第19話 星奏のいない生活
今はいつも通りの朝を過ごしている。
朝食を食べ新聞を読むふりをしながら適当に頷くそんないつも通りの朝を過ごしている。
「日に日にご飯が美味しくなっていって私は幸せだよ」
そう言いながら雫は食パンを頬張る、なんにも付けていない食パンを。
よく食べれるな味もなしで。
「牛乳も飲めるようになったからな。あの時牧場作り頑張って良かったな」
もうそろそろ星奏が来る時間帯だ。
さぁて準備でも…
「星奏、いないんだった」
「あっ私も忘れてた。星奏、数日間いないんだった」
そうじゃん、星奏今日いないんじゃん。
いて当然だったから忘れてた。
「じゃあクエストでも見に行こうか」
「そうだね」
今日のクエスト今日のクエスト、カカオ豆の種を探すクエスト、砂糖を作るクエスト、テレビを作るクエストかろくでもないのしかないな。
でもかなり報酬高いな、カカオ豆は50万だし、砂糖は30万、テレビは100万か。
「なぁ星奏はいいの見つけたか?」
「星奏、何かいいのあった?私上の方は全然見えないから」
「「……あっ!」」
またやってしまった。
星奏がいつもクエストを受けてきていたから俺達はいつもなんとなく見てるだけだったな。
「今日はゾンビを狩るだけにしておくか」
「そうだね、星奏がいないと分からない事があったらしんどそうだし」
今は門から離れているせいでゾンビが多くなる事が多い南の方角に1時間位歩いたところにいる。
「星奏、そっち行ったかも」
「星奏、ちょっと助けて貰ってもいい?」
「ちょっと星奏、大丈夫か?」
「星奏、まぁまぁきついから早く助けて」
「「……アーッ!」」
またやっちまった。
ていうか雫はゾンビに囲まれて本当にやばそうだ。
「ファイアーボール!大丈夫か雫?」
「うん、ありがとう竜。星奏がいるものだとずっと思っていたけど今日、いないんだよね」
いつもは星奏が前に出たり後ろに下がったりをよく繰り返していたからよく頼っていたな。
「星奏がいないだけでこうなってしまうとは思わなかったな。これだったらもう少しクエストを探しとけばよかったよ」
「でもろくでもないクエストしか無いけどね」
それを言ったらおしまいだ。
「気になっていた事なんだがここらにある廃ビルって汚いのにツタとか生えてないんだな」
「時間がもうすぐで9ヶ月経ったぐらいだし生えないんじゃない?」
そんなに時間は経ってないんだな。
「9ヶ月前ってちょうど5月だな。お前らは高校生活を満喫していた時期か。多分高校2年生だよな、お前らの誕生日知らないから細かくは分からないけど」
「うん、私達は高校2年生だったよ。誕生日が私は3月20日、星奏が3月22日だったよね?」
「なんで俺に聞くんだ?」
雫が顔を真っ赤にして俯うつむいてる。
また星奏がいない事を忘れていたな。
「星奏は3月22日だね。私の誕生日の明後日だって聞いていたし。誕生日会はした事無いけど」
「星奏の両親って厳しいらしいしな」
「星奏は昔から父親しかいないよ?お母さんは幼稚園児の時に交通事故で亡くなったらしいよ」
雫がなんで知らないんだというような顔をしているが知らない。
あいつ片親だったのか。
俺も片親なんだがな。
それに俺の母さんが亡くなった時期と理由が一致してるな。
「それで竜の誕生日は?」
少し重ための話だったのにそんな早くに切り替えないでくれよ。
「俺の誕生日は…えっと…確か…うーん…あっ思い出した。3月21日だ」
「私達の誕生日って連続してたんだね」
まるで奇跡だな。0.0045パーセント位の確率だし。
「3月って来月か。来月位には星奏も帰ってきてるだろうな」
「星奏が出ていくのは数日間だけだしね」
そうたった数日間だけだ、たった数日間だけ。
「星奏、今日遅いな」
「竜、星奏は数日間いないんだよ」
…はっ!忘れていた。
「星奏がいなくなっただけでここまでとはな」
「もしかして竜ったら星奏の事が好きなの?」
「それはない」
雫がニヤニヤしながら俺を見てくるが本当に俺は星奏にも恋愛感情は全く湧かない。
タイプじゃないんだ仕方ない。
俺は身長が俺の首の高さまであって胸は小さく髪は長い子がタイプなんだ。
でもあいつらに興奮しないっていう訳ではない。
ただ恋愛的に好きかって聞かれたらそれは違う気がする。
