第36話 競馬

「させー!」

「させー!ドウガイデイオウ!」


俺達は競馬場にいる。

なぜいるかと言うと。


「そういえば今、外壁が拡張されているだろ?」

「そうなんだ。最近家に買い出し以外で出た事ないから気づいかなかった」

「また引きこもってるんだ」


2人が少しひいてる。


「それはお前らもだろ」

「私はまだ外に出てるからお前よりはマシだ」


1、2時間ぐらいしか出てねぇじゃん。


「それでその拡張されてる場所がどうしたの?」


俺は少し呆れたように言う。


「その場所にな競馬場があるらしいんだ。今は未成年でも賭け事ができるらしいから行かないか?」


星奏ってギャンブラーだったのか。

いや、あいつはゲームが得意だからそれで稼ぐつもりか。


「金には困ってないし行くか」

「…2人とも引きこもって本を読むのに少し飽き始めただけじゃない?」


そんな事はない。

ただ今は圧倒的快楽を求めてるだけだ。


「まぁ私も行くんだけどね」


といった事があったため今は3人で競馬場に来ている。


「ていうかお前らお金を賭ないのかよ。星奏は賭けれるとか言ってたからお前は賭けると思ってたんだが」

「私達は馬を見たいだけだから」

「そうそう。私達は竜みたいにギャンブラーじゃないから」


なんなんお前ら。


「ていうか雫、お前騎手になってこいよ。お前ならムチで馬のおしりを叩くんじゃなくて馬に直接頼むだけでいけるだろ」

「確かに。騎手は勝てば稼げるって聞いた事があるからちょっとやってみるよ」


もうお金を稼がなくても生きていけるがお金を稼がせて稼いだお金を賭け金にしてやろう。


「まずは馬を捕まえるところからだね」

「馬小屋を探してみるか」



「探し始めて1時間経って今更言うのもなんだけど東京に馬小屋ってあるのか?それにあったとしてそいつらはまだ生きてんのか?」

「一応あったはずだ」

「牧場の動物達も生きてたし大丈夫でしょ」


あいつらはまだ牧草があったからだろうけど馬はそういうのなさそうだしな。


「近くにゾンビもいるし早く見つけたいところだがな」


忘れてたけど基本町の外にはゾンビがいるんだった。

ひきこもりをなめるなよ。

周りに起きてる事なんてさっぱり分からないからな。


「んーブラウニー達にも探して貰ってるけど全く見つからない」

「俺も上空から探してはいるが一向に見つからん」


星奏は自分の能力は何かを探すのに向いてないからかちょっと申し訳なさそうにしてる。


「ちょっと疲れたよ」

「お前ら最近ずっと家にこもってたから体力がおちてるんじゃないか?」


雫は前は2、3時間歩いてもなんともなかったが最近は俺と一緒にゲームしたり本読んだりで家にこもってたからな。


「俺はまだ平気だな」

「そりゃお前は男だからこれぐらいは大丈夫だろ」


星奏はなんで男女差別をしているのだろう。

もしかしてあれか?ヅイフェミってやつか?

女尊男卑してるヅイフェミってやつか?


「ちょっと休憩。これならサン達呼んで獅車に乗って探せば良かったね」

「すぐに見つかると思ってたのが悪かったな」


2人は会話しながら歩道の横にある子供の時に綱渡りごっこをしたブロックに腰を下ろす。


「もし私が騎手になって人前に出たら周りの人達からあーあの人、前に路上でアイドル活動してた人だーって言われない?」

「お前にそこまでの知名度はないから大丈夫だ」

「酷くない?」


路上ライブをやったのは2週間ぐらい前だし見た人なんてファン以外で覚えてるやついないだろ。


「あっ見つかったぞ。外に出てやがる」

「それで生き延びてたのか。運がいいな」


暇つぶしに他県の所に光を飛ばしてみたらビンゴだぜ。


「じゃあ行くぞ、どこだ?案内してくれ」

「群馬!」

「…ちょっと頭おかしいんじゃない?」



「ふー着いたな」

「サン達に乗っても結構かかったね」


2、3時間ぐらいか。

途中コンビニの非常食を盗まなければお腹がすいて倒れる所だった。

ここは商店街みたいな所か。平成初期みたいな所だな。


「このすぐ近くだ。サン達はここで待たせておくぞ馬に怖がられる」

「それもそうだね。サン達、お座り」


雫がそう言うとサン達がお座りをする。

一応ネコ科たぞ。

ネコもするんだな、お座り。


「馬は眷属にするのか?」

「別に移動はサン達がいるしいいかな。眷属にしなくても会話はできるしね」

「そういえばなんで無理矢理言う事をきかせれるのにしないんだ?」

「それはねそれをやったら動物達から凄く悪口を言われるの。例えば死ねゴミ野郎、なんだお前偉そうにしやがって、人間も動物だろ死ね!とか」


こわー、動物達は人間と会話ができないから可愛いんだな。


「それは…その…俺はもう無理矢理言う事をきかせろなんてもう言わないよ」

「おっいたぞあれじゃないか?」


星奏がそう言って指さした方向に八百屋のにんじんを食べている馬がいた。


「あれだあれ。雫、行ってこい」

「わかった」


雫は馬に気づかれないように近づき馬のすぐ傍に立つ。


「ちょっと頼み事があるんだけどいいかな?ちょっと背中に乗せて欲しいんだけど大丈夫そう?うん、分かった。100個のリンゴだね。大丈夫、それぐらいならいけるよ。うん、契約成立って事で」


はたから見たら動物に話しかける可哀想な子にしか見えない。

そう思っていると雫が馬の背中に乗りながらやってくる。


「これならいけそうだよ」


雫がドヤ顔で言ってくる。

そういえば騎手って馬に落とされないように色々と鍛えないといけなかったような気がするが…まぁなとかなるだろ。



「ねぇ家で色々準備してる今言うのも遅いのかもしれないけどさ」


俺達がサドルだったりを買って準備してる時に雫が話しかけてくる。


「どうやって出るの?」

「そこはほら、便利な貴族の権限で」

「えぇー、無理矢理やると反感買うんだが」


全く融通がきかないな。


「お父さんがなんとかしてくれるか。ちょっと雫を競馬に出してくるわ」


星奏のお父さん可哀想だな。

でもあの人なら喜んで許しそうだな。


「雫、頑張れよ」

「これまでの練習を思い出せよ」

「昨日やっと馬を捕まえたばかりだけどね」


今は競馬場の待機所にいる。


「俺は雫の馬に賭けるか。なんて名前なんだ?」

「番号見ればいいでしょ」


応援する時に名前の方がいいと思うんだ。


「名前はボルトホース。番号は6だよ」


名前がなんかダサい。サン達との差が酷すぎる。


「名付けしたけど眷属にならないのか?」

「眷属にさせる意思が私にないと。それに動物にも眷属になりたいって意思がないといけないんだ」


なるほど。まぁいいか。



「あと少しだな」

「竜、なんでお前が足を震わしているんだ」


友達が頑張ろうとしている所を見てると自分まで緊張してくる。


「出られて良かったな。今回は運良く1人空いてたから普通に手続きしたら入れるようになっていて」


それに関しては本当に運が良かったと思う。


[血のプライドと人々の願いをのせて第4回卯月うづき賞、今スタートしました]


よし、始まった。雫は今は8位か。

競馬は最後で一気に決まるからな。

大丈夫、大丈夫。これに100万の単勝で賭けてるから絶対に負けられない。


[8番のシングルターボが先陣をきりました。このまま逃げ切れるか!?]


今考えれば他の馬の名前ってなんか他の馬の名前をパクってるよな。


[3番のシルバーシップがシングルターボに追いついて来た]


雫は今最下位だ。

でも大丈夫今は中盤戦だ。

勝負は何が起こるか分からない。

そう漫画に書いてあった。


「雫、大丈夫かな?」

「大丈夫だ。雫を信じろ。仲間だろ」

「お前…絶対そんな事言うやつじゃないよな。そういう展開でも待ってるのか?」


その通りなんだよな。

なんでこうも見透かされるんだ。

せっかくキメ顔で言ったのに。


[なんとここで6番のボルトホースが追い上げて来た!どんどん抜かしていくぞ!]

「おい竜、雫が追い上げてるぞ」

「だから言ったら信じろって」

「えっ?…あぁ…ゴホン…何を言ってる?私は最初から信じてたさ」


星奏がノリにのってくれたようだ。


「いっけー!」

「それもやるのか?少し恥ずかしいがまぁいいか。いっけー!」


俺達がそう言うと雫が先頭に出て1着でレースは終了した。


[ゴールしました。順位は1位6番ボルトホース、2位8番シングルターボ、3位3番シルバーシップ、4位1番ドウガイデイオウ、5位4番スペシャルイヤー、6位10番メシロマッグイーン、7位8番ギダザンブラック、8位5番サドノダイヤモンド、9位7番アクネズダキオン、10位9番マンバッタンカフェ]



俺達は今、馬券を払い戻しする場所の近くにいる。

結構な数の人が泣いていて見てて面白い。


「やったよ竜、星奏。勝てたよ」

「よかったな、雫。思いつきでやったにしては上出来じゃないか」

「えへへー」


よかったよかった。これならこっそり使った100万もバレる事はないな。


「ところでボルトホースはどうしたんだ?終わったら野放しにするんだろ?」

「ボルトホースはねなんか馬小屋で引き取られる事になっちゃった。裏切りやがったなー!ってめっちゃ言われたよ」


約束を破られたらそらキレるだろうな。

俺ならキレる。


「今夜の晩御飯は私の奢りだよ。勝ったから結構お金もらっちゃった」


やっぱり結果が良かったらお金って貰えるんだな。


「さぁてと換金換金」

「竜、お前賭けてたのか」

「雫にな。何円でなんの勝ち方で賭けたの思う?」


2人は顎に手をおき少し考えると。


「まぁ複勝で1万円ぐらいか?」

「私もそれぐらいかな」

「馬鹿だな。俺は100万円の単勝だ」


雫が少し引いて星奏が多分俺が勝手にお金を持ち出したせいで眉間にしわを寄せているが気にしない。

勝ち組とは俺の事を言うんだな。

雫は初参加だしオッズも多分高いだろ。


「あっ!」

「どうしたの?」

「…これ…9番のだ」


間違って買ってしまったのか。


「…竜」

「…はい、なんでしょうか星奏さん」

「勝手に持ち出したお金じゃないよな、それ?」


カンカンに切れてらっしゃる。


「…もちろん…勝手になんて」

「そうだよな…でもな実は今日の朝に貯金額の合計を出していたんだ」


20億もあるのにそんな事してんのかよ。


「足りなかったんだ。私達がこれまでの生活で使った額と合計額が100万ほど」



「言い残すことは?」

「…ふっ俺は死なないぜ、相棒」

「死ねぇ!」

「うわべしっ」


星奏にゲンコツをいれられ変な声が出てしまった。


「まさか番号を間違えるなんて思わなかったぜ」

「反省しろや」

「はい」

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