第46話 反撃するための準備
「おい、起きろ」
刑務官に起こされるところから俺の刑務所生活は始まる。
「今日の朝食もおわんに少ししかない白ご飯と食パン1切れだけかよ」
「文句を言うな、犯罪者」
俺がいつ犯罪を犯したって言うんだ。
俺は人一人殺した事ない模範的な人物だぞ。
「囚人、整列。これに手を当てろ」
刑務官は俺達に綺麗な丸い石を布で持ちながら持ってくる。
これは魔力剥奪機と言ってその名の通り触れた相手の魔力をどんどんと奪っていく物だ。
「次!…次!…次!」
魔力を奪っている間は石が綺麗な紫色に光る。
これがここでの唯一の癒しだ。
綺麗な紫…ふっかっこいいじゃないか。
「次!…次!…次!…次!…おい、9154番早くしろ」
「はいはい」
俺は魔力剥奪機に手を置く。
「…9154番はこの作業が何故か遅いな」
「なんででしょうね」
もちろん俺は
「はい、次…次…次」
魔力を無くさないように能力で光が消えたようにするがな。
「この作業キツすぎだろ」
「9154番、無駄口を叩くな」
俺は今、ブロック石を積んでいって町の壁を拡張していっている。
あっ、前にゾンビ教の教会を襲撃した時に捕まえた牧師がいる。
…見つからないようにしておこう。
「よし、昼食の時間だ。食堂に集合だ」
「はぁ、またこれか」
「9154番、さっさと食べろ」
昼食は1切れの食パンに小さじいっぱい程度のジャムが乗った物だ。
栄養偏るだろこれ。
「囚人をなんだと思っているんだか」
「クソ野郎」
刑務官は囚人に対してひどい偏見を持っているようだ。
俺は悪い囚人じゃないよ。
「さっさと食べて作業に戻れ!」
あぁ雫の手作りを食べたいなぁ。
「おい9154番、面会だ。早く来い」
きたきた。
「来たぞ。お前は何がしたいんだ?」
俺は星奏と雫だけが来ると思っていたんだが有輝も来てくれたようだ。
ありがたい限りだな。
「竜さん、絶対に助けますからね」
(しっ!刑務官が近くにいるんだ。そう言う話はやめてくれ。色々疑われたら作戦に支障がでる)
(あっすいません)
俺が人差し指を口に当てながらそう言うと有輝は少し落ち着いたように座り込む。
「せっかく来てもらったのに悪いね。せめて2人の顔を見ておこうと思っててさ」
「「えっ?」」
俺が別れを切り出すように言う。
「ここでの暮らしが10年だよ。流石にやばくてやばくて。今はもう諦めてるかな、ここから出るの」
「お前さっき作戦に支障がでるって…」
「本当にお前らに会えてよかった。少し感謝してるぐらいさ。でもな、もうお前らに迷惑かけたくないからさ…分かるだろ?」
もう会えない雰囲気をなんとか作り出すため申し訳なさそうな顔をする。
「せめてこの時期になってもまだ見てないツバメを見てみたいな。俺って意外と動物が好きなんだぜ」
「なんかおじいちゃんみたいだね」
2人が少し悲しそうにする。
俺の演技を信じるなよ。
俺が伝えたい事を分かってくれよ。
「竜さん…僕、僕、竜さんにまだ何も返せてないっすよ」
「…いや、お前からは充分すぎるぐらいもらったし大丈夫だ」
主に金だが。
「竜…」
雫が困惑したように俺の名前を言う。
本当に信じるなよ。
監視してる刑務官にバレないための演技なんだからな。
最初の有輝のセリフのせいで結構見られているんだからな。
「本当に見てみたいもんだな。この時期になってもまだ見てないんだぜ。俺って運悪すぎだろ」
ここはちょっと無理矢理にでも伝えたい事をいれてやる。
「…面会の時間はもう終わりだ。行くぞ9154番」
俺は刑務官に手錠をかけられ作業場に連れていかれる。
「…じゃあな」
ここで哀愁を漂わせるようなセリフを吐く。
気づいてくれるよな。
「クソっ!あいつは本当になんのために私達を呼んだんだ。あんな諦めました感を出しやがって」
