ユウキの崩壊 6
(痛い痛い痛い)
(何するの?)
「こうやれば、赤くなって目印になるんじゃね?」
「ちょっやだっ、お願い、やだっやめてっ」
「また暴れてる、逃げられちゃうかもよ」
萌香が皆にGOサインを出す。
「ここかな?」
スパンッ!
今度は亜美が上履きを叩きつけた。
「いったぁあああっ」
普段気にする事もないゴム底は硬く重かった。複雑に刻まれたソールパターンの凹凸も打撃の威力を増すのに貢献している。
「痛っい……」
たった2回の打撃で華奢な手の甲は真っ赤に染まりはじめ、ジンジンとした痛みが涙を流させる。
「あっは、面白いかも~」
「次わたし~」
「私も~」
スパンッ!バンッ!バチン!バゴ!ズパン!
集団心理に侵されたクラスメイトたちは、次々に優希の手の甲に上履きを叩きつける
「ひっ」「あぎっ」「いだっ」「あああっ」「やっ」「ぎゃうっ」
その度に優希は自分でも聞いた事のない悲鳴とも嗚咽ともつかない
「大分、い~い色がついてきたみたいね」
優希の手の甲は赤く染まるどころか腫れあがり始めている。
「あれ~芽衣と花音はまだやってないよね?あっ横沢さんもか~」
放課後何人かのクラスメイトは部活に行ったり帰宅していたのだが、その3人は突然始まった凶行に怯え帰り損ねていた。
「えっもういいんじゃない?」
「うっうん」
「……」
「やらないの?もしかして、この透明人間の仲間だったりして~」
小首をかしげ目を細めながら陽菜は質問をした。
「えっちっ違う……よ」
花音が下を向きながら呟く。
「だったら~違うって証明してよ~」
ねっとりとしたその言葉はもう命令に近い、3人は肩を落としながら優希の元に歩み寄ると佳が花音に上履きを渡した。
「ごめんっ」
バシッ!
「ああああっ」
「ゴメンね・・・」
バチンッ!
花音に続いて芽衣も手の甲を打った。
「ああああ……いったぃ……」
優希の左手の甲は完全に腫れあがり、痛みのせいか小刻みに震えている。
「はい、横沢さんも」
横沢は貧相ともいえる痩せた肩を震わせ、上履きを手に持ちながらその場から動けないでいた。
「はやく~、次は陽菜の番なんだから~」
その声に押され上履きを大きく振りかぶった。
「ごめん、私……怖いの」
飾り気の無い無機質なメガネの奥で、横沢の目は涙を流していた。優希はそんな彼女の心を汲んだ。
「いっいいよ……大……丈夫だから……」消え入るような声を出す。
パンッ!
「うっああああああああ」
優希は机に突っ伏して痛みに喘ぐ、盤上は涙で水溜りが出来ていた。何度叩かれたか分からない手の甲は激痛と痺れが交互に襲ってきている。
「あはは、真っ赤っか~これなら透明でもわかるね~」
陽菜は手に持った上履きの先端で真っ赤に腫れた手の甲を突く。
「あぐっっ」
優希の反応を見て口の端を歪める。
「最後は、わったし~~」
陽菜は十分に振りかぶると全力で上履きを叩きつけた。
バッシイイイイ!
今まで一番大きな音が教室中に響いた。
「ぎっあああああああああああああ」
「あああ……あああ……ぎいぃ」
漸く萌香が手を離すと、優希は手を押さえ泣きじゃくる。
グスッ、グスッ、ヒクッ、ヒック。
「ううう……どうして……こんな事するの?」陽菜は答えなかった。
「さ~帰ろ~っと」
何事もなかったように帰り支度は済ませ、取り巻き連中と教室を後にする。
(どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!)
優希は理不尽な世界に否応なく放り込まれ回遊させられていることに憤りとおののきを感じていた。陽菜は去り際に優希に目をやり、独り言にしては大きい声で最後の毒を吐く。
「あ~そういえば、不思議ちゃん暫らく学校来れないかも」
優希はその時”不思議ちゃん”が、みのりの事だとは気付かず痛みに喘え続けていた。
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