に違和感を感じた。


(!?)


 着地地点に何かある?気付いた時には既に左の足首は捻転し折れ曲がっていた。


グキッ、ミチッ、ギジイ。


 足首の関節内で何かが引き千切れる音とズレる音、壊れる音が同時に鳴り響いた。


「っああああああああ」


 激痛に不意打ちを喰らったみのりは、痛めた左足をだらりと伸ばしたままコートに突っ伏した。


(なに……が)


 頭を上げると目の前に足があった。


(なんで?)


 みのりの次にブロックに入る香川が順番を待たずにそこに立っている。みのりは着地の際その足を踏んでしまったのだ。


 否、踏まされたのだった。

 

 集団スポーツの怪我。その原因で多いのは意外にも予測出来ないタイミングで、他の選手の足を踏んで捻挫してしまうことだ。バレーボールやバスケットボールなどジャンプをともなう競技は特にその傾向が当てはまり、何か月もプレーが出来なくなるほどの重篤な怪我に繋がることも珍しくない。


 香川は薄笑いを浮かべながらみのりを見下ろしている。


(うっくぅ……ワザと……あぐぅ)


バンッ!!


 今までと違う直接的な敵対行動に困惑していると、レシーブの音が聞こえた。

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