第35話 アイドル

「はーい、皆のアイドル、雫ちゃんだよ」


俺達は今何をやってるのかと言うと


「また路上ライブでお金を稼ぐのか」

「これはあいつがやりたいって言ったからやってるだけだ。俺達はもうお金を稼がなくていいんだからこんなのやる訳ないだろ」


雫のアイドル活動を手伝っている。

なぜかと言うと。少し前の朝食の時。


「ねぇ竜、私アイドルになりたい」

「…急にどうした?話聞こか?」

「歩く男性…いや、なんでもないよ。いやねアイドルって可愛いでしょ?」

「そうだな」


なんでそんな当たり前の事を聞いてくるのだろう?


「子供って可愛いでしょ?」

「うん、そうだね」

「私って少し見た目が子供っぽいでしょ?」

「少しって言うかかなり」


雫と少しの間見つめ合い。


「痛い」


頬にビンタされる。

これがお決まりになってる気がする。


「てことは可愛い私だったらアイドルになっても大丈夫って事」


子供が可愛いのは純粋だからなんだよな。

多分雫は純粋じゃない。


「俺にそれを言ってくるってことは?」

「手伝って」


ですよね。


という事があったからだ。ていうか雫が誰かに物を頼むなんてな。

いつもは頼られたいってしているのに。


「でも観客はいるな、10人程度だが」

「まぁ最初らへんはこんなもんだろ。ここから才能があれば段々と増えていくだろ」

「なんでお前が知った口を叩いているんだ」


だって漫画とかでそう書いてあった気がするもん。


「皆ー愛してるよー!」

「「「「「おぉー!」」」」」



ライブも終わり帰路に立つ。


「雫、どうだった?アイドル活動をやってみて」

「楽しかったよ。振り付けとか作曲とか作詞とか色々やってくれてありがとね、星奏」

「星奏ってすごいな。本当になんでも出来るじゃん」

「気になった物には片っ端から手をつけていたからな」


星奏がドヤ顔で言ってくる。

色々やってるにしても出来が全部すごいってどうなってんだ。

全部一流レベルだぞ。


「竜は許可証と作曲した音楽を流してくれてありがとね」


今回は作曲されている物を流すだけだったから楽だった。


「アイドルで1発当てるぞー」

「そういうのってひと握りって言われて大体親とか友人からやめとけどうせ無理って言われるよな」

「お前、友達いないだろ?」


そういえばそうだった。

でも漫画とかではよく書いてあるしね。


「なんであれって無理って言うんだろうな」

「少しでも安定した生活にさせたいからでしょ。可能性が低いものは全力で排除して可能性が高い物に目を向けさせて現実を見させる。正直、夢を否定するやつらはあなたのためとか言いながら結局は自分のためなんだよ。その人の本気の夢を否定するやつは死んでもいいと思うよ」


なるほど、確かに雫の言う通りかもしれないな。

親の場合もし失敗したら自分にかなりの負担を背負わないといけないかもしれないし友達の場合もし成功したらその人との住む世界の違いで悩まされるかもしれないしな。


「ところで俺、ユーヂュービャーになってユーヂュービュに動画投稿する配信者になりたいんだが」

「「無理、無理あきらめろ。お前じゃ無理だ」」



家に帰り次のライブの会議を始める。


「次のライブについて何か意見がある人」

「はい」


雫がすぐに手をあげる。


「じゃあ雫君」

「私はゾンビのコスプレでもしようかと」

「なるほど…ハロウィンはまだ先だが?」

「…それもそうだね」

「じゃあ次私」


2人とも意見があるのか。

俺は全く思いつかない。


「じゃあ星奏君」

「もう少し露出を増やした衣装にするべきかと」

「それはちょっと恥ずかしいよ」


雫が少し顔を赤らめる。


「露出を増やすといっても肩を出したりお腹を出したりする程度だぞ」

「この時期じゃまだ寒いよ」


星奏のガチさに俺は少しひいたが雫が言ったもんな、1発当てると。


「では多数決を取ります。露出を増やすべきか増やさないべきか。まず…増やすべきと思う人」


星奏と俺はすぐに手をあげる。


「では決定という事で」

「…うぅ、寒くないよね?」

「昼にやれば暑いぐらいだから大丈夫だ」

「頑張れよ。…では違う意見がある人」


そこですかさず俺は手をあげる。


「じゃあ俺…光の能力も使って演出を増やそうと思うんだがいいか?」

「魔力がもつかな?」

「そんな時のテレレテッテレー魔力水ー」


これがあれば魔力なんて無限に等しい。


「でも今のギルドの在庫も結構少なくなってると聞くが?」

「元天気予報士の人に今の上空の雲の様子とかを見せたら…気圧が分からないから確かではないが2、3日後に雨が降るよって言ってたから大丈夫」

「じゃあ雨が上がった1週間後にまたライブするぞ」

「わかった、私頑張るよ」


次のライブが決まりすぐに準備に移る。



1Day.


「とりあえず、どうゆう振り付けにするかを考えないとな」

「衣装作りは任せろ。雫はとりあえず竜の言った振り付けを練習してくれ」

「分かった」


少し楽しくなってきた。


「最初の振り付けはこうやってこう」

「こうやってこう?」

「もうちょっと顔を傾けようか」

「こう?」

「そうそう」


2Day.


「これを買ってきたぞ」

「これってダンスを練習する時前にあるでかい鏡か」

「置く場所ある?」

「とりあえずここに置いておこう。物置部屋にはいつでもしまえる大きさだし」

「私の部屋に入れないんだが?」

「じゃあベランダの窓に」

「太陽光が入ってこないじゃん。昼は電気使えないないよ?」

「能力使えばしまいだ」


3Day.


「本当に雨降ったね」

「そうだな」

「そんな事してる暇ないだろ。はいベランダのところに鏡置くぞ」


そう言って星奏がでかい鏡をベランダの窓の所に置く。


「そういえば衣装が完成したぞ」

「先に言えよ。そういう俺も振り付けが完成した。それに演出まで」

「いけるかな?」


雫が少し不安がる。


「大丈夫さ、なんとかなる」

「お前のなんとかなる精神はどこから来ているんだ」


4Day.


「昨日はかなり降っていたのにもう雨がやんだのか」

「そんな事よりここはこうした方がよくない?」

「確かにそうだなでもその次にどうやって繋げる?」

「んーこうしてこう。どう?」

「それならいけるか」

「星奏は今どうしてるの?」

「星奏なら部屋で作曲作詞をやってるよ。お前には印税が入るって言ったら少し顔が輝いていたな」

「結局はお金かな?」

「あいつは昔も今も金持ちなんだけどな」


5Day.


「ここにこうゆう演出を入れるからここはもう少し下がっててくれないか?」

「わかったできる限り下がってみるよ。ていうか能力って便利だね。機械を使っても出来ないことを普通にできるようになるし」

「ここの空中にハートを出すエフェクトとかもいい例だよな」


そんな話をしていると星奏の部屋の扉が開き星奏が部屋から出てくる。


「お前、凄くやつれてんな」

「そんなことはどうでもいい。とりあえず歌詞は完成した…ぞ」


なぜか星奏が絶望している顔になった。


6Day.


「星奏、またこもっちゃったね」

「そういえば、振り付けがどうゆうのか教えてなかったからな」


星奏が振り付けを見るとなんか違う!と言ってまた部屋にこもった。


「振り付けを教えておくべきだったね」

「可哀想なことをしてしまったな」


7Day.


「完成…した…ぞ」


星奏がそう言うと倒れ込む。


「星奏、凄くやつれてるじゃん」

「とりあえず振り付けに合わせて作詞したから1回踊ってみて本当にあってるか見せてくれ」

「わかった、やってみるよ」


8Day.


「なんとか作詞の方はいけたからいいけど次は作曲か」


星奏は歌詞を先にやってから作曲をする人らしい。

そうした方が歌詞の雰囲気にあわせられるからと。


「また、こもっちゃったね」


もう俺達はやることがないため何回もミスを減らせるように練習を重ねるぐらいになった。


「ここにこんな演出を入れたいんだがいいか?」

「もちろんだよ」


9Day.


「作曲…できた」


星奏はかなりやせ細っている。

無理したんだな。


「かなりギリギリだな。雫、今から歌詞を曲にあわせて歌って覚えてくれ」

「わかった」


~ライブ当日~


「じゃあ行くよ」


そう言って雫がステージの入口前に足を運ぶ。


「あぁ、なんとかなって良かった。昨日、歌詞が完成した時はどうしようかと」

「それはお前が私に振り付けを教えてくれなかったから」


星奏は雫の手料理を食べた事でなんとか復活した。

でもまだ目の下のクマは消えてない。


「それはお前も忘れてたから俺と同類って事で」


星奏が凄く嫌そうな顔をしている。

そんなに俺と同類ってのが嫌なのか?

そう言い合っていると雫が深呼吸をしてステージの中央に向かって走って行く。


「みんなーお待たせー!」


前のライブで少しだけファンができたようだ。

もしかして雫にはアイドルの才能があったのかもしれない。


「みんなーいっくよー!」

「「「「おぉー!」」」」



「いやーいいライブだったな」

「最高だったね」


今は雫と2人で食堂に食べに行った帰り。

なぜ星奏がいないのかと言うと。


「星奏がまさかライブが終わったすぐに倒れるとはな」

「全然寝てなかったからね」

「あいつ、ライブ前日の夜も緊張で寝れなかったって言ってたからな」

「受験前日の受験生かな?ライブやるのは私なんだけどね」


アイドル本人である雫はいつもより寝る時間が遅くなった程度ですんだらしい。


「こんなわがままを聞いてくれてありがとね」

「楽しかったし別に大丈夫さ。夢がある人はなんか応援したくなるんだよ、俺は」

「…いい人ぶろうとしてる?」

「酷いな、おい」


そんな事を言われるような筋合いはないんだがな。


「でも…本当にありがとね」


雫はそう言うと俺に抱きついてきた。

これが女子のスキンシップってやつか。



「おい、大変だ」

「どうしたの星奏?」

「竜と雫が抱きついてる所が写真に取られて炎上したぞ」


それってもっとすごいアイドルがやられるやつだろ?


「そんなんで炎上すんのかよ」

「お前が雫の彼氏疑惑がつけられて大変な事になってるんだよ」


抱きつかれただけでかよ。

めんどくさい世の中だな。


「アイドルだってプライベートはあるよ」

「それを許さないのが世間ってやつだ。アイドルの世界はプライベートも売らないといけないって事だな」

「まぁでもまだちょっと人気程度で良かったな。この程度の人気ならストーカーとかもされないだろうし」

「そう考えておけるようになっておくよ」


かなりへこんでいるな。

まぁそれもそうだろうな。


「…また、失敗か」


簡単にお金は稼げないって事だな。

稼ぐ必要はもうないが。

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