第22話 星奏

私は子供の時から大きい事がコンプレックスだった。


「やーいデカおんなー。化け物ーひゃっひゃっひゃっ」


こんな風によくバカにされていた。


「お前がチビなだけだろ。そんな事言ってる暇があるならとっとと寝ろチビ!」


言われる度に手が出そうになったけどお母さんから先に手を出したらダメって言われてたからいつも言い返していた。


「何をーこのデカおんなー!」


先に手を出したら正当防衛が成立しないからってよくお母さんが言っていた。


「お母さん、今日もバカにされたよ」

「今日も?小さい子は態度がデカいって聞いた事あるけど本当だったのね」


お母さんはよく小さい子をバカにしていたな。

でも心からバカにしている事はなかったような気がする。

私を慰めるために言っていた様だった。

私は別に小さい事は凄くいい事だと思っていた。

可愛いしそうなりたかったし。


幼稚園の年長になった頃、家庭の風習か何かで習い事をたくさん習わされていた。

空手、柔道、剣道といった運動系の習い事を週7で通わさせられていた。

でも毎回お母さんが見てくれるからかっこいい所を見せたくて全ての大会で結果を残していった。

でも小学生になって間もない頃にお母さんは交通事故で亡くなって毎回来てくれるのは知らない黒服の人達だけ。

次第に学校にまで来る様になったせいで周りから怖がられるようになった。

学校で関わる人が居なくなってから私はよく本を読むようになった。


「あのいっつも本を読んでるやついるだろ?」

「うんいるいる。そいつがどうしたの?」

「あいつの親、世界的に有名な大企業の一人娘らしいから変な事すんなってお母さんが言ってた」


学校では大企業の一人娘だからと言う理由で関わってくれる人はいなかった。

誰かと関わる時は風邪をひいてプリントを届けに来てくれる日直ぐらいだった。

お母さんが見てくれない習い事なんてやる気がおきるはずもなくだんだん周りとの実力差も空いていき、行く理由が親が行けって言うから行ってる程度になっていた。

身長でからかわれる事はあった。


「やーいデカおんなー」


でもそれを言った後はお決まりの様に


「すいませんこいつ何も知らなくてお前も謝っておけ」

「なんで?」

「いいから!」

「なんかすいません」


私の事を何も知らないやつが勝手にバカにしてそいつの友達が勝手に謝る。

そんな事がよく起きた。

それを見た周りのやつがヒソヒソと陰口を叩く。

そんな地獄でも私は必死に耐えた。

お母さんが言っていたいつか私の事を分かってくれる人が出てくるって。

その人を怖がらせないために私は何も言わず何もせず必死に耐えた。


「お父さん、今日もいないの?」

「はい、お父様は今お仕事をしてらっしゃいます」


家にいるのはいつも黒服の人だけ。

ご飯はいつも一流のシェフが作ってくれた物しかなくお母さんが作ってくれた愛情のこもったご飯はもうない。

決められたスケジュール、愛情がないご飯、周りから怖がられる学校生活、それが私。

それが私の全て私の人生。

こんな人生を望んでもいなかった。

こんな事なら生まれたくなかった。

そういつもの生活に絶望していた。

そして私はだんだんと周りが見えなくなっていった。

いや、見えない様にしていた。

見たところでろくでもない事しか映らない日常なんて見えない方がマシだと。

そう思って今日も本のページをめくる。

本は面白い。特にラノベは見ていて飽きない。

面白い物、面白くない物、カッコイイ物、可愛い物その全部に書いた人の作品に対しての愛情がこもっていた。

私は本が羨ましかった。

何にも縛られずに愛情を表現される本が、筆者の愛情がある本が羨ましかった。

そんな事を思いながら本のページをめくっていたある日、


「この本のアニメ見たよ」


そう声をかけられたんだ。

私に関わってくる人は何も知らずにからかう人しかいなかった私にとってはとても新しい出来事だった。

驚いた私はゆっくり声の主を見る。

そこにはちっちゃくて可愛い私がなりたかった女の子がそこにいた。


「あの…」

「私はね雫、南根雫だよ。よろしくね」


それが雫との初めての出会いだった。

今思うと大袈裟おおげさだったかもしれないが一瞬天使かと見間違えた。


「私は誠華、藤原誠華だ。よろしく」

「このアニメ面白かったなー」

「良かったら原作貸そっか?」

「いいの?ありがとう」


今はもう見慣れているが初めて会った時に見た笑顔は天使そのものだった気がする。

それぐらい私にとっては小さい子は小さいだけで可愛い存在だったんだ。


「えっ?誠華、空手と柔道と剣道やってるの?この前のテスト100点だったのに運動もできるなんてー。大会見に行ってもいい?」

「もちろんだ」


雫が見に来てくれなら頑張れた。

お母さんが見に来てくれたのと同じぐらいかっこいい所を見せたいって思えた。


「私はテスト76点だし運動はドッヂボールの玉を避けれるだけだし誠華みたいに背が大きくないし。私はダメダメだね」

「私だってダメダメな所があるさ例えば…」


雫とお母さんの違いをあえてあげるなら雫の方が素直になりやすい。

雫は私が大企業の一人娘だって知っても


「誠華は誠華だし大丈夫だよ」


こんなかっこいいセリフを言える。

自慢の友達だ。


「私、実は雫みたいに強くなりたい。力的にじゃなくて精神的に。早く雫みたいに大人になってあの家から出たい」


私の1番悩んでいた事も話せる。

雫は本当にいい子だ。


「じゃあ何事にもクールに返してみな」

「はい師匠」


こんな感じで遊びながらも修行みたいな事をしていたな。

でも雫の顔は笑っていたけど真剣だった。

真摯に私の事に向き合ってくれた。


「プリンを作れって言われたら?」

「そう言うと思って冷蔵庫にいれてある」

「それじゃただのエスパーだよ」


楽しかった雫と一緒の日々が。

学校外ではなかなか会えないけど学校であったらずっと一緒にいた。

クラスが違った時も休み時間に毎回会ってた。

中学になってもそれは変わらなかった。

たまに喧嘩はしてたけど。


「誠華のバカ!」

「バカとはなんだ!雫だってバカじゃないか」


1度喧嘩をしたら気まづくなったけどすぐに雫が謝りに来てくれた。


「ごめんねバカって言って」

「私の方こそごめん」


雫は小さいが私はいつも自分よりも大きく見えた。


「雫、一緒の高校に行かないか?」

「もちろんだよ。私の誠華じゃ学力に差があるけど誠華が教えてくれるなら大丈夫だよ」


私が同じ高校に行く提案をすると笑顔で行くと言ってくれた。

結果、同じ所に行けた。


「そういえば、雫の両親よく承諾してくれたな。学力差はかなりあったはずだが」

「…まぁ私が全力でお願いしたからね。可愛い娘が全力でお願いしたら承諾してくれるでしょ」


そういうものか?


雫と楽しい学校生活、大学はどこに行こう。

キャンパスライフも雫となら楽しいだろうな。

そう思っていた高校2年生5月、ゾンビが日本に上陸してきた。

そして国は東京とほとんどの地方裁判所がある市に町規模の避難所を作り、そこの大企業の社長を貴族とし町の政治を任せることにした。

その貴族にお父さんが選ばれた。

お父さんが家で仕事をする事が増えたおかげで会う機会ができた。

ほぼ初めて見るお父さんに期待を膨らましたが見てみれば誰か知らないおじさんが家にいるという感覚しか無かった。

私はお父さんと一緒にいるのが気まずかったから冒険者になって雫と一緒にゾンビを倒す事にした。

でも冒険者になってまで前みたいな親のせいで周りから怖がられる思いはしたくなかったので偽名を使うことを雫に相談した。

雫はいいと思うと言ってくれた。

そして私は雫が呼びやすいように上の名前の読み方は変えず漢字だけ変えた。

苗字は雫が考えてくれた。

泊まるのも一緒に泊まろうと思いギルドの宿に泊まったが流石にそれは無理だったけど雫にお父さんと上手くいっていない事を知られたくないから家には泊まらせない様にした。


「今日も全然倒せなかったね」

「そうだな…気分転換に明日はいつもより遠い所に行かないか?」

「危なくなりそうだけどいいよ」


そしていつもより少し遠い所で竜と出会った。

仲間に入れて欲しいと言われた時は少し嬉しかった。

竜は面白いやつだったな。

あの町でこの2人と楽しく暮らす度に小さい頃にあった辛いことがどんどん抜けていく。

あの町は好きだ、2人との思い出があるから。

だからあの町は絶対に守ってみせる。



「あいつら大丈夫かな?大丈夫かあいつらなら」

「誠華、独り言か?嫌なら辞めてもいいんだぞ」


着替え室越しにお父さんが話しかけてくる。

この件で話す事か多かったため気まずさは少しなくなった。

私は白いドレスに着替える。


「いや大丈夫、私から言った事だし。これであの町が救われるなら」

「そんな事で結婚させるなんて不甲斐ない父ですまなかった」


大丈夫、私が我慢すればいいだけなんだから。

我慢する事なら慣れてる。

周りを見えない様にすれば簡単に我慢ができる。

そう私が我慢すれば。


「もうすぐか、結構式」

「辞めていいんだぞ。いくらでも頭を下げてやるお前のためなら。父親らしいこと出来なかったからな」


お父さんは反省しているようだった。

大丈夫、分かってるから。


「こんな悲しい晴れ舞台ですまんな。出来ることならあの竜ってやつと結婚したかっただろ?」

「それはない」


竜と一緒にいるのは楽しいが結婚するのは嫌だ。

仕事もせず家事を全て私にやらせそうだ。


「そ、そうか。ならいい」


ドレスに着替え終わる。

ヒラヒラしているのはなんか嫌だが我慢すればいいだけ。

あいつらが幸せに暮らせるなら。


「それじゃあお父さん、私はもう行く」

「後悔はないか?」


その言葉に少し立ち止まるがすぐさま歩き出す。

新郎はエロゲに出てきそうなおっさんで私のタイプでもなんでもないがあの町を助けるための交換条件が私との結婚だった。

考えている事もエロゲのおっさんみたいだが私が我慢すればいいだけ。


«それでは新郎新婦、入場してください»

声に聞き覚えがあるが気にせず私は花を持ったまま入場する。

新郎の腕をもつのは嫌だったから。


«健やかななる時も…えぇっとまぁいいや。めんどくさいので爆発しやがれリア充共が!»


その声がする方を見ると雫がシスターの姿をしていた。


「ちょっと待ったー!」


ドアを蹴り破って来たのはスーツを着た竜だった。


「お前ら」

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