星奏は家のテーブルを叩きそう言う。
「作戦がどうとか言ってたけど本当になんだったんだろうね。最後まで分からないままだったよ」
「僕も竜さんがもう諦めているようにしか見えなかったっす」
皆、竜の予想外な態度に困惑している。
「竜が有輝に言っていた作戦に支障がでるってなんの作戦をさしているんだろうね?」
「さぁな、ていうか何がツバメが見たいだ。なんでもう何もかも終わりと思っているんだ。私達は本当に顔を見たいがために呼ばれたのか」
星奏はかなり怒っている。
有輝はかなり落ち込んでいる。
私はと言うとかなり竜の対応に疑問を持っている。
「どうすればいいんだろうね」
「どうすればあいつはやる気がでるんだ。このままで終わっていいはずがないだろ」
星奏がアニメとかでしか聞かないセリフを吐く。
「なんでツバメを見たいって言ったんだろう」
「そりゃ今は4月だ。ちょうどツバメが出てくる時期だろ」
ツバメなら竜と一緒にゾンビを倒しに行ってる時に見た事があるはず。
…ツバメ…ツバメ…ツバメ…
「あっ私の事だ!」
「雫はツバメじゃないぞ」
星奏は竜の事が予想外すぎて冷静さがなくなっているようだ。
「星奏、1回落ち着いて。竜が言いたい事が少し分かったよ」
「…それは本当か?」
「本当だよ」
星奏が結構驚いた表情をしている。
「ていうか竜があの時に作戦の概要を伝えなかったのは当たり前だよ。刑務官があんな近くにいたんだよ?」
「確かにそうだな。でもどうやって近づくんだ?私達が作業場に行ったら怪しまれるだろ」
星奏は全く分かってないようだね。
「竜から作戦を聞く方法はずばり私のクロを使う事でしょう」
星奏は私が何を言いたいのか少し考える。
「…そうか!雫は眷属にした動物と五感を共有できたんだったな」
正解だよ、星奏。
「そうなんすか?」
「有輝は知らなかったな。雫の能力は大まかに言えば動物を操る程度の能力だ。その能力に名前を付けて眷属にした動物と五感を共有できるんだ」
有輝がすごく納得した表情をする。
「そういう事、来て!クロ」
私はクロを召喚する。
«クロ、竜の所まで行ってね。頼んだよ»
«分かりやした、お任せくだせぇ»
「動物に話しかける可哀想な子みたいっすね」
「だよな」
有輝までそんな事言わないでよ。
あいつら分かってくれたかな?
分かってくれないと俺が困る。
そう緊張しながら今日も囚人としての仕事を全うする。
やっぱりブロック石は重いなぁ。
早くここから出たいなぁ。
無理矢理出ようと思えば出れるんだけどもしそれをやると逃亡罪になるから逃げれないんだよな。
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ。
俺が何をしたって言うんだ。
ゾンビ教に色々したし人1人は殺した位しか悪い事してないじゃん。
しかもそれの大体は星奏と雫も一緒だしさ。
俺って本当に可哀想な人だな。
俺みたいな人の所に魔法使いが来てピピデパピデプーをしてくれるんだ。
…疲れてるのかな俺。
疲れてないとおかしいよなこんな事になってんだから。
あいつら、俺の言いたい事を理解してくれたかな。
皆、俺より馬鹿だしな。皆…俺より…馬鹿…だもんな。
「おい9154番、なにぼさっとしてる!」
「はいはい、すいませんすいません」
俺が刑務官にペコペコして作業に戻ると1匹ツバメが俺のそばに刑務官から隠れるようにくる。
(俺が俺はイケメンって言ったら鳴けよ。いいか?ゴホンっ、俺はイケメン)
「ツピーツピー」
よし、やっぱりか。
分かってくれたんだな。
星奏、雫、有輝。反撃ののろしをあげろ。
最後に笑うのは俺達だ。
…ふっ俺、すっごくかっこいいな。右腕が疼うずくぜ。
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