「そんなに即答で言う?怪しいね。それにそこはそんな訳ないだろ馬鹿って顔を赤らめながら言うんじゃないの?」
「それって相手がツンデレの時だろ?俺は別にツンデレじゃないし、この中で1番のツンデレは星奏だろ。それっぽいし」
「…確かに」
星奏みたいなツンデレはよくいそうだ。
馬鹿って言った瞬間グーで殴って来るんだろうな。
「お前らってラブレターとか渡したり貰った事はないのか?俺はバレンタインでチョコを貰った事があるぜ」
自分から自分に渡した物だが。
「えっ?!それって本当?本当に言ってる?まさかね、あの竜がね。ありえないよね。絶対に竜じゃないよね。竜だったら自分から自分に渡しそう。いや流石にそれはありえないし違うかも?」
雫がとても悩んでいるがもう答えは出てるんだぞ。
気付かない事を願うばかりだ。
「それでラブレターを渡したり貰った事は?」
「渡した事は無いけど貰った事ならあるよ。同じ学年だった男子からね。…でも罰ゲームだったんだよね」
「ご愁傷様です」
可哀想すぎる。なんかごめん思い出さして。
「まぁ大丈夫だっていつかそれっぽい物を渡してやるからその事を忘れておけ」
「竜から貰っても嬉しくないよ。その男子は学年でも1番かっこいい人だったんだよ?」
んな事知らねぇよ。可哀想だと思えなくなってきた。
「ちょっとの間だったけど夢を見れて良かったよ」
「お前、その人の事が好きだったのか」
「いや、学年で1番かっこいい人から貰った事が嬉しかっただけで別に好きじゃないよ」
何やねんお前、グーパンしてやりてぇ。
でも大人が子供に暴力を振るったとして周りから人として見られなくなりそうだ。
「そういえば朝の食堂にいる冒険者の数減ったか?前よりいなくなっている気がする」
「私も知らないよ、星奏は何か知ってる?」
雫、また忘れているな。
しょうがない声真似して騙してみるか。
「私も分からないな」
「そう?ちょっと怖くなってきたよ」
「そうか、私ももうちょっと調べてみよう」
「竜、私とゲームしない?星奏が理由を知ったらその理由を当てるゲーム」
なんでこうも上手く騙されるんだ。
朝ごはんを食べる事に夢中になりすぎて気付いてないのか?
そんなに美味しいのか、白ご飯?
どうやってそれだけで食べているんだ。
「星奏、なるべく早くね」
「あぁ分かっ…ゴホッゴホッやべ、喉が痛いちょっと高い声を維持するのも楽じゃないな」
雫がえっという顔をしながら俺の方を見る。
そいしたらみるみる顔が赤くなっていき。
「…騙してたの?」
「お前、面白かったぞ。ちょっと高くしただけの声に星奏、星奏って綺麗に騙されてくれて本当に笑いを堪えるので必死だったわ」
「竜の馬鹿!」
「ぐへぇ」
雫にグーで殴られて地味に吹っ飛んだ。
「全く。ところで竜、今日の新聞は買わないの?」
「今日の新聞を買うのを忘れていたわ。お前を騙すのが楽しくて楽しくて」
雫が涙目でポカポカ殴ってくるがさっきよりも弱く小学生に肩叩きされている親の気分だ。
「せっかくだし買うか。おばちゃん新聞1部」
「1500円です」
税金が導入されてから少し高くなったなとは思っていたが流石に50パーセントの増税はどうかと思う。
「はいどうぞ」
「何これ?いつもより大きくない?」
「今日は特別号があるからね。だからいつもより値段が高いんだよ」
「竜、早く見せてよ」
特別号ってなんだろう?カジノでも出来たのだろうか。
「藤原ふじわら家と豊臣とよとみ家が政略結婚。藤原誠華せいかと豊臣重信しげのぶが結婚し町が合併…か。誠華って星奏と同じ読み方の人がいたもんだな」
雫が覚悟を決めたような顔をする。
「竜…実は星奏の事で隠していた事があるの」
隠し事か水臭いじゃないか。
なんだ?実は痛風だったとかか?
「藤川星奏は偽名。本当の名前は藤原誠華だよ。この町の貴族のご令嬢、藤原誠華」
「…まじか?てことは星奏は結婚するってことか?ていうか名前変えるならしっかり変えておけよ誠華と星奏って読み方一緒じゃん」
「今更そこを気にする?普通結婚するところを気にするでしょ?」
星奏がいい所のボンボンってのは分かった。
色々習わされていたのも納得だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます