第29話 悩み事

突然、竜にリビングへ呼び出された。

雫はサン達の様子を見てくると言って出ていき2時間ぐらい帰ってこない。


「どうした竜?」

「とりあえず、座ってくれ」


竜から厳格な雰囲気が漂ってくる。


「相談事か?」

「あぁその通りだ」


一体竜に何があったのだろう。

この異様な真面目な雰囲気にいつもの竜はいなかった。


「恋愛相談か?」

「違う」


してみたかったんだがな恋愛相談。


「お前に恋愛相談する訳ないだろ。するなら雫だ」


竜が失礼な事を言ってくる。

私が何をやったと言うのだろう。


「それはどうして?」

「お前より雫の方がそういうのに詳しそうだからだ」


なるほど、失礼だな。

不敬罪で打首にしてやろうか。

こいつ、絶対私が貴族の権利使わないと思ってるだろ。

その通りなんだけど。


「それで悩み事とは?」

「その前に俺の能力はなんだったか言ってみろ」


竜の能力?能力の事で悩んでいるのだろうか?


「確か、光と音を操る能力だったか」

「そうだ。じゃあその能力の印象は?」


能力の印象?なんでそんな事にこだわるのだろう?


「うーん…しいてあげるなら序盤じゃちょっと強いモブキャラだな」

「そう、そこなんだ。そしてお前と雫の能力はなんだったか言ってみろ」

「私は空に見えない床を作ると物を動かす能力で雫は動物を操る能力だな」

「そうだな。では印象は?」

「私は味方キャラで能力と技術を組み合わせて戦いそう。雫は主人公と一緒に冒険しそうだな」


竜が急にテーブルを叩き。


「なんで俺だけモブなんだよー!俺だってせめて主要キャラにはなりてぇよ。出来れば主人公だけど」


お前の悩み事小さいな。

ミジンコ以下じゃないか。


「てことで俺をモブから脱却させるために協力してください」


竜が私に向かって頭を下げる。


「光を操るだし聖なる光を操れば?そうすれば一気に主人公になれるだろ」

「そうか…そんなん出来たらとっくにやっとんねん。俺が操れんのただの光やねん聖なる光ちゃうねん」


かなり悩んでるようだな。

悩みすぎてかなり大阪弁が出てると思う。

大阪弁ってこういうのだよな?


「じゃあ主人公らしくなれよ。お前の行動を考えてみるに私を結婚式で助けた以外で主人公らしい事あったか?」

「なるほど、主人公らしくか。じゃあちょっと付き合ってくれ」

「ん?」


何をするつもりなんだろう。


「いっけなーい遅刻遅刻。俺の名前は高野竜、普通の高校2年生。きゃあ!ドンッここは?無限に広がる平原。ちょっと怖いモンスター。ここはもしかして異世界?」


何をやっているのだろうこいつは?

効果音まで自分で言って。


「選ばれし勇者よ。この世界を救うのだ。はい分かりました神様!」


竜は左右行ったり来たりしている。

多分一人二役やっているのだろう。


「なんやかんやあって魔王城。出たな魔王、親の仇だ!」

「長いわ!お前一体何やってんだよ。主人公らしくなりたいんだろ?」

「だって俺が主人公になるならこれぐらいしないとダメじゃん」


全く、私を助けてくれた竜はどこに行ったんだ。

それに異世界に転生したのになんで魔王が親の仇なんだ。


「仕方ない。お前を主人公らしくしてやる。ここじゃあれだから門の外に出るぞ」



門の外なら魔法も使えるからなんとかなりそうだ。


「ここで何すんの?」

「修行だ。その前に竜、抜き打ちテストだ。自分の事として答えてくれ。まず仲間が助けを求めたら?」

「助ける」


よし、仲間関係は大丈夫そうだ。

竜は友達が少ないから少しでも仲間を大事にしようとはしているんだな。


「では次、目の前に襲われている人がいたら?」

「襲われたくないから逃げる」


冗談だよな。

仮にも主人公になりたいって言ってたもんな。


「魔王を倒して世界を救えって言われたら?」

「金額は?」


顔がマジだ。

こいつ、本当に主人公になりたいのか?


「人を助ける理由は?」

「恩返ししてくれるかもしれないから」


見返りを求めたらそれは人助けとは言わないんだぞ。


「では最後に、お前が仮に誰かと付き合ってるとします。でも別の子にも言い寄られました。どうする?」


これは人として大事な事の確認だ。

これもダメならこいつはあれだ、人外だ。

主人公になりたいならせめて人であってくれよ。

お前は一応、生物学上人なんだから。


「んー、付き合ってる人に許可取って合法的に二股する」

これはアウトか?セーフか?分からん。


「あっ星奏と竜じゃん。何してんの?」


雫が私達の元に駆け寄ってくる。


(雫、助けてくれ)

(なになに?どうしたの)


雫にこれまでの事を話す。


「なるほど分かった。じゃあまずは人を助けるトレーニングからだね」


流石雫だ。すぐにトレーニング内容を考えれるなんて。


「サンに人を襲わせる。襲わせると言っても近くに言って吠えて貰うだけだけど。それで困ってる人の前に立ってサンを追い払う。なにかお礼をっていわれてもいらないですって言ってね」

「なるほど分かった」


これなら心からの主人公にはなれなくとも表面上はなれるだろ。


「じゃああそこの武器を持ってない人ね。多分冒険者の人とはぐれちゃたのかな。あの人を助けてね。タイミングは指示するから」


雫が指さしたのは20代後半位でリュクサックを背負っている女性。


「よしきた。頑張るぞ」


これなら私の助けもいらなそうだな。


「行ってサン」


サンが女性に近づく。

女性はものすごく困惑している。


「ガオオオ!」

「キャー!」


女性が涙目になってしまい背負っていたリュクサックを投げる。


「行って!」

「分かった」


竜が走って女性の元まで駆け寄る。


「君は俺が守る!」

「あ、ありがとう」


竜がサンの前に立ちはだかり大の字になる。

サンはそれを見て逃げるようにどこかに行く。


「すいません助けて貰ってなにかお礼を…あっ、あなたのお名前は?」


来た!テンプレートみたいなセリフ。

これが一番の難関ポイント。言えるか、言えるか。


「名乗る程ではございませんよ」

「せめてお礼を」

「大丈夫です。人として当たり前の事をしたので。ではさらば」


完璧。言えたな、竜。


「星奏?なんで涙を流してるの?」

「成長したなって」



修行が終わり家に帰る。

雫は食材や調味料が買えるようになったからか家の台所で料理をしている。


「どうだった、星奏?」

「そうだな、合格だ。表面上はなれたんじゃないか?」


竜がとても嬉しそうにしている。

良かったななれて。


「いやー頑張ったぜ、特にお礼をの場面な」


そこが一番心配だったな。

竜ならとんでもない金額を出してきそうだし。


「いやー我慢したぜ。あの人かわいい方だったから性欲を我慢するのが本当にな」


…こいつ、もしかして私達を異性として見てないのか?

ていうか今気づいたが異性と一つ屋根の下で暮らすなんて。

今までを思ったら考えもつかないな。

せっかく竜が異性だし異性として見て見るか。


「本当にお疲れ様。こちら雫特製カレーです」

「やったー、俺カレー大好き。幼稚園の時にしか食べた事ないけど」


竜、もしかして家庭環境複雑なのか?


「調理実習の時に雫のカレー食べてからシャバシャバ派からドロドロ派になったんだよな」

「うまーい」

「そんな褒めないでよ」


カレーはドロドロに限る。


「竜、口にご飯粒ついてるぞ」

「あっ本当だ。すまんすまん」


私は竜に付いていたご飯粒を取る。

…はっ!分かったこいつを異性として見ていなかった理由。

こいつは少し年下感がして子供として見てしまうからか。

最大の理由が解けた。

これでもうこの事で悩まなくても大丈夫だな。

男女の友情は成立しないとは聞くが私達が異常なのだろうか?

別に今考えることじゃないしいいか。


「デザートもあるよー」

「砂糖も手に入るようになったのか?」

「そだよー」

「でもお腹いっぱいだな」

「じゃあ星奏の分は俺の物な」

「甘い物は別腹だ」

「うわ出た謎理論」

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