ユウキの崩壊 4

「きゃはははは」


 一際高い笑い声が図書室の静寂を破った。陽菜とその取り巻きの3人が柔らかだった空気を無遠慮にかき回す。


「それでさ~」


 ガチャガチャと騒音を撒き散らしながら一行が腰かけたのは、優希の直ぐ後ろの勉強机だった。


(とうとうこんな所まで……)(もうやだ)


 その場から逃げようと腰を浮かしかけた時、体を張り付けにする呪文が陽菜の口から放たれた。


「そう言えば、みのりん、今大変みた~い」


(えっ今みのりの話をした?)


「え~どうしたの?」


「なんか~、レギュラー外されちゃったんだって~」


(うそっ、ずっとレギュラーでやってたのに)


「それで~毎日練習が終わった後に特別メニューで、先輩たちにしごかれてるんだって~」


「みのりんだけ特別メニューなの?」


 陽菜の取り巻きの一人、朝比奈佳あさひなけいが話を膨らませようと相槌をうつ、ハスキーで聞き取りにくい声に反し噂好きで、いつも人の悪口を言っているような女だ。


「そうみたいよ、それでね~みのりん体中ボロボロみたい、なんか体中痣だらけになってて指の骨とかも折れちゃってるんだってさ~」


「え~それって、やばくない?」


 天然パーマが特徴の坂本亜美さかもとあみが小声で反応した。


(指……折れてるって?みのりは何にも言ってなかった)


「でもさ、千川ってちょっと生意気だから、ザマ~だけどね」


 クラス内でみのりと同じ位の長身の槇原萌香まきはらもえかが口を挟んできた。槇原は普段からみのりのことを嫌っているようで、2人が小さな言い争いをしているのを何度も見た事がある。


「でも~、みのりんだって休まないんだから、嬉しんじゃないの~?痛いのが好きとか?」


「ありえる~、いつも誰も居ない机で話とかしてるしね」


「ね~皆見えないのにね、ちょっと不思議ちゃんアピッてるのかな?やばくない?」


 一様に、みのりの悪口を言いだしそれをずっと笑っている。みのりに対する悪意は自分に向けられるものより何十倍も胃をムカムカとさせ、気道も狭くなり息が苦しくなる。周りの景色がどす黒く染まって、空気の濃度も増していくようだった。


 いよいよ我慢できなくなり席を立つが、その場から去る優希の耳に衝撃的な会話が飛び込んできた。


「でも、特別メニューとかさ、何気に先輩たち優しいんじゃないの?」


「でしょ~、なんたって陽菜のお姉ちゃんが部長だからね~」


(なっ!陽菜のお姉ちゃんがバレー部の部長?みのりは嫌がらせをされてるの?)


 振り返る優希と陽菜の視線がぶつかる。


「なんか~嫌な視線感じるんだけど~」


「あはは、陽菜も不思議ちゃんアピってるじゃん」


「うそうそ、気のせいみたい」


 走り去る優希を目を細め眺めながら口の端を歪める。

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