ユウキの崩壊 5
午後の授業は全く頭に入らず、3限目の休み時間でもみのりの指に巻かれたテーピングのことを聞く事ができなかった。
怖かった。
自分が原因で、みのりまでもが苛めの標的になっていたのだ。それを確認することで、辛うじて掛かっている心のかけ橋が外されてしまうような不安があったからだった。
そして放課後。
「じゃあ、また夜LINEするね」
それだけを言うといつものように、みのりは部活に向かう。それに続き優希が帰ろうとすると亜美と萌香が椅子のすぐ横で立ち話を始めた。優希の席は廊下側の一番端なので、そこに立たれると動くことが出来ない。
(何?)
「あ~~」
今度は佳が声を上げた。
視線を移すと佳は右手でハンカチを摘まみ、フラフラとこちらに向かって歩いてきている。手を上下に動かし、ハンカチが飛びながら移動しているような演出をしてるようだ。
「ハンカチが勝手に飛んでいっちゃう~」
「あ~陽菜のハンカチが~」
陽菜と佳は棒読みでセリフを読むような話し方でハンカチの行方を追う。
「ヒラヒラヒラ~」
佳は手に持ったハンカチを優希の手の甲に乗せた。
「いやっ」
恐怖を感じ咄嗟に手を引こうとした優希の左の手首を萌香が抑えた。
「あれっ?ここに何かいるよ」
「えっなになに」
「それ透明人間じゃね?」
「やばっ見えないからって陽菜のハンカチ盗もうとしたんだっ」
「あたしも消しゴム無くなったし」
「私も」
「あたしも~」
次々に声を上げるクラスメイトたち、それぞれが何かを盗まれたと主張している。
「もうやだっ私何にもしてないっ」
優希は自分の左手首を押さえている萌香の手を剥がそうとするが、ビクともしない。
「離してっ離してっ」
誰も優希の訴えには耳を貸さない、ただニヤニヤと笑いながら見ているだけだ。
「なんか逃げようとして暴れてるみたい」
「無理げー、萌香ハンドボール部だし、ピッチャーだし」
佳は情報を聞かせることで逃げ道に囲いをしてしまう。確かに自分の手首を押さえている萌香の腕は太く筋肉が隆起している、優希の腕力で逆らうことは無理だと思った。
「じゃあさ、逃げられたらまた見えなくなっちゃうから、目印つけとく?」
佳のハスキーボイスには悪意が含まれていた。
「え~何するの~」
陽菜の質問は確実に答えを知っているそれだった。
「萌香しっかり押さえておいてね」
いつの間に脱いだのか上履きを持っている。
「ん~この辺かな?」
佳は左手で優希の手の甲の位置を確認すると、右手に持った上履きのゴム底を叩きつけた。
スパーーン。
「いっったぁい」
突然襲ってきた痛みに優希は悲鳴をあげた。
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